オリジナルの忠実な再現を追求した復刻版のFairchild 670。本機を使い手の立場からレビューしてくれたのは、レコーディング/ミキシング・エンジニアの小森雅仁氏だ。商業スタジオでオリジナルFairchild 670の3台の個体をコンスタントに活用してきた氏は、復刻版をAVID Pro Toolsのハードウェア・インサートでリズム隊、鍵盤類、ギター、ボーカルなどに試したという。そのテストの場となったスタジオABS RECORDINGにて、所感を語っていただくとしよう。
オリジナルの670が新品だったころはこんなにもすごい音がしていたのだろうなと
Reviewed by 小森雅仁
フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。米津玄師、Official髭男dism、藤井風、Yaffle、TENDRE、小袋成彬、iri、AAAMYYY、KIRINJI、cero、浦上想起など多数のアーティストの作品を手掛ける。現在の拠点は東京・恵比寿のABS RECORDINGで、復刻版Fairchild 670のチェックも同所で行った。
なぜこれほど自然なのか
“オリジナルのFairchild 670が新品だったころは、こんなにもすごい音がしていたのか”と思えるほど良い。ビンテージや真空管という言葉に抱きがちなイメージとは違い、非常にクリーンかつナチュラルなサウンドです。
入力音量を上げたり深くかけたりすると倍音が付加されますが、音色変化とゲイン・リダクションのバランスが絶妙で、とても自然に聴こえます。まるで最初から、そういう音だったかのように。ダイナミック・レンジが広い演奏を無理やり叩(たた)いた感じではないのです。同じことはオリジナルのFairchild 670にも言えますが、この復刻版では今まで使ってきたどの個体よりも顕著です。でも無味無臭というわけではなく、全体的にモチっとするようなキャラクターがあります。
ゆったりとした演奏にかけるのが効果的
試した中で、最も良い結果が得られたのはベース。ピアノならグランドよりもアップライト。WURLITZERやRHODESなどのエレピにもばっちりでした。特にテンポがゆったりとしていて、1つ1つの音符が長めに演奏されるフレーズに合うと思います。そういうソースに対して、不自然にならない程度にリリース・タイムを遅くしてかけると、すごく旨みが出る。これは個人的に好きな使い方で、ピークを抑えるための処理ではなく、絶えず緩やかにかかっている状態です。例えば、ドラムのルーム・マイクをハードにコンプレッションしてみてもよいと思いますが、Fairchild 670のすごみが最もよく出るのは、今ご説明したような使い方なのかなと。とにかく機材としての質がものすごく高いので、色付けの用途にとどまらない一台だと思います。
そして、L/Rの特性の差に全く問題を感じないのも復刻版Fairchild 670の美点。僕がこれまで使ってきた個体は、メインテナンス・エンジニアの方がいらっしゃるスタジオの常設機なのですが、この復刻版のようには、なかなかいきません。非常に高額な製品ではあると思うものの、音を聴いたら納得してしまいます。商業的な利益よりも製品のクオリティにフォーカスしたと思われる作りにはパッションを感じますし、尊敬の念も抱きますね。そういう開発者の存在は貴重だと思います。
【動画付き】Fairchild 670発表会の模様はこちらから
https://www.snrec.jp/entry/pr/special/fairchild670report
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