フックアップが運営するオンライン・ストアのbeatcloudから、注目のソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのは、気鋭プラグイン・デベロッパーのNEW SONIC ARTSがリリースする4製品=Vice、Freestyle V1.5、Granite、Nuance 2です。ビート・メイキングに必須なサンプラーや膨大なプリセットを収録するグラニュラー・シンセなど、どれもクリエイティブかつ有用性の高いプラグイン/ソフト音源だと言えます。いずれもMac/Windowsで動作し、AU/VSTプラグインおよびスタンドアローンとして使用可能です。それでは、一つずつ順に見ていきましょう!
スライスしたサンプル一つ一つに
エフェクトやモジュレーションを施せるVice
Viceは強力なソフト・サンプラーです(画面①)。任意のサンプルを画面上段にドラッグ&ドロップするだけで、自動的にスライスが完了します。スライス・モードは複数あり、トランジェントに従ってチョップをするDETECTモード、DAWのグリッドに従ったGRIDモード、自由なチョップを実現するMANUALモードなどから選択可能です。
DETECTモードでは、画面下段の左端にあるSENSノブを用いてトランジェント検知精度を調節することもできます。サンプル上にはスライス・マーカー(黄色い縦線)がリアルタイムに反映されるため、サンプルをどのようにスライスしているのかが視覚的に把握しやすいです。
Viceは一瞬でサンプルを自動スライスするため、トランジェント検知の時間がかかり過ぎてせっかくひらめいたアイディアを忘れてしまった!ということもありません。動作も軽快ですし、エディットしたサンプルはWAVファイル形式で簡単にエクスポートできたり、トリガー情報のみをMIDIファイルに書き出すことも可能です。
さらにViceでは、スライスしたサンプル一つ一つに細かいアレンジを施せます。内蔵エフェクトはローパス/ハイパス・フィルターやビット・クラッシャー、コンプとドライブを複合したものなど複数を備え、最大4つまでアサインOK(画面②)。さらにエンベロープやモジュレーション、リバースなどを個々に併用できるため、元のサンプルから想像できないほど多様なサウンドを作り出すことができます。
僕なりの使い方ですが、スライスしたすべてのサンプルを選択し、モジュレーション・タブからRANDOM1→PITCHと設定した状態で再生すると、格好良いループが無限に生成されるため、それをモチーフとしたドラム・パターンやアレンジ制作を行うのも面白いのではないでしょうか。
もちろんスタンドアローンで立ち上げてさまざまなアイディアを試してみたり、エディットしたりということも可能です。とにかくViceは、スライスしたサンプル一つ一つに対して細かい加工ができるので、現代の作曲家はもとより、先鋭的なアレンジを施したいクリエイターにとっては必携プラグインと言えるかもしれません。
Freestyle V1.5で
複数のプラグインを直感的にルーティング
Freestyle V1.5は、NEW SONIC ARTSやサード・パーティ製プラグインのホストとなるアプリケーション/プラグイン(画面③)。DAWによってはインサートできるプラグイン数が限られていたり、パラレル・ルーティング設定が複雑だったりしますが、そんなときにFreestyle V1.5があると便利です。内部で複数の音源やエフェクトを簡単に組み合わせて音作りすることができます。
ソフト音源やプラグイン・エフェクトは、画面左端のブラウザーからドラッグ&ドロップで追加し、簡単にルーティングが可能。とにかく直感的で柔軟な音作りがしやすい印象です。VSTプラグインにも対応しているため、APPLE Logic ProでVSTプラグインを使いたい場合にも有効でしょう。
また1つのピアノロールに複数のソフト音源を割り当てられるKeySplitや、1つの音声を周波数帯域ごとに分けて出力できるBandSplitなど、ユニークなモジュールも搭載。もちろん複数のソフト音源やプラグイン・エフェクトのパラメーターを、画面上段に並ぶマクロ・コントロール・ノブで統括して制御することもできるので、モジュレーションなどを多用するようなサウンド・メイキングを求める“音職人”に適したのツールだと言えます。
さらにFreestyle V1.5は、外部のMIDIコントローラーにも対応。プラグイン内のあらゆるパラメーターを操作できるので、フィジカル的なアプローチをオートメーションに記録したり、パフォーマンス時にも活用できるでしょう。スクリーンショット機能を使って、ワンクリックで設定を保存/呼び出しできるのも魅力的です。
今回試した4製品の中でも個人的にお気に入りなのが、ソフト・シンセのGranite(画面④)。グラニュラー・シンセは基本的に複雑なパラメーターを搭載しているものが多いのですが、Graniteの画面はシンプルで直感的な操作性を実現しています。またViceと同じく、好みのサンプルを画面上段にドラッグ&ドロップするだけでインポートが可能です。
Graniteは全部で4つのタブを備えており、これらは全体のエンベロープを制御するMasterタブ、細かいシンセシスが行えるGrainタブ、ひずみやリバーブなどのエフェクトを調整する2つのFXタブとなっています。Graniteでサウンド・メイキングをして思ったことは、音の厚みと粒立ちの良さの両方を兼ね備えているということ。まさにGraniteでしか出せない説得力のある音が作れます。
また、プリセットも膨大に収録。お薦めの応用方法としては、どれか1つプリセットを選択したら、サンプルを自分好みのものに差し替えるという方法。これだけで、あっという間にオリジナル・サウンドを生成することができます。さらにRecordable Modulation Rings機能を使えば、リアルタイムに変化させたパラメーターの動きを各ノブに記憶させることが可能。クリエイティブなアイディアを直感的に表現したいときにもGraniteはお勧めです。
最後はソフト・サンプラーのNuance 2(画面⑤)。ROLAND TR-808系キック・ベースや、ピッチ感が肝となるようなボーカル・サンプルを扱うとき、僕は今後このNuance 2を用いるでしょう。4×4のパッド・ビューも搭載しているため、ドラム・キット制作にも使用できます。
Nuance 2で気に入ったのは、サンプルをさまざまな音高で鳴らしても、どれも自然に聴こえるというところです。またモジュレーションではUNISONのスプレッド具合が優秀。音の広がり具合(ステレオ・ワイド)を自由に設定できるため、ウィンド・チャイムやベル系の音に適用すると、きらびやかな空間系テクスチャーが一瞬で作れてしまいます。
さらに内蔵ピッチ・シフターの質も良いので、ランダム・モジュレーションをかければ面白いサウンドが作れるでしょう。まさにNuance 2はシンセサイザー並みに使えるソフト・サンプラーと表現しても過言ではありません!
今回はNEW SONIC ARTSの4製品を試してみましたが、どれも“シンプルな操作性”を備えつつ、細かい音作りが行える画期的なツールだと思いました。プリセットも豊富なので、ビート・メイカーや編曲家の方はぜひ試してみてほしいです。
NEW SONIC ARTS Vice / Freestyle V1.5 / Granite / Nuance 2
価格:Vice(11,800円)、Freestyle V1.5(14,500円)、Granite、Nuance 2(いずれも11,800円)
Requirements
■Mac:OS X 10.7.5以上、AU/VST(64ビット)対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows Vista以上、VST(64ビット)対応のホスト・アプリケーション
■AU/VSTプラグインおよびスタンドアローンに対応
Blacklolita
サウンド・デザイナー/音楽クリエイター。ダブステップを軸にさまざまなダンス・ミュージックやゲーム音楽を制作する。また、サンプル・パックのデベロッパー、KYMOGRAPHの運営も手掛けている。
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