こんにちは。ボカロPとしての活動のほか、楽曲提供やバンド“有形ランペイジ”のプロデュースも行っている、音楽家のsasakure.UKです。私が制作で長く愛用しているDAWソフト、Digital Performer(以下DP)を使って、どのように楽曲を制作しているかをお伝えしてきましたが、早いもので私の担当は今月がラストになります。最終回は、楽曲を仕上げていく際に使う便利なTipsを紹介! 今回もアルバム『未来イヴ』に収録している楽曲「ÅMARA(大未来電脳)」を題材にお届けします。既にDPユーザーという方も、まだDPを使ったことがないという方も、ぜひご覧ください!
Wを2回押してグループ化すればパラメーターの一括調整が可能
本題に入る前に、私はトラック・メイクをしながら並行してミックス的な作業も同時進行で行うことが多いです。前回お伝えした、EQやコーラスなどのエフェクトをかけたトラックを“プラグインを適用”機能を使ってオーディオに書き出したり、これでOKだと思ったパートはバウンスしたりと、どんどんオーディオに書き出しています。そのため、完成形のプロジェクトのトラックでは、それほど多くのエフェクト・プラグインは挿さっていません。昔はトラックをそれぞれパラで書き出して、ミックスはミックスとしてまとめて行っていたりもしたのですが、だんだんと作業工程を工夫していったら、同時進行で行う方がやりやすいなと。ミックスをしながらも、どんどん新しい音を作って足していく、というような方法ですね。
それでは、楽曲を仕上げていくのに便利なDPのTipsをお伝えしていきましょう。まずはミキシングボードで、各トラックをまとめてパラメーター調整する方法です。トラックウインドウで調整したいパートを複数選択した後、ショートカットのshift+Mで、選択したパートのみをミキシングボードに表示できます。このとき、Wを2回押すと、表示したすべてのトラックのパラメーターを一括で調整できます。
例えば生録音したドラムのパラ・データを扱う際、トラックのボリュームを一括で上げ下げしたいときなどにとても便利です。ボリュームだけでなく、パンやソロ、ミュートといった機能もグループ化されるので、一つ一つ操作する必要はありません。解除はWを1回押すだけなので、個々のトラック操作への切り替えもスムーズ。また、この機能はミキシングボードだけでなくシーケンスエディターでも使えます。オートメーションをまとめて書いたり、複数のサウンドバイトを前後に動かしたりといったことも可能ですよ。
ミキシングボードでもう一つ。各トラックに小さな画面が用意されています。ここにはトラックに挿しているEQが表示され、EQのかかり具合がパッと見て分かるようになっています。「ÅMARA(大未来電脳)」のプロジェクトにあるたくさんのトラックの中でも、“ブレイクビーツのキックの低域をカットしてあるな”というように、どういった処理をしているのかがすぐに把握できました。
Masterworks EQは、“どのEQか迷ったらコレ”というくらい、私が日頃から使っているEQプラグインです。音に癖付けしなくて使いやすいですよ。アナログの風味などをあえて加えたいときにサード・パーティ製品を使うこともありますが、その際は“プラグインを適用”でオーディオに書き出して、仕上げ的にMasterworks EQで微調整しています。
次に、トラックの有効について。トラックウインドウには、“有効”と書かれた項目があります。通常は有効になっているのですが、これを解除して無効にすると、データとして残したまま、そのトラックをプロジェクト上にないものとして扱うことができます。
オーディオ・トラックもシンセなどのインストルメントトラックも再生されません。トラックのミュートと異なり、音を鳴らさないだけでなく挿されているプラグインも無効になるので、コンピューターへの負荷を減らせて、バウンス時の効率も上げられます。“現状はボツだけど、もしかしたら後で使えそうかも……”というトラックの場合、無効にしてもトラック自体を削除するわけではないので、すぐに取り出すことができます。
シザーズツールとポインタツールを行き来してボーカルのタイミングを細かく調整
私はよく色付けとしてアンプ・シミュレーター・プラグインをボーカルに挿していて、「ÅMARA(大未来電脳)」でも拍子が変わるしゃべりのパートで使いました。アンプ・シミュレーター・プラグインは負荷が大きいため、“プラグインを適用”で書き出して元のトラックを無効にしておき、音色を再調整したいときは有効にすればOKです。
ボーカルでは、発音タイミングの調整も仕上げとして行っています。シーケンスエディターで、コンピューターのキーボードのCを2回押すと、カーソルがハサミの形をしたシザーズツールに、Aを2回押すと通常のカーソル=ポインタツールになります。これら2つのツールを行き来する……つまり、シザーズツールでサウンドバイトをカットして、ポインタツールで前後に動かす、という作業です。
私の作る曲は16ビートや32ビートが基本になっていることが多く、細かくタイミング調整しないと奇麗に聴こえてこないんです。オケとぶつかっている部分を避けるという意図もありますね。サウンドバイトを前後に動かす操作を、方向キーの左右でもできるのが、DPの好きなところです。
あと仕上げというわけではないのですが、制作の途中でも2ミックスにバウンスして聴くようにしています。
プロジェクト上で聴くのと、バウンスして聴くのとでは、どこか印象が変わるなと感じていて。スピーカーやイアフォン、スマートフォンなど、再生装置によっても聴こえ方は変わりますし、皆さんが同じ環境で聴くわけではないですからね。そういったさまざまな点も加味しながら相対的に判断できるように、どんな再生環境でも良いと思って聴けるバランスを意識しています。DPはバウンスしたときのまとまり方が奇麗な点も、長く愛用しているしている理由の1つです。
4回にわたってお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか? 個人的には、DPはいろいろなジャンルの曲を作りやすいDAWだと感じています。ぜひ私のようなサウンドを作りたい、さまざまな曲調の楽曲に挑戦してみたいと思う方は、DPを手に取ってみてはいかがでしょうか。お伝えしきれなかったポイントもまだまだありますので、それはまたどこかの機会で。ありがとうございました!
sasakure.UK
【Profile】インターネット上で自身のサイトを拠点に、オリジナルのインスト楽曲を発表する活動の後、初音ミクなどの音声合成ソフトYAMAHA Vocaloidにインスピレーションを受け、作詞にも挑戦。これらの楽曲を動画サイトに公開すると、その作品性の高さから一躍注目を集める。時代を越えて継承されてゆく寓話のように、物語の中に織り込められた豊かなメッセージ性を持つ歌詞と、緻密で高度な技術で構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立する。
【Recent work】
『未来イヴ』
sasakure.UK
(ササクレイション)
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):79,200円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)