フックアップが運営するオンライン・ストアのbeatcloudから、注目製品やソフトウェアをピックアップする本コーナー。今回レビューするのは、2019年の発足以来、クリエイティブなプラグイン・エフェクトを開発し続けている気鋭ブランド、BABY AUDIO.の7製品です。いずれもMac/Windows対応で、AAX/AU/VST/VST3プラグインとして動作します。それでは1つずつ見ていきましょう!
TaipはAIアルゴリズム採用のサチュレーション、空間処理に特化したSpaced Out
●Taip
デジタル環境では得られない、アナログの質感を再現するテープ・エミュレーター。この手のプラグインは既に世の中へたくさん出回っているのですが、それらと違う点は、DSPではなくAIアルゴリズムを使用していること。これにより、絶妙なアナログのニュアンスを再現してくれます。
まず、画面左にあるDRIVEでサチュレーションの量を決定し、同中央にあるMIXで原音とのバランスを調整します。この際、画面左下にあるWEARのパラメーター値が上がっているとフランジャー効果を得ることができ、近年よく聴くローファイ・サウンドのように音を揺らすことが可能です。そのほかの細かい音作りは、画面下段にあるNOISEやGLUE、PRESENCEなどのパラメーターで行えます。個人的には打ち込みのドラムやソフト・シンセ/ピアノなど、デジタルな質感を持つ音ほどTaipを使う価値があると思います。
●Smooth Operator
“インテリジェント・スペクトラル・バランサー”とうたわれているSmooth Operatorですが、具体的にはEQ/コンプ/レゾナンス・サプレッサーが一つになったプラグインで、サウンドを手軽に補正することができます。
画面中央にある◉をマウスで下方向にドラッグすると、全体にかかるエフェクト量が上がります。そして◉の両側にある計4つの○で、音色調整を行うという仕様です。画面最下段にあるFOCUSではインテンシティ、つまり入力信号に対するエフェクトの反応具合を調整できます。推奨は70〜90%付近だそうですが、音を聴きながら気に入った値にするのもよいでしょう。
またサイド・チェイン・モードもあるので、ほかのトラックの周波数をモニタリングしながら音色調整することが可能。ドラムのキックとベースにおける、低域のすみ分け処理などにも使えそうですね。
●Spaced Out
モジュレーションと16ステップのディレイ・シーケンサーを搭載した空間系マルチエフェクト・プラグイン。ステップ・シーケンサーや2つのXYパッドによってクリエイティブな空間エフェクトを直感的に演出できます。
画面中央にあるXYパッドでは、上下方向でウェット/ドライを、左右方向でディレイ/エコーのかかり具合の調節が可能で、これは2種類の空間処理が行えるということです。頭の中では処理後のサウンドをイメージできているけれど、実際にどう設定すればよいのか分からない場合、とりあえずSpaced Outを立ち上げ、XYパッドを触ってイメージに近づける、という使い方もできるでしょう。
パラレル・コンプ処理を手軽に行えるParallel AggressorとI Heart NY
●Super VHS
VHSはかつての家庭用ビデオ規格のこと。Super VHSは絶妙にデチューンされたシンセ・サウンドや、温かみのあるテープ・サウンドのようなローファイ感を演出することができるプラグインです。まずは画面中央にある3つの白いノブから解説しましょう。Heatはサチュレーション、Washは1980年代のサウンドをほうふつとさせるリバーブ、Driftはピッチ・シフターのような効果を得られます。
画面左下にあるStaticはノイズを付加でき、同右下のShapeではオーディオのサンプル・レートを下げて音を汚すことができます。また画面中央にあるMagicをオンにすると、コーラスのようなエフェクトがかかります。自分はボーカル・トラックに使ってみたのですが、Heatを上げてMagicをオンにするとまるでシンセのような音に一瞬で変化したので、これはいろいろ試してみたくなるプラグインだと思いました。
●Parallel Aggressor
パラレル・コンプ処理に特化したプラグインです。入力信号は、圧縮された音/原音/ひずみ成分の3つに並列的に分けられ、画面中央にある3つのフェーダー、SPANK LVL/DRY LVL/HEAT LVLで自由にこれらをミックスすることができます。さじ加減をお好みで調整して、パンチのあるサウンドを作ることができるでしょう。
例えばドラム・ループに使用すると、生ドラムのニュアンスを維持しながらも、タイトでパンチーなサウンド・メイクが可能になりました。
●Comeback Kid
アナログの質感を再現するディレイ・プラグイン。画面左上にあるSHAPERセクションでは、ディレイ成分のトランジェントやフィルターの調整が可能です。同右上にあるFLAVORセクションにあるCHEAPではビンテージ感を演出でき、TAPEでサチュレーションを、SWIRLでフェイザーを加えられます。SAUCEはアナログ・ディレイの挙動を再現するパラメーターで、ここにもプラグインのこだわりを感じました。なお、OUTPUTセクションにあるDuckerは、入力信号に付加したディレイ成分を減らせるため、クリーンでモダンなサウンドにすることができます。
このようにComeback Kidはたくさんの機能を搭載していますが、SHAPER/FLAVOR/STEREO/OUTPUTという4つの要素を調整するだけなので、初心者にとってもシンプルで使いやすいディレイだという印象です。
●I Heart NY
Parallel Aggressorと同じく、パラレル・コンプ処理を専門とするプラグインですが、こちらはより機能が厳選されたものです。SPANKでコンプとEQ処理が組み合わさったNYスタイルの効果が得られます。
画面中央にあるPARALLEL SIGNALフェーダーで原音に加えるSPANKのレベルを決め、OUTPUTで原音+SPANKを合わせたレベルを調整可能です。個人的にはドラムのバスにかけるのがいいと思っています。打音一つ一つの粒立ちが良くなり、グルーブ感がさらにタイトになりました。
BABY AUDIO.のプラグインを使って思ったことは、全体的にエフェクトが効きやすい傾向だということ。BABY AUDIO.は“複雑で難しい処理をシンプルに”をモットーとして掲げているそうで、自分も非常にそれを感じました。
主にアウトボードで処理することが中心だった時代では、それなりの制約がある中で、新しいサウンドや常識にとらわれない使い方を発見することがたくさんあったと思います。今回レビューしたBABY AUDIO.のプラグイン7種類は、そんな開拓精神を思い出させてくれるものたちだと言えるでしょう。クリエイティブな使い方をして、まだ誰も聴いたことのないようなサウンドを探してみてはいかがでしょうか?
どのプラグインも個性的ではありますが、どんな音にも使える高い汎用性を備えています。デジタルな音にあふれる現代で、ローファイなサウンドを求める人にはもちろん、ユニークなサウンドを見付けたいクリエイターやエンジニアにお薦めです。全プラグインを同梱したバンドル、Baby Audio Bundle(beatcloud価格:25,100円)もあるので、ぜひ!
BABY AUDIO.
beatcloud価格/Taip:8,700円、Smooth Operator:8,700円、Spaced Out:8,700円、Super VHS:6,150円、Parallel Aggressor:6,150円、Comeback Kid:6,150円、I Heart NY:3,650円
Requirements
■Mac:OS X 10.7以降(Apple Silicon対応)、AAX/AU/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows7以降、AAX/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
MONJOE(DATS)
【Profile】4人組バンドDATSでボーカル/シンセ/作曲を担当。向井太一やFIVE NEW OLD、雨のパレード、AAAMYYYといったアーティスト/バンドへの楽曲提供やアレンジ、リミックスなど幅広く活動する。