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芦田勇人(yumbo)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

ありとあらゆる楽器/機材の密集地

飽くなき探究心が音楽として結実する

 仙台を拠点に活動するバンド、yumboに都内在住ながら参加。自身ではシンセの演奏を核とするバンドJonathan Conditionerを立ち上げ、そのほか数々のバンド、サポートやテレビ/CMなどの音楽制作も手掛ける芦田勇人。まさに“ベッド・ルーム・ミュージック”と呼ぶにふさわしい、音楽のための空間だ。

室内にはさまざまな楽器や機材が所狭しと置かれている

欲しい音は自分で演奏するしかない

 2018年7月頃にこの場所に移ってきたという芦田。自身の活動の変化が、スタジオ化するきっかけになったという。

 「もともと自分一人で多重録音的なことはやりつつも、さまざまなバンドで演奏する機会が多く、プレイヤーとしての活動が多かったんです。ただその後コロナ禍があってレコーディングで集まるのも難しくなり、リモートで録音しなければならないと。それで一気に機材を集めていったという感じです」

メタル・ラックを活用したデスク周り。コンピューターはAPPLE Mac Miniで、DAWはBITWIG Bitwig Studio。ZOOM ST-224(サンプラー)やALESIS Samplepad Pro(ドラム・パッド)、ROLAND VSR-880(レコーダー)、BEHRINGER Monitor2USB(モニター・コントローラー)などの機材が並ぶ

デスク手前にはFMシンセのYAMAHA Reface DX、リズム・マシンのROLAND TR-626やマスター・キーボードとして使うCASIO Privia PX-S1000を配置。Privia PX-S1000は本体にスピーカーが付いているのがポイントで、モニターに接続しなくてもそれ自体で音が鳴ることに楽器らしさを感じているとのこと

 雑居ビルの一室なのだが、意外にも音に関しては自由に出せるとのことだ。

 「ガヤガヤした繁華街というか、外のほうがうるさくて(笑)。後から知って驚いたんですが、ネット・オークションで機材を買ったら出品者の人が“その建物、昔スタジオでしたよ”って教えてくれたんです(笑)。だから防音もしっかりした構造なのかなって。5年ほどたちますけどトラブルは一度もないですね」

デスク上のアウトボード類。上から、マスターのバス・コンプとして使うBEHRINGER Composer(コンプ)、FMR AUDIO RNC1773(コンプ)、BOSS RDD-10(ディレイ)、ROLAND M-VS1(シンセ)、MOTU 2408(オーディオ・インターフェース)

モニター・スピーカーのEVE AUDIO SC204。「長く使っていて、買った当時はもっと小規模なスペースだったので十分だったんですが、今くらい音が出せる環境だとSC207や208など、もっと大きなサイズでもいいかなと思っています」と語る

 DAWはBITWIG Bitwig Studio。面白いDAWとして紹介されたのがきっかけだ。

 「付属シンセのPoly Gridはモジュール同士を自由に組み合わせて複雑な波形を作れて、そこからイメージが膨らむこともよくあります。またクリップ・ランチャーは小節単位じゃなく、例えば1つのパートだけ7拍子で繰り返したらどうなるだろう?というのを簡単に試せる。アレンジで重宝しています」

ミックス・チェックに使用するSONOS Play:5(Gen 2)

 自らの楽曲のほか、参加作品の録音やミックス、マスタリングも行っており、スタジオにあるさまざまなアナログ機材だけでなくプラグインも多く活用している。

 「ミキサーのMIDAS Venice 240は、最低24chは欲しくて購入しました。やっぱりマウスをカチカチ操作するよりフェーダーを触ってミックスしたいし、アウトボードもすぐに通せますから。ただデジタルの良さもあると思っていて、プラグインも割と使っています。ミックスでよく使うのはTHREE-BODY TECH Kirchhoff-EQです。基本Venice 240のEQなどで処理しつつも、どうしても出っ張るところはKirchhoff-EQで抑えていますね。マスタリングではコンプのTONE PROJECTS Unisumを使うことが多く、さらにハードウェアを通したりもしています」

24chミキサーのMIDAS Venice 240。Bitwig Studioの入出力をオーディオ・インターフェース経由でルーティングしている。Venice 240のマイクプリについては、「クリアで素直ですね。だけどちょっと重心が感じられて、それがアナログっぽさなのかなと。気に入っています」と評する

デスク下のアウトボード類。上から、MOTU 828 MKII、UNIVERSAL AUDIO Apollo 8(オーディオ・インターフェース)、YAMAHA Pro R3(リバーブ)、SOLID STATE LOGIC XLogic Alpha Channel(チャンネル・ストリップ)、パッチベイ×2、UREI LA-4×2、KLARKTEKNIK 2A-KT(コンプ/リミッター)、TASCAM AV-P250(電源モジュール)。ProR3はV enice 240のAUX1にLを、2にRを送り、原音と逆方向にパンを振るなどの処理も行えるようにしている。2A-KTは、オプトセルをBLACK LION AUDIO T4 BLAに自ら交換したもの

 部屋にはドラム、ギター、ペダル・スティール・ギター、スティール・パン、キーボードとさまざまな楽器が用意されている。どれも自ら演奏するためのものだが、これほどマルチな奏者となったのはなぜなのだろうか。

 「幼少期に楽器を教わった経験がないんです。それが自分の中で、例えば“僕はギタリストだ”とか“ドラマーです”みたいにパートを固定せずに済んだというか。どの楽器奏者でもないということは、逆にどの楽器も自由にやっていいんだと捉えることができたんです。あとは楽器を集めるのが好きで、“自分の欲しい音は自分で演奏する”って発想しかなかったから、気付いたらこんなことになっていました(笑)」

ギター、ベース、バイオリンなど。奥にあるのはスティール・パン

ドラムも常時録音可能。写真では隠れているが、フロア・タムのボトムにはAUDIO-TECHNICA AE6100を立てている。キック・ペダルのYAMAHA KU100(右下)をALESIS Samplepad Proのトリガーとして用いて、キックのみSamplepad Proから鳴らすことも。位相ズレを回避するために、マイク間の距離測定もしながら録っているという

 ペダル・スティール・ギター、ユーフォニアムなどを担当するyumboについては、「コロナ禍で集まることができない状況が続いていましたが、今はみんなで演奏するという当たり前のことができてうれしい。それがバンド全体に良い影響を与えていると感じています」と充実した活動を語る。

DERBYのペダル・スティール・ギター。マルチエフェクト・ペダルのZOOM MS 50Gと、アンプ・ヘッドのVOX MV50 Cleanに接続。MV50 Cleanの真空管アンプらしい丸いサウンドが、ペダル・スティール・ギターにマッチするとのことだ。左下にあるのはトーク・ボックスを行うトーキング・モジュレーターのMXR M 222

YAMAHAのユーフォニアム、YEP321

楽器を作ることが作曲になる

 そして、2024年からは新たな試みとして、シンセの自作も始めている。

 「コード進行を工夫したりループから広げたり、作曲のプロセスっていろいろあると思うんですが、自分で楽器を作ったらそれも一つの作曲になるんじゃないかなと。作りはじめた当初はそんな考えもなかったんですけど、少しずつ組み立てるうち、自分だけの音が手に入ることに興奮を覚えました。ミュージック・コンクレート的というか、こういう作曲方法もあるんだと気付いて、今はツーファイブとかをたくさん覚えるよりも、回路図とにらめっこしてブレッドボード上で試行錯誤して組んでいくっていう音楽の作り方に夢中です」

 最後に今後の目標を伺った。

 「CMやテレビの仕事を請け負うこともあるので、表現活動とクライアント・ワークのバランスをうまく取りながら制作を続けられたら。あとは、もっとレコーディングしたいですね。“新曲が出ないと、そのバンドは死んでいるも同じ”と考えているので、Jonathan Conditionerの音源を作りたい。今は主にシンセを使っていますが、今後は生楽器も作品に取り入れていきたいです」

所有するマイク。SHURE SM7B、SM57、AKG C 391 B×3本、C 451 B、AUDIO-TEC HNICA AE6100。C 391 Bはフラットな特性がお気に入りで、複数所有し楽器全般の録音に使用する

Equipment

Computer:APPLE Mac Mini

DAW:BITWIG Bitwig Studio

Audio I/O:MOTU 828 MKII、2048、UNIVERSAL AUDIO Apollo 8

Speaker:EVE AUDIO SC 204、SONOS Five

Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-M50X、PHILIPS A5-PRO

Other:MIDAS Venice 240(Mixer)、YAMAHA Reface DX(Synthesizer)、CASIO Privia PX-S1000(Keyboard)、ZOOM ST-224(Sampler)、SOLID STATE LOGIC XLogic Alpha Channel(Channel Strip)、UREI LA-4×2、KLARKTEKNIK 2A-KT(Compressor/Limiter)

Close up!

新たな表現に向けたハンドメイド・シンセ

アナログ・シンセ自作キットのMUSIC FROM OUTER SPACE Noise Toaster。自作シンセの第一歩として購入

自作シンセ・ラック。オシレーター、シーケンサー、LFOなどの自作モジュールを格納する

 自分で作った楽器で、自分の音楽を作りたいという衝動に駆られて作りはじめました。モジュラー・シンセらしい偶発的なサウンドの変化も面白いけれど、ある程度は自分でコントロールできる。そのあんばいを探していくプロセスに面白さを感じています。

 Profile 

芦田勇人(yumbo):宮城県仙台市出身。2012年にyumboへ加入。2018年にJonathan Conditionerを結成。これまでにトクマルシューゴ、oono yuuki band、ポニーのヒサミツ、菅原慎一バンドなどのサポートを務めてきたほか、テレビやCM音楽の制作も行う。

 Recent Work 

 『THE OTHER LIFE, AZURE DREAMS』

Jonathan Conditioner

(ダバダバディスクス)

特集|Private Studio 2025