ニュー・アルバム『REFLECTION』をリリースしたtofubeats。縁のあるアーティストが多数参加する4年ぶりのアルバムは、ボサノバやジャングルなどのエッセンスも取り入れた聴きどころ満載の一枚だ。インタビュー前編では、収録曲の制作テクニックを中心に紹介。「REFLECTION feat.中村佳穂」と「PEAK TIME」のDAWプロジェクト画面を見ながらトラック・メイクの詳細なノウハウにも迫る。
Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara
パソコンの次に多用したのはiPhoneのマイク
ー『REFLECTION』はアシッドなEP『TBEP』(2020年)とはまた趣向が変わって曲調が多様ですね。
tofubeats コロナ禍であまりライブとかを意識しないでよくなったので、それをクラブっぽい曲ができない悲しさと取るか、そうじゃないものが作れる良い機会かと考えたときに、自分は後者として捉えようと。それで幅が広いアルバムになったのはあります。
ー確かに作品全体でネガティブ感が全く無かったです。
tofubeats それはめっちゃ意識しました。アルバムと同時発売の著書『トーフビーツの難聴日記』でも書いたんですが、こういう時期は確かに悪いことばっかりですけど、ある意味代えが利かない経験じゃないですか。だから、これ自体に意味があると思うようにしたくてそう作ったんです。
ー曲同士のつながりや曲中での急展開も面白いですね。
tofubeats アルバムを作って曲を区切ることの面白さを出したいと思ったので、スキットっぽいものを曲に入れたり、2、3曲目がつながっているけど曲としては分かれていたり、逆に2曲分の要素が1曲になっていたりという仕掛けが入っています。フルで聴く意味のあるものにしたいと思って頑張りました。
ーアイディア段階での苦労などはありましたか?
tofubeats 1曲目の「Mirror」は、最初ただのエレピ弾き語りみたいなデモで、アルバムのテーマっぽい曲になりそうだけどプロダクション的に面白みが無いし、入れないでおこうと思っていたんです。でも、あるとき駐車場で録った壊れた精算機の音と悪魔合体させたらがっちりハマって、元の曲と全く違うアレンジができて。
ー“OKです”と繰り返す音ですよね?
tofubeats そうです。それでアイディアが出たのが体験として大きくて、今回は結構APPLE iPhoneでフィールド・レコーディングをしました。PIONEER DJ DJM-RECというDJ録音用のアプリが普通のレコーダーとしても使えるんですけど、録音ファイルをそのままDropboxに上げられたり、CDJのような再生画面で波形をシークできたりと機能が優秀なので、それで素材を録りためましたね。
ー「Okay!」で流れる“OKです”は同じサンプルですか?
tofubeats フィールド・レコーディングの音は入れつつ自動読み上げソフトのAHS Voicepeakで発音させた声も使っています。同じ言葉だけど違うのが面白いなと思って。あと、この曲に入っている階段を駆け下りて扉を閉める音も自分で録りました。だからコンピューターの次に多用した機材はiPhoneのマイクっていう可能性はありますね(笑)。
ー2曲目の「PEAK TIME」は、パンニングの効いたスネア・ロールが徐々に迫ってくる音作りに感動しました。
tofubeats サンプルを並べてABLETON Live付属デバイスのAuto PanとSaturatorをかけたんですけど、結構頑張りましたね。今回、できるだけオーディオ中心で作業しようというのが裏テーマで、「PEAK TIME」もサンプルばかりを並べて作っています。あと今回多用したのが、打ち込みのドラムですけど、バスを作ってその2ミックスにコンプをかける方法で、この曲ではUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのEmpirical Labs EL8 Distressorを薄くかけました。
ーそれはどのような効果があるのですか?
tofubeats 胴回りがしっかりするんです。あと、ボーカルも5〜6本積んだものを書き出して1trにしていて、ライブ用のマイナス・ワンが作れない攻めた編集になっています(笑)。
「PEAK TIME」トラック・メイク解剖
❶ドラム・バスのコンプ
❷ボーカル・チェイン
❸レイヤー感と飽和感
オールドスクールなサンプラー・テクをLive上で
ー客演曲の参加アーティストはどのように決まりましたか?
tofubeats 今回特に当て書きはしていなくて、できたトラックに合いそうな人を呼んで進めました。「don't like u feat. Neibiss」のNeibissは神戸のラップ・グループで、彼らが僕の「STOP」というスキットみたいな曲が好きだとずっと言ってくれていて。それっぽいトラックができたから“一回乗せてみいひん?”と誘ったらいい感じで返ってきたので採用しました。「VIBRATION feat. Kotetsu Shoichiro」は1番とサビとオケができた状態で2番のラップ誰にしよう?ってKotetsuさんに声をかけて。「恋とミサイル feat. UG Noodle」は、コロナ禍でブラジルのレコードを買い込んだ時期があったので、ボサノバのデモを作ってUG Noodleさんに歌詞と生音のアレンジを頼んだんです。「REFLECTION feat.中村佳穂」も実は全部できてから中村さんにお願いすることが決まって。
ー「REFLECTION」は、tofubeatsさんの曲らしい要素がありつつもこれまでに無い疾走感で衝撃を受けました。
tofubeats うれしいですね。コロナ禍を経てミックス・ダウンのやり方や考え方から変わった部分が結構あって、その影響が出始めたかなと思います。「REFLECTION」は、もともとYouTubeでAKAI PROFESSIONALのSシリーズを使ってジャングルを作る動画を見て作りたいと思ったんです。ロンドン・エレクトリシティとかもライブでやるオールドスクールなサンプラー・テクをLive上でやっている感じで、カットした3種類くらいのブレイクビーツを同じトラックのDrum Rackに並べて、鍵盤で行ったり来たりしています。あとこの曲はベースが5trあって、サブベースだけで3trで、動きのあるベース風サウンド、ウォブル・ベースが1trずつ。ドラムンをやる人は大変だなって思いましたね。意外とボーカルも多くて53trです。自分が27tr、中村さんが26trでした。
ーレコーディングでのディレクションはどのように?
tofubeats いや、それがもう全然不要で。プリプロの時点で商品にできそうなくらいバッチリでしたし、何も言わなくても後半に向けてどんどんテンションが上がっていくボーカルを録ってくれました。逆に勢いが出過ぎるので座って歌ってもらったりもしたくらいです。studio MSRで録ったんですけど、エンジニアの奥田泰次さんとの相性もバッチリで素晴らしかったです。
ーボーカル・トラックはどのような処理をしていますか?
tofubeats ちょっとしたディレイをかけたり、間奏部分でBeat Repeatを二重がけしたり、CELEMONY MelodyneにWAVES DoublerとLiveのビット・クラッシャーReduxを足して強引に作ったようなハモも入れています。あとボーカルを前に出すためにリバーブにボーカルでサイド・チェイン・コンプを入れていて、ボーカルが鳴っている間はリバーブをダッキングし、ボーカルが離れるとリバーブの成分が目立つようにしました。
「REFLECTION feat.中村佳穂」トラック・メイク解剖
❶5tr構成のベース
❷ブレイクビーツの打ち込み
❸リバーブのダッキング
インタビュー後編(会員限定)では、 tofubeatsの事務所兼プライベート・スタジオHIHATTの制作スペース、DJブースの機材を写真とともに紹介します。
Release
『REFLECTION』
tofubeats
ワーナーミュージック・ジャパン:WPCL-13374(初回限定盤)、WPCL-13375(通常盤)
Musician:tofubeats(all、vo)、Neibiss(vo)、UG Noodle(vo)、Takashi Kusuda(cho、perc、Lap Steel Guitar)、Ecco(sax)、中村佳穂(vo)
Producer:tofubeats、Neibiss、UG Noodle、Kotetsu Shoichiro
Engineer:tofubeats、UG Noodle、Takashi Kusuda、松下雅和、奥田泰次
Studio:HIHATT HO、ヒョンの部屋、Lockport Building、Native Chamber、M-studio、MSR