作曲、レコーディング、ライブリハまで行えるオールラウンドな作業スペース
ドラマ『1リットルの涙』の主題歌などで知られる韓国ソウル出身のシンガーソングライター、K。彼は現在、楽曲制作からレコーディング、ライブのリハーサルに至るまで、音楽活動にまつわるほとんどのプロセスをプライベートスタジオで完結させているという。いかにして、このこだわりの空間は出来上がったのだろうか?
コロナ禍をきっかけにスタジオ造りを決断
「商業スタジオでの作業は、さまざまな人がその場に関わっていたりすることもあり、自宅と違ってどうしても気を遣ってしまう部分があるんです」とKは語る。そんな彼は、2019年秋にリリースしたアルバム『Curiosity』の制作を機に、自宅の作業環境を整えたそうだ。
「ようやく環境が整った!というタイミングでコロナ禍になってしまったんです。そうしたら、テレワーク人口が高まったからなのか初めて苦情が来るようになってしまって……。ちょうど引っ越しも考えていた時期だったので、スタジオを造ろうと決断しました」
スタジオの音響設計/施工を手掛けたのはアコースティックエンジニアリング。シンガーソングライターの磯貝サイモンから紹介され、依頼することにしたそうだ。
「部屋の中にもう一個部屋を作るというイメージだったので、新築のマンションだったんですけど、壁紙や床や天井などを全部壊すところからスタートしました(笑)」
2~3週間ほどで施工は終わり、約13畳ほどあった空間は約10畳に。全体的な色味をナチュラルな質感で統一し、フラットな音を得るためにルームアコースティックはかなりデッドに仕上げてもらったという。
「スタジオ造りにとても興味があったので、施工期間は毎日来て、配線のことなどを一個一個大工さんから教えていただきました。とてもぜいたくな時間でしたね」
制作で一番大事なポイントはリラックスすること
制作機材に関してもこだわりを伺っていこう。
「モニターヘッドホンはTAGO STUDIO T3-01。フラットな音で、長時間の作業でも耳が疲れないんですよ。TAGO STUDIOは、生音にこだわって制作した2015年のアルバム『Ear Food』のレコーディングでお世話になったという縁もあって。今使用しているデスクはTAGO STUDIOの方に紹介していただいた群馬のメーカーのオーダーメイド品なんです。モニタースピーカーは “高域から低域までバランス良く聴こえる”という点をポイントにさまざまな機種を試してみて、ようやく今使っているHEDD TYPE 20 MK2にたどり着きました。インシュレーターは、ISO ACOUSTICS ISO-Puckを使っています」
ボーカリストとして、Kはマイクにも人一倍のこだわりがあると語る。
「マイクはLAUTEN AUDIO LT-386、マイクプリはNEUMANN V 402を使用しています。V402は、エンジニアの福田聡さんに紹介していただいたもので、LT-386と組み合わせたときのスピード感と温かみのバランスが良くて特にお気に入りなんです。LEWITT LCT 640はコーラスを録る際などに使用していて、独特のキャラクターが好きですね。レコーディングは、卓上のマイクスタンドを使用して座りながら歌っています。やるぞ!っていう雰囲気のレコーディングが苦手で……座りながらだとリラックスして歌えるので良いテイクが録れるんですよ。“リラックス”というポイントは、プライベートスタジオを造った理由と共通していますね。家だと“この時間までに録り終えないといけない……!”という焦りもなくレコーディングできるので最高です」
ミックスも自身で行うKは、YouTubeで海外のプロデューサーのTips動画などを見て日々勉強しているという。
「ボーカルのミックスでは、リップノイズを取る用途でiZotope RX 7 Mouth De-click、EQのSonnox Claro、倍音を増やす用途でPlugin Alliance mäag AUDIO EQ4、コンプはBLACK ROOSTER AUDIO VLA-3Aなどがファーストチョイスです。EQが先なのか、リップノイズを取るのが先なのか、順番はその日によって変わりますね。いろいろなルーティングを試せるのがプラグインの良さだと思います」
こうした制作/ミックスのほとんどの作業を、KはPreSonus Studio Oneで行っている。
「ミックスを一緒に行ってくれているシンガーソングライターの真藤敬利から“Studio Oneの音がすごく良いよ”と薦められて。試してみたら本当に音がクリアだったので、それ以来使用しています。大阪在住のR&BバンドNeighbors ComplainとのプロジェクトであるPurple Dripの曲は、ミックスもマスタリングもStudio Oneで行いました。Studio Oneと同じタイミングで購入したフィジカル・コントローラーのFADERPORT 8も制作に欠かせない機材の一つですね。ボリューム調整やパンニングは、マウスよりFADERPORT 8で調整する方がしっくりくるんです」
制作やミックスだけでなく、少人数編成でのライブのリハーサルもこのスタジオで行っているとKは語る。
「自身の制作の割合が多いですが、今は依頼を受けてミックスすることもあります。レコーディングに関してもすべてこの部屋で完結するので、ここ数年は外のスタジオに行っていなくて。一人で作業を完結させるこのやり方が、効率的かつリラックスしながら作業できるので気に入っているんです」
仕事の息抜き、何してます?
室内での作業が多いので、外でできる良いリフレッシュ方法がないかな……と探していたときに最近サウナに出会って、とてもハマっています。午前中にサウナに行って、午後からレコーディングしたりすることもあるくらいで。
あと、“作業中以外はスタジオで過ごさない”という点はできるだけ心がけていますね。
Profile
K:韓国・ソウル出身のシンガーソングライター。2005年にシングル『over...』で日本デビュー。ドラマ『1リットルの涙』の主題歌になった『Only Human』は、20万枚の大ヒット。近年はMADz’s、VILLSHANA、sloppy dimら若手アーティストとのコラボ作も話題を呼んでいる
Recent Work
『BE YOURSELF』
K
(STUDIO PURSUIT)