フックアップが運営するオンライン・ストアのbeatcloudから、注目製品やソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのはPSP AUDIOWAREの大ヒット製品とも呼べるコンプ/リミッター・プラグイン、VintageWarmer 2です。Mac/Windowsに対応しており、AAX/AU/VST/VST3フォーマットで使用可能。僕はVintageWarmerがバージョン1のころから、約10年以上も愛用しています。それではじっくり見ていきましょう。
独自技術FATにより温かみのあるアナログ・サウンドを付加
VintageWarmer 2は、大きく分けて3つの機能を搭載しています。まず1つ目はサチュレーター(画面①)。画面中央にある大きなDriveノブでインプット量を決めることにより、サチュレーションの度合いを調整できます。PSP AUDIOWARE独自技術のFAT(Frequency Authentication Technique)により、リアルなアナログの質感を付加できるのです。
2つ目はコンプ/リミッター。Kneeノブでスレッショルド付近の圧縮カーブを整えられるのですが、値が0のときがハード・ニー状態となり、徐々に値を上げていくとサチュレーションのエッジも立ってきます。だいたい僕はDriveとKneeの2つのノブを触って理想の音に近付けるのですが、倍音が豊かに変化するさまは分かりやすいので楽しいです。特に輪郭の見えにくいキックやベースなどにかけると、レコードでよく聴くようなアナログ感のある音に早変わりします。
Kneeノブの真下にあるSpeedノブでは、アタックとリリースの基本的な設定を同時に行えます。またRelMulノブではリリース・タイムを微調整でき、Longボタンでより長く、Autoボタンで自動調整が可能です(画面②)。
その右にあるCeilingノブはスレッショルド的な役割で、コンプ/リミッターのかかる“しきい値”を決定できます。またBrick Wallボタンをオンにすると、アウトプット・レベルが0dBFSを超えないようにできるので便利です。
3つ目は、画面右側に搭載されたEQ。High Adjustで高域のゲインを、Low Adjust低域のゲインを定め、下段にあるFreqノブでそれぞれの周波数帯域を選択可能です。これらは普通の2バンドEQに比べてアグレッシブな質感なので、EQのファースト・チョイスと言っていいくらい個人的に気に入っています。
Mixノブは、VintageWarmer 2におけるエフェクトのドライ/ウェット量の割合を決めます。右隣にあるOutputノブでは、DriveやKnee、High/Low Adjustノブなどでブーストされた最終レベルを調整可能です。
次は画面下段を見てみましょう(画面③)。“PSP Vintage Warmaer2”と記載されたロゴ部分をクリックすると、詳細設定画面に切り替わり、VUメーターや各パラメーターの設定が可能になります。またCPU負荷が少し大きくなりますが、Fatスイッチをオンにすることで、オーバー・サンプリング処理モードが有効になります。滑らかかつ、アナログライクな質感することが可能です。
この右隣にあるのは、Single/Multiモードの切り替えスイッチ。Singleモードは1バンドなので、全体的な処理がしやすくなります。Multiモードは3バンドになるため、クリアかつ立体的な音質にすることが可能です。そしてStereo/Monoの切り替えスイッチでは、L/Rの切り替えも行えます。画面右下にあるLink Off/Onスイッチは、ステレオの両チャンネルを同時に処理するか、個別に処理するかを選択可能です。
面白いと思ったのは、各ノブ上にマウス・カーソルを重ねると、画面中央のDriveノブの下にあるスロットに数値が現れること(画面④)。遊び心のあるレトロなデザインに愛着を感じます。
実用的で優秀なプリセット群。ミックスからマスタリングまで幅広い用途
実際の使用感についてですが、VintageWarmer 2はミックスにおいてデジタル臭さを無くしたいときや、エッジを立たせたいときなどに有効です。例えばソフト音源で弾いたピアノやギターは生音のように、オルガンやクラビの音は実機のようなレトロな音質に、打ち込みのキックやスネアは生ドラムのようなサウンドになります。また、楽器を録音したオーディオ・トラックにかけると、1970〜80年代風の録り音に変化。倍音が増えるため、とても温かみのあるビンテージ・サウンドになります。
VintageWarmer 2のプリセットも優秀で実用的なので、幾つかご紹介しましょう。“Mix First Aid 1〜4”は、地味なサウンドをガラッとアグレッシブなサウンドに一変させることができます(画面⑤)。まずはこれらの中からどれか一つを選択して、DriveやKneeノブを調整するとよいです。すぐさま理想の音に近付けることでしょう。
次は、“MultiBandCompLim Med”。この前後に“MultiBandCompLim Light”と“MultiBandCompLim Heavy”もありますが、“Med”がちょうどよいです。サウンドに芯を持たせたり、ドラムのバスをパラレル処理するときに使うと非常に立体的な音像に仕上げられます。
ベースをラインでしか録音していないときは、“Bass Line Track”がお薦め。FENDER Precision Bassっぽいコシのある音になるので、例えばFENDER Jazz Bassで録音してしまって、後から“やっぱりPrecision Bassがよかった”と思ったときなどに試してみてください。
“Snare Drum Track”はスネアの音抜けを良くしたいときや、スネアを印象的なサウンドにしたいときに効果的。このプリセットを選択後にDrive/Knee/Mixノブを調整すれば、程良いサウンドになるでしょう。
ほかにも“Track Tape Slow/Normal/Fast”がありますが、僕は“Slow”がちょうど良い印象。オルガンやホーンなどにかけるとレトロな質感となり、オケにもなじみやすくなりますが、エッジが立つのでレベルを抑えても存在感が残ります。
僕はこのプリセットをボーカルにも多用します。声をエッジーかつ、ビンテージなサウンドにしたいときにもってこいです。最後のひと押しとして、1.5kHz付近をHi Adjustで若干持ち上げると、芯のある心地良い質感になります。まだVintageWarmer 2を使ったことがない方や初心者の方は、こういったプリセットを試してから微調整するとよいでしょう。
VintageWarmer 2はドラム、ベース、ギター、シンセ、ホーン、ボーカルなど、すべてに有効に使える万能コンプ/リミッター・プラグイン。ガラッと印象を変えるようなアグレッシブな処理もできれば、ミックス時の微調整から、マスタリング用途としても使えるので、アマチュアからプロまで幅広くお薦めできます。レトロなビジュアルですが音は格別に良いため、あらゆる場面で活躍することでしょう。
なおVintageWarmer 2を購入すると、簡易版のMicroWarmer(画面⑥)とバージョン1のVintageWarmer(画面⑦)も同梱されてきます。特にMicroWarmerはCPU負荷が小さくお薦めなので、ぜひ試してみてください!
PSP AUDIOWARE VintageWarmer 2
価格:16,530円
Requirements
■Mac:Mac OS X 10.10〜macOS 12(APPLE Silicon M1をサポート)、AU/AAX/VST/VST3(64ビット)対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows 7〜11、AAX/VST/VST3(64ビット)対応のホスト・アプリケーション
yasu2000
【Profile】NYのBushwick Studioを経て、現在はbig turtle STUDIOSのレコーディング/ミックス・エンジニアを務める。origami PRODUCTIONS所属のアーティストのほか、あいみょんなどを手掛けている。