サウンド・クリエイター/シンガー・ソングライターの神山羊。2018年に初めて投稿した楽曲「YELLOW」はTikTokなどのSNSで話題となり、現在YouTubeの再生回数は1億回を突破している。DAOKOをはじめとするアーティストへの楽曲提供も行っており、同時に“有機酸”名義でボカロPとしても活動。そんな彼の1stフル・アルバム『CLOSET』が4月27日にリリースされた。ロックやヒップホップといった多様なジャンルを横断しながらも、最終的にはポップスとして昇華できるように音楽制作をしているという。音楽的ルーツやアルバムの制作背景についてインタビューを行った。
Text:Yuki Komukai
楽曲のアイディアをもとにビートを着せ替えていく
ー「セブンティーン」はキャッチーなギター・ロック、「煙」はローファイなヒップホップ、「色香水」は80’sを感じるポップス……と、本作にはさまざまなジャンルの楽曲が収録されています。神山さんの音楽的ルーツについて教えてください。
神山 僕はもともとバンドでギターやベースを担当していて、ロックやシューゲイザーといったジャンルの音楽をやっていました。でも聴くという意味では歌謡曲やヒップホップも好きで、結構雑食に音楽とかかわってきたなと思っています。
ー楽曲を作る上で決めていることやテーマはありますか?
神山 ジャンルを決めているわけではないのですが、ポップスを作ろうというのは常に考えています。ヒップホップっぽく聴こえていてもロックっぽく聴こえていても、最終的にはポップスとして昇華できるように作っています。
ー今回リリースした1stフル・アルバム『CLOSET』について、コンセプトはありましたか?
神山 神山羊としての活動を始めて最初に制作したのがアルバム1曲目に収録されている「YELLOW」でして、そのときからアルバムのコンセプトは決めていました。僕はまずアコースティック・ギターの弾き語りで曲を作っていて、その場所が自宅のクローゼットの中なんです。そういう場所で作られた音楽が、インターネットなどを介していろいろな人に届いていくというのを一つのテーマにしています。
ークローゼットの中というのはアイディアが湧きやすい場所なのでしょうか?
神山 アイディアもそうですし、自分が一番素直な状態というか、自分自身と向き合える場所だと思っています。
ーアルバム全体を通してグルービーなビートと分厚い低域が印象的だったので、ビート・メイクを先にしているのかと思っていましたが、楽曲制作は弾き語りから始めるのですね。
神山 僕はダンス・ミュージックもすごく好きで、クラブ・ミュージックをやっていた時期も実はあるんです。打ち込み音楽の魅力にはすごく興味があって。そことポップスとロックを横断できるのが僕の制作スタイルならではなのかなと思っています。クローゼットの中で作った楽曲のアイディアを持った状態で、曲ごとにビートやベースといったグルーブの部分を着せ替えていくイメージで作っているんです。歌が一番良く聴こえるビート・メイクをしていくという感じですね。
ーあくまでも歌がよく聴こえるようにビートを付けていく?
神山 曲にもよるんですけど、歌モノを作る際は基本的にそうしています。ビートが先のものもあって、今作では「SHELTER」と「煙」をビート先行で作りました。特に「煙」はヒップホップが好きな人に届けばいいなと思って制作したので、ビートのグルーブの出し方を先に決めていました。酔っ払ったような雰囲気を出したくてわざとレイドバックしたようなノリにしています。ヨレ感みたいなものを大事に作りました。
ー打ち込みでグルーブ感を出す上で意識されていることはありますか?
神山 ヒップホップっぽいアプローチのときは、ビートをループで使うことが多いので、4小節か8小節のループをまずはグリッドに合わせて作って、それを後から手作業で気持ち良いバランスに整える作業をします。
ーDAWは何をお使いですか?
神山 PRESONUS Studio Oneを使っています。もともとSTEINBERG Cubaseを使っていたのですが、3年くらい前からCubaseとStudio Oneを行ったり来たりするようになって、今は歌モノはすべてStudio Oneで作っています。動作が軽いというのが決め手でした。
シンセは必ず飛び道具を使って音作りをする
ー今作の収録曲の中で特にこだわったものは?
神山 アルバムの最後に収録されている「CLOSET」です。曲の展開をいわゆるサビで大きく展開するというタイプにはせずに、ビートの抜き差しにこだわりました。気持ち良く聴こえるポイントをわざと後ろへずらしたりしています。実は音数が増えてきたところで、シンセの派手な音色を聴こえないくらいの音量で鳴らしているんです。音圧や奥行きはそうやって表現しました。あとは、先ほどお話しした「煙」のビートも結構こだわって作りましたね。
ー1曲だけ「O(until death)YOU」というインストの曲が収録されていますね。
神山 シンセの音色をスーパーファミコンの音をもとに作ったんです。“テレビの中のゲームの音”のように聴こえるように作りました。SPECTRASONICS Keyscapeのトイ・ピアノの音を、ビンテージ感を演出するプラグインのXLN AUDIO RC-20 Retro Colorで加工しています。
ーローファイ系のプラグインはよく使いますか?
神山 RC-20 Retro Colorは好きでよく使います。「煙」のローファイな感じもRC-20 Retro Colorを使って作りました。IZOTOPE Vinylもよく使いますね。音は基本的にローファイでひずんでいる方が好きなんです。
ーアルバム全体を通してシンセの音色使いが面白いなと思いました。
神山 基本的にシンセは変な飛び道具を挟んで音を作らないと嫌だな〜というのがあります。そのままで使うことはあまり無いですね。「YELLOW」の間奏のピョンピョンしたようなシンセ・ベースの音が作れたときはうれしかったです。間奏部分の顔になるような音色が作れたなと思いました。この音色が生まれたのは偶然なんですけどね(笑)。偶然に助けられることは多いです。
ーシンセを加工する際によく使うお気に入りのプラグインを教えてください。
神山 CABLEGUYS Half Timeはほとんどの曲に使っていて、鍵盤系にうっすらとかけていたりします。チルっぽい質感の曲とかは、Half Timeをかけるとパッドの代わりに空間が生まれる感じがするんです。
ーお気に入りのシンセはありますか?
神山 KORG Monotron Duoがお気に入りで、今作で使ったのは「群青」と「青い棘」ですね。ほかの曲にも聴こえるか聴こえないかくらいの音量で混ぜていたりします。
ーMonotron Duoのどういう部分を気に入っているのでしょうか?
神山 ハードウェア・シンセだから当たり前ではありますが、フィルターが手元でかけられるところが気に入っています。あとはおもちゃみたいに小さくてかわいいので、楽しみながら作業ができるところが好きです。
ー楽曲内でサンプリングを多用した印象もありました。
神山 サンプラーはROLAND SP-404SXを愛用しています。環境音などの音ネタみたいなものを使うことが多いですね。サンプラーに音を入れて、デモを流しながら適当にたたいて、曲のどこに音を入れるかを決めています。
ー音ネタはどこから持ってくるのですか?
神山 WebサービスのSpliceなどで探してくる場合もありますし、APPLE iPhoneを使って自分で録音することも多いです。「CUT」のハサミの音や「CLOSET」の冒頭でノックする音は自分で録っています。インスト曲「O(until death)YOU」の冒頭でスーパーファミコンのカセットを挿すときのカチャッっていう音を入れているのですが、これも自分で録りました。こういった音ネタは好きなので、割とすぐに入れてしまいます(笑)。「セブンティーン」にはモールス信号の音を入れたりしていますね。
インタビュー後編(会員限定)では、参加ミュージシャンたちとの収録や、作編曲において大事にしていることなどについて話を伺います。
Release
『CLOSET』
神山羊
初回盤:AICL-4224~5 通常盤:AICL-4226
(ソニー)
Musician:神山羊(vo、g、b、prog)、真壁陽平(g)、竹之内一彌(g)、草刈愛美(b)、なかむらしょーこ(b)、山本連(b)、伊吹文裕(ds)、オカモトレイジ(ds)、BOBO(ds)、堀正輝(ds)、永山ひろなお(p)
Producer:神山羊、浦本雅史、ESME MORI、ながしまみのり
Engineer:公文英輔、浦本雅史、諏訪桂輔、奥田泰次、星野誠
Studio:Sony Music Studios Tokyo、Higashi-Azabu Studio & MSR lab、CASINO、Aobadai、Soi、MSR、SoundValley、HeartBeat、A-tone、DYSS