1924年にドイツで設立された音響機器ブランドのbeyerdynamic。同社DTシリーズのヘッドホンやリボンマイクのM 160は、多くの音楽スタジオや放送局で使用されている。そんなbeyerdynamicが、オープンイヤー型トゥルーワイヤレスイヤホンVerio 200をリリース(価格:オープンプライス/市場想定価格39,500円前後)。ワイヤレス専用機ということで本来音楽制作用途のものではないものの、今回Verio 200を国内取扱元のオーディオブレインズからお借りすることができたので、実際に使用してレビューする。
耳穴にドライバー部分を覆い被せて使用するオープンイヤー型
読者の方々は“耳に入れないイヤホン”と聞いて何を思うだろうか? Verio 200はイヤホンには比較的珍しいオープンイヤー型を採用しているため、耳穴に挿入するイヤーチップやノズルなどが存在せず、耳穴の上にドライバー部分を覆い被せる形で音声を試聴する。個々の重量は10.8gで、カラーバリエーションは3色展開。耳に固定するためのイヤークリップにはシリコンストラップとメモリーワイヤーを採用し、快適な装着性を実現するという。
接続方式はBluetoothの最新バージョン5.3を使用し、オーディオコーデックはQualcomm aptX AdaptiveおよびAACをサポート。バッテリーは1回の充電で最大8時間、充電ケース使用で合計27時間の再生が可能だ。また、IP54認証の防滴性を完備。cVcテクノロジー搭載マイクを内蔵するため、明瞭な音声通話も可能だという。
専用ケースは大人の手のひらに収まるコンパクトサイズ
早速、箱を開けてみると専用ケースに入ったbeyerdynamic Verio 200が登場。大人の手のひらにすっぽりと収まるコンパクトなサイズ感が特徴だ。タバコの箱よりも一回り大きいくらいで、持ち運びやすさを考慮した設計になっている。マットな質感とシリコンの肌触りが高級感を演出し、おしゃれなデザインも際立つ。
専用ケースからVerio 200を取り出すと、片側につき約10gというが重量どれほど軽いのかを体感できる。Verio 200は、流線型のフォルムとハウジングにあしらわれたシンプルなブランドロゴがスタイリッシュ。無駄な凹凸もない未来的なデザインが魅力だ。
前述したとおり、Verio 200はオープンイヤー型のためイヤーチップやノズルなどはない。耳に当たる部分は円形のデザインになっており、ドライバーを保護するグリルかつサウンドホールが下部に採用されている。
Verio 200の装着感は非常に快適で、耳の後ろにシリコンストラップを挟むように装着する。サウンドホールが耳の穴に被さる感覚が非常に特徴的だ。耳の穴を密閉しない設計なので通気性がよく、長時間使用しても蒸れにくい。耳穴に突っ込むタイプ(カナル型)のイヤホンで耳が蒸れることがあった自分にとって、このデザインは非常に快適だ。周囲の音も遮断されず自然に聞こえるため、外出時や日常生活でも安心して使用できるだろう。
また、筆者は眼鏡をかけているのだが、その上から装着しても違和感は全くない。眼鏡のモダン部分(耳の後ろにかかる部分)がVerio 200のシリコンストラップに軽く挟まることでしっかりと固定されるが、痛みを感じなかったのは、メモリーワイヤーの弾力が絶妙だからだろう。試しにVerio 200を装着した状態で首を上下左右に振ってみたが、軽量なこともあり外れる心配はない。これならランニング時の使用でも安心だ。
耳の周りで立体的に音が鳴っているようなサウンド
次はVerio 200の音質をチェックする。Verio 200の接続方法は非常に簡単。Verio 200を専用ケースにセットし、ケース内側の上部にあるボタンを押すだけでデバイス側が認識する。そのためBluetoothのペアリング作業はスムーズで、手間なく使用を開始できた。
あるボーイズグループのダンストラックを試聴したところ、第一印象は“音場の広がりが際立っている”だ。それはイントロの時点からすぐに認識できた。従来の密閉型イヤホンとは異なる、耳の周りで立体的に音が鳴っているような感覚だ。これはどちらかというと開放型ヘッドフォンに近い鳴り方で、頭全体が音に包み込まれるような印象を受ける。オープンイヤー型イヤホンの特性上、音漏れが発生する可能性があるため、公共の場や静かな環境での使用には注意が必要だ。
ボーカルの解像度は高く、クリアなボーカルとエフェクトでひずんだボーカルの違いが明確に分かる。高域ではボーカルのブレス成分やリバーブのテールまで鮮明に聴くことができた。中低域においては、エレキベースのラインや芯の部分がしっかりと再現され、低域はややあっさりめながらもバランスが良い。左右に広がるコーラスのハーモニーは分離良く聴こえ、定位感も優れている。
2曲目に試聴したのは、アップテンポなバンドサウンド。こちらは中域に集中したミックスになっており、ボーカルの解像度は1曲目より感じられないが、エレキベースのラインやエッジはしっかりと聴き取れた。音場の広がりや奥行き感は、前曲に比べて狭い印象だ。
3曲目に試聴したUSのヒップホップ/トラップでは、サンプリングされたストリングスやブラスの質感が明瞭に伝わり、オープン型特有のあっさりとした低域の中にも超低域の存在感がしっかりと感じられる。ほかの楽曲では、低域がしっかりと再現されていたものもあった。また、ジャズソングではドラムのダイナミクスがよく分かり、ステレオ感の広さも顕著で、音の定位感が非常に良いことが確認できた。
つまり、Verio 200は楽曲の特性を的確に再現し、音の細部までしっかりと描き出す高品質なイヤホンであることが分かる。全体的には、音のクリアさと音場の広がりが特徴的だ。解像度の高さは、Qualcomm aptX AdaptiveやAACといったオーディオコーデックに対応していることも大きく関係しているだろう。遅延は全く気にならず、リアルタイムに再生/一時停止をしても違和感なく楽しめた。
ちなみに音楽制作の際にもVerio 200を試用してみたが、DAWのトランスポートをコントロールする上で何のストレスも感じず、快適に作業を進めることができた。音質については既に述べたとおり、ミックスチェックにも使えるレベルだと言える。
防滴性能を備え、1回の充電で最大8時間の連続使用が可能
Verio 200をスマホに接続し、通話時の音声もチェック。Verio 200は、cVcテクノロジーという音声処理技術を搭載した2基のマイクにより、背景ノイズの抑制にも優れているという。そこで、あえてファンの音が大きい空気清浄機の近くで通話してみることに。結果、相手はファンのノイズに気づかず、会話がスムーズに行えた。声質は中域に特化しており、会話においては十分だと言える。
バッテリー性能も優秀で、1回の充電で最大8時間の連続使用が可能なため、1日中使い続けることができた。10分の充電で1時間再生相当分のチャージが行えるのも魅力だ。また充電ケースの充電ポートはUSB-C端子を採用しており、使い勝手も良い。さらに防滴性能を備えているため、炎天下で汗をかいたり、突然雨が降ってきても安心だ。日常生活やアウトドア、スポーツなどさまざまなシーンで快適に利用することができるだろう。
5バンドEQ搭載のアプリbeyerdynamic APPでカスタマイズ
最後にbeyerdynamicのBluetooth対応ヘッドホン/イヤホン専用アプリ=beyerdynamic APPも試してみたい。beyerdynamic APPはカスタムEQ機能を搭載し、そのユーザープリセット管理のほか、各機能設定などが行える便利なアプリだ。iOSおよびAndroidの両方で使用できるので、自分はiPhoneにインストールした。
iOS用beyerdynamic APPとVerio 200のペアリングは、スマホとBluetoothで接続することで簡単に完了。beyerdynamic APPのユーザーインターフェースはシンプルで使いやすく、初めてのユーザーでも直感的に操作できるだろう。
メイン画面では、左右のイヤホンや専用ケースのバッテリー残量が表示され、EQ/Auto Power Off(自動電源オフ)/Assistant/Custom Keyといった各機能設定画面へのアクセスが可能だ。EQ設定画面では下部に5本のスライダーがあり、64/250/1,000/4,000/8,000Hzという周波数ポイントをそれぞれリアルタイムで調整できる。EQの効き具合はなめらかで、これは初めて使う人でもサウンドが破綻しないよう設計されているのだと考える。
また、音楽ジャンルごとにEQプリセットが用意されており、音楽に合わせた最適な設定を簡単にセレクトできる。Assistant画面ではボイスアシスタントのオン/オフを、Custom Key画面ではハウジングのタップ/ホールド操作をカスタマイズ可能だ。全体的な利便性は高いので、beyerdynamicのイヤホンユーザーにはbeyerdynamic APPをお薦めしたい。
Verio 200は、オープンイヤー型としての優れた音質と快適な装着感を兼ね備えたイヤホンだ。なんと言っても音場の広がり一番の特徴で、楽曲の細部までクリアに再現する能力がある。日常のあらゆるシチュエーションで高音質のリスニング体験を求めるユーザーだけでなく、音楽制作を行っているユーザーにもお薦めしたい。オープンイヤー型デザインにより通気性は良く、長時間の装着でも快適なので耳への負担を軽減したい人にも向いているだろう。ぜひ一度“耳に入れないイヤホン”の魅力を試してもらいたい。