トラック制作時のモニター音量で
入れる音の数が変わってくる
アトランタ時代は自宅の地下にスタジオを構え、壁に埋め込んだPMC MB2、BAREFOOT SOUND MicroMain27+MicroSub45、YAMAHA NS-10M Studioなどを使っていたというT.Kura。「あっちに居ると低音病みたいになるんですよ。特にアトランタはトラップの本場じゃないですか? 僕が住んでいたころは、みんなROLAND TR-808のキック・ベースしか聴いていないくらいの勢いでスタジオ・ワークしていましたね」と語る。
「だから自分も、大口径スピーカーで低域をボンボン出すようなセッティングにしていたんですが、驚いたのはジャーメイン・デュプリのスタジオへ行ったとき。プリプロ・ルームみたいなのがあって、MACKIE.のPAスピーカーが設置されていたんですよ。しかもかなりデカめの。それを“おかしいだろ?”ってくらいに爆音で鳴らして制作するものだから、現場に居ると胃が痛くなってくるんです。もちろんミキシングはそんな状態ではやらないですよ。あくまでトラック作りのときなんですけど、大音量で作るメリットっていうのは、音を入れ過ぎないで済むことなんです。音がデカいからミニマムな音数で満足できるし、個々の音の役割をはっきりとさせるようになるから、クラブなどでも映えるトラックに仕上がる。でもこれは日本のプロダクツ……特に僕が今やっているような音楽には合わなくて。当時はR&Bやクランクっぽい音楽をやっていたのでベストなモニター方法でしたが、EDM系のトラックなどには細かい音をたくさん仕込む必要があるため、デカい音で作っていたら物足りないものになりやすいと思うんです。制作時の音量で、入れる音の数は随分と変わってきますからね。とは言え、ヘッドフォンで大音量モニターするのは、耳の故障を招くので良くないと思います」
帰国後はFOCAL SM9をメイン・モニターとしていたそうだが、低域のダイナミクスや解像度のさらなる向上を求めてAMPHIONのTwo18とBaseOne25を導入した。
「AMPHIONは最初、海外の雑誌でよく見かけたんです。で、自分のリスペクトする人たちが軒並み“良い”と言っているのを見て、間違いないだろうと思い試聴せずに購入しました。価格的にもハイグレードですし(編注:Two18はペアで72万円前後)、この価格でみんなが評価するってことは、値段以上の価値があるんだろうなと思って。音質については、Two18だけを鳴らすと70Hz辺りから上が、それよりも低いところがBaseOne25から奇麗に出ている印象です。特徴的なのは、音の粒立ちがぐにゃっとならないところ。このクラスのスピーカーであれば、音が少ない音楽をクリアに再生できるのは当たり前ですが、モデルによっては音数が多い中でアタッキーなパーカッションが鳴ったりすると、その立ち上がりがぐにゃっとなってしまうことがあるんです。慣れればいいのかもしれないけど、僕はなるべく忠実にモニターしたいので、AMPHIONの音を聴いたときは“良いものを買ったな”と思いました。音の粒がたくさん聴こえる感じはNS-10M Studioをほうふつさせますが、AMPHIONはよりグレードが高い印象ですね」
AMPHIONのスピーカーなら
ピーク成分の“良し悪し”まで判断できる
そのグレードの高さは、ピーク成分の良し悪しをジャッジする際にも大きな助けになっているという。
「例えばペアで20万円以下くらいのスピーカーって、低域が弱かったとしても高域の方はよく出たりするじゃないですか? ピーキーな音が鳴ったときには、すごく嫌な感じに聴こえるわけですが、AMPHIONだと一歩引いて見ることができる……そのピーク成分が、曲において良いのものなのか悪いものなのかをちゃんと判断できるんです。なので、嫌な音だからとりあえずカットしてしまおうとはならず、あえてピーキーなまま残しておくこともできます。“ピーキーだからこそ格好良いのかな?”という部分までジャッジできるんですよ。換言すると、グレードが低いスピーカーではピーキーな音は全部一緒くたにピーキーなものとして聴こえてくるので“なんか痛いから切っておこう”みたいになりがちですけど、AMPHIONならピーク成分の是非を吟味できるし、その分かりやすさは高域だけじゃなくて低域にも言えることです。本当に、作った音がそのまま出てくる感じなんですよ」
モダンな音像の秘けつは“細かい処理”
それを行うためにもAMPHIONが必要
低域に関しては、複数のヘッドフォンを併用することでも判断できるというが「曲を作っているときに何台も切り替えて分析とかやりたくないので、コントロールされた低域を常に得られるスピーカーが良いんです」と語る。
「ミキシング・エンジニアの方へ曲を渡す前に、大抵は自分でプリミックスというのを作るんですよ。アーティストや事務所、レコード会社の方々に聴いてもらうためのものだから当然ある程度作り込むわけで、アレンジ的に不要な音を省いたりするほか、周波数やステレオ・イメージの調整も積極的に行います。サンプリングした音をそのまま使って、高域が物足りないからシェルビングEQでボーンと上げて格好良くなりました、みたいなやり方のクリエイターは、少なくとも今メジャーで活動している人の中にはあまり居ないと思います。もっと細かく、手術のようにして調整しないと、今の音楽のあの感じにはならないんです。それができるようになったのはDAコンバーターやプラグインの精度が飛躍的に向上したからで、例えばEQにしても位相を乱すことなくピンポイントに処理できる。コンプだってμms単位でピーク処理できるから、そういったツールのおかげで従来は難しいとされていた音作りが可能になりました。例えば、サイン波ベースとパワフルなキックをひずませずに組み合わせるような処理ですね。あとは、プラグインに付いているアナライザーも活用しています。優れたマスタリング・エンジニアのように、良いスタジオとアウトボードを使って耳だけで調整できればいいんですけど、万人が同じようなことをアナライザー無しにやるのは不可能です。だから僕は、モダンなプラグインで細かく分析して低域のすみ分けを図ったり、ソリッドだけど高域が耳に痛くないような音像を作っています」
その詳細な分析結果を視覚だけでなく聴覚でもとらえなければならないので、AMPHIONのようなモニター・スピーカーが必要なのだと総括する。
「中域の音作りにはATCのスピーカーも取り入れていますが、最終判断はAMPHIONですね。周波数レンジが広く奥行きの再現も素晴らしいし、音量を上げてもひずみっぽくならずクリアに出ます。だからドームなどの大音量環境で、どんな聴こえ方がするかをシミュレーションしたいときなどは、AMPHIONを爆音で鳴らすこともありますね。小さな音でも大きな音でも勘違いすることなくモニターできるので、音楽制作の道具としてはすごく良いと思います」
【製品情報】
AMPHION Two18
AMPHION BassOne25
AMPHIONシリーズ機種
※本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2020年2月号の記事の転載分となります