心躍るような気持ちで取り組めるプロジェクトにする
それがヒットの近道なのではないかと思うんです
ジャズを出自としつつ、フューチャリスティックなソウル・ミュージックから前衛的な香りさえ漂うエレクトロニック・ポップまで、多種多様な音楽で話題のアーティスト=ぷにぷに電機。それもそのはず、独特なのは自らのボーカルやアレンジをコラボレーションにより進化させていくスタイルで、これまでに80KIDZやShin Sakiura、PARKGOLF、Mikeneko Homeless、パソコン音楽クラブなど、さまざまなクリエイターと制作を共にしてきた。最新EP『電子DISCO密林』でも持ち前のプロデュース手腕を振るっており、際限無き創造性を見せている。本人をキャッチできたので、楽曲作りの秘けつに迫ってみよう。
Text:辻太一 Photo(Main):山中慎太郎(Qsyum!)
Band-in-a-Boxが生成したフレーズを
Cubaseで解体/再構築してアレンジ
ー“コラボレーションを軸にしたソロ・プロジェクト”というのが、ありそうで無かったスタイルですね。
ぷにぷに電機 私一人の力で作った音楽とか、高が知れていると思っていて。トラック・メイクに特別な自信があるわけでもないし、どちらかと言えば曲のコンセプトを作る方が好きで、それに関してはデモ音源を作った時点で達成できてしまいます。でも、違う要素を入れて化学反応を起こしたくて……ぷに電は電機会社のイメージなので、別会社の技術を取り入れて自社の製品をアップグレードしたいんです(笑)。
ー音楽的なバックグラウンドについては、もともとジャズを歌っていたのですよね?
ぷにぷに電機 はい。でもインターネットに投稿されているナードな音楽やゲーム・ミュージックなども大好きだったので、電子音楽にはあこがれがありました。クラブやライブ・ハウスにはなじみが無かったんですけど、音楽を発表できる場として、インターネットのほかコミックマーケットやM3などのイベントが自分には向いていると思い、参加し始めたんです。2016年から割とコンスタントにリリースできているのは、自分で締め切りを設定するというよりは、イベントの日から逆算してデモのアップやコラボレーターへの依頼をしていたから。期限が決まっているので絶対に仕上げなくてはならず、それが良かったのかもしれません。
ーコラボレーター探しは、どのように?
ぷにぷに電機 “この人とご一緒したい”と思えるアーティストをインターネットで見付けて、メールを送るんです。例えば、パソコン音楽クラブちゃんたちとも、そうやって出会いました。で、彼らが秋葉原のMOGRAへ来た日の打ち上げで同席していたのが、韓国のNight Tempo君。“明日帰国するので日本を案内してほしい……セーラームーンのグッズも欲しいし”と言っていたので、買い物に付き合ってみたら“今度コラボしよう”という話になり、出来上がったのが「ツギハギはぁと」のリミックス「Patchwork Love」なんです。
ーぷにぷに電機さん、パソコン音楽クラブさん、Night Tempoさんの3組で制作された楽曲ですよね。
ぷにぷに電機 はい。それがインターネットでちょこちょこ聴かれ出して、Moe Shop君やMACROSS 82-99君といった海外のフューチャー・ファンク勢とも仲良くなりました。なので、友達と音楽を作っていたら運良く広まったという感じで、売れようとかはあまり考えていなかった。
ーぷにぷに電機さんのワークスには“プライベートEP”と銘打ったものもありますが、それらの立ち位置は?
ぷにぷに電機 例外的にアレンジまで単独で完結させた作品です。ジャズっぽい内容で、過去に2作発表しています。
ーデモやプライベートEPは、どのような環境で制作しているのでしょう?
ぷにぷに電機 PG MUSIC Band-in-a-Boxという伴奏自動生成ソフトをメインに使っています。私はコード進行とメロディから作り始めるんですけど、Band-in-a-Boxならコンピューターのキーボードでコード・ネームを書き込むだけで、MIDIデータを入力することなくコード進行を鳴らせます。また、それに合わせて各パートのフレーズを自動生成できるため、良いフレーズが出るまでリセマラするんです。
ーリセット・マラソン……ガチャなどから欲しいアイテムが出てくるまで、アプリのインストールとアンインストールを繰り返すソーシャル・ゲームの手法ですね。
ぷにぷに電機 で、良いのが出てきたらWAVなどに書き出してSTEINBERG Cubaseにインポートし、波形編集やプラグインで加工します。なので、Band-in-a-Boxが作ったフレーズをサンプリングして作っている感じですね。
Tools for Production
ぷにぷに電機が使用するPG MUSIC Band-in-a-Boxの画面。楽器演奏者向けの自動作曲/伴奏生成ソフトで、ジャズやロックなど、好みのスタイルを選んでフレーズやバッキングをジェネレートできる
Band-in-a-Boxから生成されたフレーズをSTEINBERG Cubaseでエディットしているところ。そのまま使用するのではなく、波形編集やエフェクトでの加工を経て再構築するのがぷにぷに電機流。サンプリングによるトラック・メイクとも言えよう
歌録りに愛用中のNEUMANN TLM 103。以前はBLUE MICROPHONESのコンデンサー・マイクを使っており、自身の声の高域が補強されるサウンドを気に入っていたというが、ブレス成分まで忠実に収音できる点で、現在はTLM 103をメインにしている。併用しているオーディオI/Oは、PARKGOLFから教えてもらったというRME Fireface UCX
互いが望む音について話し合うなどし
何かを見付け出していくのがコラボ
ートラック制作の手法と同様に、歌声もユニークだと思います。まるで曲ごとに別人が歌っているような印象で。
ぷにぷに電機 いろいろな方からそう言われます。電子音楽を始めたころ、ジャズっぽい低めの発声で録音したら、どうしてもトラックから浮いてしまいがちで。エンジニアリングを手伝ってくれた友達と“なんでなんだろう?”って悩んでいたんです。原因を考えたところ、ジャズはベースがフレットレスだったり上モノにテンションが多かったりするため、低めで歌って少しフラットしてもさまになることがあるのだと分かりました。一方、電子音楽では基本的に全パートのピッチがジャストなので、歌もそうでないとマッチしにくい。それに、高めの音域で歌った方が曲の世界観に合うとも思ったので、歌声の研究開発を行った結果、幅が出た感じです。
ー曲のコンセプトに応じて、さまざまに歌い分けることができそうですね。
ぷにぷに電機 ぷに電の中にはコンセプトを作っているプロデューサー、作曲家、作詞家、ボーカリストが居て、たまに衝突が起こるんです。プロデューサーや作家陣が用意した曲をボーカリストが歌いこなせないことも多々あって、それを解決するために何が原因なのかを探ります。すると、歌詞を十分に読み込めていないとか、何も考えずに歌ってしまっているとか、そもそも歌詞全体のストーリーの流れや曲の構成が良くないとか、問題点が明らかになってくるんです。
ー課題を洗い出し、ピンポイントに解決していくことで完成度を高めるわけですね。
ぷにぷに電機 そうなんです。自分の音楽なのに、簡単には思い通りにいかない……でも結構楽しいんですよ。意のままになるのって時につまらないと感じてしまうし、コラボレーションにもそれは求めていなくて。“リファレンス文化”というものがあるじゃないですか? “こんな感じの曲を作ってください”って頼むような。あれが個人的には苦手で。時間短縮のためなんでしょうけど、お互いが望む音についていろいろ話し合ったり、音源を聴かせ合うなどして見付けていくのがコラボレーションだと思うから、アーティスト同士はもちろん対企業の制作でも、そういうやり取りがしたいなと。あと、具体的なリファレンスを目掛けて作ると結果が60~70点になってしまいがちで、もったいないと思います。
ボーカル録りに時間をかけるのは
録音を進める中で歌の本質が見えるから
ーと言うことは、コラボレーターに対して指示することは無いのでしょうか?
ぷにぷに電機 トラック・メイカーの方によっては“どんな感じが良いんですか?”と尋ねてきてくださる場合もあるのですが、私としては自由にしてほしいと思っていて。その人が私の曲や詞を聴いて、どういうイメージをしたのかというのが一番大事だし、それを見てみたいからお願いしているので、要望は特にありません。もちろんリファレンスも。
ー送られてきたトラックに対しても、何も言わない?
ぷにぷに電機 ちゃぶ台返しすることはありませんが、おいしいところを際立たせるための意見はします。今は概ねポップ・ミュージックの範ちゅうに収まる曲を作りたいと思っているので、“ここはちょっと聴きづらい”と感じる部分や“もう少しメリハリのある方が聴いてもらえそうだな”と思うところだけ相談してみます。でも強制したくはないから、嫌でなければアップデートしてほしいけれど、不本意なら別の方法を探ってみましょう、みたいなスタンスです。
ー自身のボーカルをクローズアップするためのトラック作り、といった視点ではないのですね。
ぷにぷに電機 はい。やっぱり“作品が何を表現しているか”を重要視しています。一番大事なのはコンセプトであり世界観なので、自分の声を聴いてほしいという気持ちではないんです。だから曲によって声音が変わってもいいし、ボーカリストとしてのアイデンティティみたいなものには無頓着なのですが、歌録りにはものすごく時間をかけます。
ーボーカル録りは、どのような環境で?
ぷにぷに電機 曲によって異なりますが、自宅かレコーディング・スタジオで録音しています。後者の場合も、エンジニアの方に付いてもらうと気を遣ってしまって納得のいくテイクにたどり着けないことが多いので、一人でやっているんです。最近、waiaiさんとコラボレーションした「NAMELESS」は、メイン・ボーカルとコーラスの合計テイク数が900近くにもなっていました(笑)。完成形が見えている状態でレコーディングに入ることはほとんど無く、録っていく中で曲や詞の本質が見付かるケースが多いので、そのための時間や回数があるに越したことはないと思っています。とは言え「君はQueen」という曲のように、不思議と3~4時間で終わるときもあるんですけどね。
ーさまざまなアーティストと組みながら、ストイックにコンセプトを具現化していくプロセスに共感を覚えます。
ぷにぷに電機 はやっている音楽にしても、クリエイターが楽しんで作っていることが聴き手に伝わって、結果的に売れているのだと思います。ヒットの秘けつを産業構造から分析する方も居らっしゃいますし、そこにも一因があるのでしょうけど、まずは心躍るような気持ちで取り組めるプロジェクトにすることが近道なのではないかと考えています。それこそが、ぷにぷに電機のマーケティングですね!
Release
『電子DISCO密林』
ぷにぷに電機
(ぷにぷに電機)
- 電子DISCO密林
- よわいにく
- 変身
- さよならの楽園(Private Ver.)
Musician:ぷにぷに電機(vo、prog)、さよひめぼう(prog)、oriik internet(prog)、Dirty Androids(prog)
Producer:ぷにぷに電機
Engineer:ぷにぷに電機、さよひめぼう、oriik internet、Dirty Androids
Studio:プライベート
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