第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ボブ・ディラン『ラフ&ロウディ・ウェイズ』、グレイ・デイズ『アメンズ』です。
8年ぶりのボブ・ディランの新作は
“まるでそこに居るかのような”サウンド
ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞し、音楽業界も大いに沸いた2016年から4年がたちました。2枚組の本作は、約17分の1曲を収めたディスク2を含む全10曲の作品です。オリジナル楽曲のアルバムとしては8年ぶり。ミックスは、ディランのブートレッグ・シリーズも担当したクリス・ショウを再び起用しています。サウンドは、ディランがまるでそこに居るかのように前面に置かれており、それをほかの各パートが温かく太い音色で取り囲んでいます。そもそもレベルを入れ込むタイプの音楽ではありませんが、これくらいの余裕があると楽曲の雰囲気や自然な抑揚がより良く伝わると思います。プレイバックのボリュームを上げてどうぞ!
1990年代当時のベニントンのボーカルを収録
リンキン・パークのファンにはたまらない作品
リンキン・パークのボーカル、故チェスター・ベニントンが1990年代に結成したバンド、グレイ・デイズ。彼らが当時のベニントンの歌声をそのまま使用し、バンド部分はメンバーで再録音を行う方法でアルバムを制作しました。主なプロデューサーはエスジェイ・ジョーンズとルーカス・ディアンジェロで、ミックスはジェイ・バウムガードナーが担当。初々しいベニントンの高い声は、重ためのバンド・トラックと絶妙にすみ分けられています。なので、ゴリゴリのオルタナティブ・ロックも優しくエモく聴こえてくるのです。また、ベニントンのトラックに残っていた話し声を楽曲に生かしたりしている点からは、メンバーのベニントンへの思いも感じられます。リンキン・パークのファンにとってもたまらない作品です。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア
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