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AUSTRIAN AUDIO Full Score One レビュー:精密にトランジェントを再現する独自テクノロジーを備えたヘッドホン・アンプ

AUSTRIAN AUDIO Full Score One レビュー:精密にトランジェントを再現する独自テクノロジーを備えたヘッドホン・アンプ

 以前はオーディオ・インターフェースやモニター・コントローラーなどに標準装備されたヘッドホン・アンプを使うのが普通でしたが、近年、いろいろなメーカーからヘッドホン・アンプ単体機が発売されています。20年前、サンレコの機材自作記事でヘッドホン・アンプが取り上げられました。それは乾電池駆動で、アンプの出力から直にヘッドホンをドライブするという、今思えば“そんなのでいいの?”というようなものでしたが、音質はオーディオ・インターフェースなどの標準装備のヘッドホン出力よりはるかに音楽的で、その重要性を知った次第です。それから私はヘッドホン・アンプを数機種購入して、現在では気に入った2機種を用途に応じて使い分けています。それだけヘッドホン・アンプにこだわる私が、AUSTRIAN AUDIOのヘッドホン・アンプFull Score Oneをどう感じたのかを報告しようと思います。

出力インピーダンスの低さにより、さまざまなヘッドホンでのリスニングに対応

 まずはFull Score Oneの基本的な情報から。元AKGの技術者らによって2017年に創業されたAUSTRIAN AUDIOは、OC818をはじめとするマイクでその地位を確立し、昨年末、満を持してヘッドホンのフラッグシップ・モデルThe Composerをリリースしました。Full Score Oneは、その約半年後に発売されたものです。

 電源回路は入力電圧100-120V/220-240Vの切り替えが自動なのでスイッチング電源かと思いましたが、トランスを使ったリニア電源です。スタンバイ時の省電力のためにスイッチング電源も装備していますが、メイン電源が投入された段階で、ノイズの元となり得るスイッチング電源がシャットダウンされるという手の込んだ設計です。

 リア・パネルのオーディオ入力端子はDCバランス(XLR)とアンバランス(RCAピン)の2つ。切り替えはなく、両方に入力すると音が混ざってしまう音質優先タイプです。

リア・パネル。オーディオ入力はXLR、RCAピンをそれぞれ1系統ずつ装備

リア・パネル。オーディオ入力はXLR、RCAピンをそれぞれ1系統ずつ装備

 フロント・パネルには電源スイッチ、ボリューム・ノブ、ヘッドホン出力としてバランス接続用の4ピンXLR端子と6.35mm TRSフォーン端子、さらに本機の特別な機能であるトゥルー・トランジェント・テクノロジー(TTT)のオン/オフ・スイッチがあります。

フロント・パネル。左から電源スイッチ、トゥルー・トランジェント・テクノロジー(TTT)スイッチ、ヘッドホン出力(バランス4ピンXLR、アンバランス6.35mmフォーン×2)、ボリューム・ノブ。最大3台のヘッドホンを同時接続することが可能

フロント・パネル。左から電源スイッチ、トゥルー・トランジェント・テクノロジー(TTT)スイッチ、ヘッドホン出力(バランス4ピンXLR、アンバランス6.35mmフォーン×2)、ボリューム・ノブ。最大3台のヘッドホンを同時接続することが可能

 これを押すと音の立ち上がり時間を2パターンで切り替え可能です。設定値はリスニング・テストの結果に基づいて定義されたとのこと。標準的な立ち上がりスピード、つまりTTTオフ時は6μsですが、オン時には0.2μsと速くなります。

 入力のインピーダンスは100kΩと十分に高いため、どのような機材でもつなぐことができます。またヘッドホン・アンプで一番重要なのが出力インピーダンスですが、同社の理論としては、出力インピーダンスを可能な限り低くすることで、接続されたヘッドホンの周波数応答の偏差をできるだけ小さく維持したいという考えだそう。小型のパワー・アンプと同様の構成で、ヘッドホンのインピーダンスが大きく変動しても動作に影響がないように、0.02Ω未満の値です。例えば300Ωを超える高インピーダンスのヘッドホン(より多くの電圧が必要)から32Ω以下の低インピーダンス/高感度の機種(インイヤ・モニター・タイプなど)、さらには低感度/低インピーダンスの平面磁気ドライバーまで、10〜600Ωのさまざまな機種に対応するのです。

ヘッドホン・アンプ専用機ゆえの解像度の高さ コンプやEQポイントの判断に最適なTTTの威力

 では、音質はどうなのか? 私が愛用しているThe Composerで音を聴いてみましょう。まずはアンバランス接続です。当たり前ですが、一般的な音響機材内蔵のヘッドホン・アンプとは別次元の解像度の高さ。音が団子にならずに、アタックと余韻の判別が付きやすいです。汎用のヘッドホン・アンプはインピーダンスの設定が高いものも多く、その場合、アタックの後にないはずの余韻感(リンギング現象)が付いて正確なサウンドを把握できないことがあるのですが、本機は低インピーダンス駆動で余計な余韻が付くことも少なく、音の長さを正確に把握することができました。周波数特性も位相特性もMHzオーダーまでフラットなので、可聴範囲の各特性が気になることも全くありません。

 続いてはバランス接続。音の元気さや押し出しはアンバランス接続のほうがある印象ですが、バランス接続ではレンジ感の広い豊かな音がします。ヘッドホンのチャンネル・セパレーションの業界標準値は60dBとされていますが、アンバランス接続の場合は左右のグランドが共通なために、インピーダンス32Ω未満のヘッドホンを使用するとこの値を実現できず、40dBを下回ることもあります。その際は左右でグランドが独立したバランス接続をすることにより、90dB以上のチャンネル・セパレーションを得られるということです。現代は低インピーダンスのヘッドホンが多いので、バランス接続が必須なのかもしれません。The Composerも22Ωなので、アンバランス接続で感じた派手な印象はこれが原因なのかも、と思ってしまいました。

 そして肝心のTTT機能。オン/オフそれぞれでミックスが完成している音源を聴き比べると、“もしかして効果が分からない?”と思うくらいの微々たる変化なのですが、ミックス作業中の音源を聴いてみると音のアタック感がはっきりとつかめ、非常に作業がしやすくなります。ブラインドでTTTのオン/オフをテストしたところ、完成された音源だと外すこともありましたが、ミックス中の音源では100%当てることができました。細かいコンプのアタック・スピードやEQポイントを決めるには素晴らしい機能だと感じました。

 前述の通り筆者は今、2種類のアンプを使い分けていますが、TTTがあれば1機種にまとめられるかも、と思える、信頼できるヘッドホン・アンプです。

 

森元浩二.
【Profile】目黒区のレコーディング・スタジオ、prime sound studioのゼネラル・チーフ・エンジニア。浜崎あゆみや三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEなど、数多くのアーティストの作品に携わる

 

 

 

AUSTRIAN AUDIO Full Score One

オープン・プライス

(MUSIC EcoSystems STORE価格:242,000円)

AUSTRIAN AUDIO Full Score One

SPECIFICATIONS
▪電力帯域幅:5Hz〜1MHz ▪最大スルー・レート:200V/μs ▪最大出力電圧(5Hz〜20kHz):19dBV、9Vrms@0.01%THD ▪推奨最大負荷(5Hz〜20kHz):10〜600Ω、最大150nF ▪定格出力:220〜230V~/50Hzおよび110〜120V~/60Hz ▪オーディオ入力:XLR、RCAピン ▪オーディオ出力:アンバランス6.35mmフォーン、バランス4ピンXLR ▪付属品:電源ケーブル、FSOBコットン・ポーチ、マルチランゲージ製本ガイド ▪外形寸法:265(W)×65(H)×220(D)mm ▪重量:2.8kg

製品情報

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