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Kのプライベートスタジオ|Private Studio 2024

Kのプライベートスタジオ|Private Studio 2024

作曲、レコーディング、ライブリハまで行えるオールラウンドな作業スペース

ドラマ『1リットルの涙』の主題歌などで知られる韓国ソウル出身のシンガーソングライター、K。彼は現在、楽曲制作からレコーディング、ライブのリハーサルに至るまで、音楽活動にまつわるほとんどのプロセスをプライベートスタジオで完結させているという。いかにして、このこだわりの空間は出来上がったのだろうか?

コロナ禍をきっかけにスタジオ造りを決断

 「商業スタジオでの作業は、さまざまな人がその場に関わっていたりすることもあり、自宅と違ってどうしても気を遣ってしまう部分があるんです」とKは語る。そんな彼は、2019年秋にリリースしたアルバム『Curiosity』の制作を機に、自宅の作業環境を整えたそうだ。

 「ようやく環境が整った!というタイミングでコロナ禍になってしまったんです。そうしたら、テレワーク人口が高まったからなのか初めて苦情が来るようになってしまって……。ちょうど引っ越しも考えていた時期だったので、スタジオを造ろうと決断しました」

 スタジオの音響設計/施工を手掛けたのはアコースティックエンジニアリング。シンガーソングライターの磯貝サイモンから紹介され、依頼することにしたそうだ。

 「部屋の中にもう一個部屋を作るというイメージだったので、新築のマンションだったんですけど、壁紙や床や天井などを全部壊すところからスタートしました(笑)」

 2~3週間ほどで施工は終わり、約13畳ほどあった空間は約10畳に。全体的な色味をナチュラルな質感で統一し、フラットな音を得るためにルームアコースティックはかなりデッドに仕上げてもらったという。

 「スタジオ造りにとても興味があったので、施工期間は毎日来て、配線のことなどを一個一個大工さんから教えていただきました。とてもぜいたくな時間でしたね」

制作で一番大事なポイントはリラックスすること

 制作機材に関してもこだわりを伺っていこう。

 「モニターヘッドホンはTAGO STUDIO T3-01。フラットな音で、長時間の作業でも耳が疲れないんですよ。TAGO STUDIOは、生音にこだわって制作した2015年のアルバム『Ear Food』のレコーディングでお世話になったという縁もあって。今使用しているデスクはTAGO STUDIOの方に紹介していただいた群馬のメーカーのオーダーメイド品なんです。モニタースピーカーは “高域から低域までバランス良く聴こえる”という点をポイントにさまざまな機種を試してみて、ようやく今使っているHEDD TYPE 20 MK2にたどり着きました。インシュレーターは、ISO ACOUSTICS ISO-Puckを使っています」

Kこだわりのオーダーメイドのメインデスク

Kこだわりのオーダーメイドのメインデスク。コンピューターはApple MacBook Pro、DAWはPreSonus Studio Oneを使用。MacBook Proの左にはFADERPORT 8(フィジカル・コントローラー)、右にはRME ARC USB(リモートコントローラー)をセット。モニタースピーカーはHEDD TYPE20 MK2、インシュレーターはISO ACOUSTICS ISO-Puck、TYPE20 MK2の上にはJVCのウッドコーンEX-HR5を設置。デスクの引き出しにはMIDIキーボードのRoland A-88を収納している

モニターヘッドホンのTAGO STUDIO T3-01

モニターヘッドホンのTAGO STUDIO T3-01。群馬県繊維工業試験場との共同研究成果品であるシルクプロテイン·コーティングを採用している

向かって左のラックには、上からRoland INTEGRA-7、YAMAHA MOTIF-RACK XS(以上、音源モジュール)、TASCAM AV-P 250(パワーディストリビューター)をマウント

向かって左のラックには、上からRoland INTEGRA-7、YAMAHA MOTIF-RACK XS(以上、音源モジュール)、TASCAM AV-P 250(パワーディストリビューター)をマウント。音源モジュールの両機は制作に欠かせないもので、INTEGRA-7はベルやリード系、MOTIF-RACK XSはストリングスやリードなどの音色を用いている

向かって右のラックには上からNEUMANN V402(マイクプリ)、RME FIREFACE UFX Ⅱをマウント

向かって右のラックには上からNEUMANN V402(マイクプリ)、RME FIREFACE UFX Ⅱをマウント。FIREFACE UFX ⅡについてKは「フラットで味付けがない点が気に入っている」と語る

 ボーカリストとして、Kはマイクにも人一倍のこだわりがあると語る。

 「マイクはLAUTEN AUDIO LT-386、マイクプリはNEUMANN V 402を使用しています。V402は、エンジニアの福田聡さんに紹介していただいたもので、LT-386と組み合わせたときのスピード感と温かみのバランスが良くて特にお気に入りなんです。LEWITT LCT 640はコーラスを録る際などに使用していて、独特のキャラクターが好きですね。レコーディングは、卓上のマイクスタンドを使用して座りながら歌っています。やるぞ!っていう雰囲気のレコーディングが苦手で……座りながらだとリラックスして歌えるので良いテイクが録れるんですよ。“リラックス”というポイントは、プライベートスタジオを造った理由と共通していますね。家だと“この時間までに録り終えないといけない……!”という焦りもなくレコーディングできるので最高です」

リスニング用のスペース

リスニング用のスペース。スピーカーはFOCAL Aria 906を使用。レコードプレーヤーはDENON DP-1300MKⅡ、その左側にMcIntosh 8900(プリメインアンプ)、右側にONKYO K-505TX INTEC205(カセットデッキ)をセット。「レコードやカセットの音の独特な膨らみやクリアすぎない部分が好きで、最近は制作の際もノイズを付加したりひずませることが多い」とKは語る

Kがレコーディングで使用するマイクコレクション。左から時計回りでコンデンサーマイクのLEWITT LCT 640、LAUTEN AUDIO LT-386、ダイナミックマイクのSHURE SM58

Kがレコーディングで使用するマイクコレクション。左から時計回りでコンデンサーマイクのLEWITT LCT 640、LAUTEN AUDIO LT-386、ダイナミックマイクのSHURE SM58。歌録りの際はsE Electronicsのポップガードと共に卓上スタンドへセッティングし、座りながらレコーディングを行っている

楽曲のアイディア出しなどに用いる楽器群。左上から時計回りにIbanez UEW15E(エレクトリックウクレレ)、Martin LX1E(エレアコ)、KORG microKORG(シンセサイザー)、MXR Talkbox M222(トークボックス)

楽曲のアイディア出しなどに用いる楽器群。左上から時計回りにIbanez UEW15E(エレクトリックウクレレ)、Martin LX1E(エレアコ)、KORG microKORG(シンセサイザー)、MXR Talkbox M222(トークボックス)。LX1EについてKは「ピアノで作曲をしていると右手の小指にメロディが引っ張られることが多く、それを避けるために使うようになった」と語る

北欧の家具メーカーHÅGのCapisco-PulsはKこだわりのスタジオチェア

北欧の家具メーカーHÅGのCapisco-PulsはKこだわりのスタジオチェア。背もたれの独特な形状によりさまざまな座り方が可能だ。「細かい打ち込みを行うときなどは前後逆に座っています。肘置きがないのもギターを弾く際に便利なんですよ」とKは語る

 ミックスも自身で行うKは、YouTubeで海外のプロデューサーのTips動画などを見て日々勉強しているという。

 「ボーカルのミックスでは、リップノイズを取る用途でiZotope RX 7 Mouth De-click、EQのSonnox Claro、倍音を増やす用途でPlugin Alliance mäag AUDIO EQ4、コンプはBLACK ROOSTER AUDIO VLA-3Aなどがファーストチョイスです。EQが先なのか、リップノイズを取るのが先なのか、順番はその日によって変わりますね。いろいろなルーティングを試せるのがプラグインの良さだと思います」

 こうした制作/ミックスのほとんどの作業を、KはPreSonus Studio Oneで行っている。

 「ミックスを一緒に行ってくれているシンガーソングライターの真藤敬利から“Studio Oneの音がすごく良いよ”と薦められて。試してみたら本当に音がクリアだったので、それ以来使用しています。大阪在住のR&BバンドNeighbors ComplainとのプロジェクトであるPurple Dripの曲は、ミックスもマスタリングもStudio Oneで行いました。Studio Oneと同じタイミングで購入したフィジカル・コントローラーのFADERPORT 8も制作に欠かせない機材の一つですね。ボリューム調整やパンニングは、マウスよりFADERPORT 8で調整する方がしっくりくるんです」

 制作やミックスだけでなく、少人数編成でのライブのリハーサルもこのスタジオで行っているとKは語る。

 「自身の制作の割合が多いですが、今は依頼を受けてミックスすることもあります。レコーディングに関してもすべてこの部屋で完結するので、ここ数年は外のスタジオに行っていなくて。一人で作業を完結させるこのやり方が、効率的かつリラックスしながら作業できるので気に入っているんです」

 

仕事の息抜き、何してます?

 室内での作業が多いので、外でできる良いリフレッシュ方法がないかな……と探していたときに最近サウナに出会って、とてもハマっています。午前中にサウナに行って、午後からレコーディングしたりすることもあるくらいで。

 あと、“作業中以外はスタジオで過ごさない”という点はできるだけ心がけていますね。


 Profile 

K

K:韓国・ソウル出身のシンガーソングライター。2005年にシングル『over...』で日本デビュー。ドラマ『1リットルの涙』の主題歌になった『Only Human』は、20万枚の大ヒット。近年はMADz’s、VILLSHANA、sloppy dimら若手アーティストとのコラボ作も話題を呼んでいる

 Recent Work 

『BE YOURSELF』
K
(STUDIO PURSUIT)

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