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トリプルファイヤー〜7年ぶりのアルバム『EXTRA』はいかにして誕生したか?

“普通の音にしない”
 満を持して発表された傑作の制作プロセスに迫る

吉田靖直(vo)、鳥居真道(g/写真左)、山本慶幸(b)、大垣翔(ds)から成る4人組バンド、トリプルファイヤー。吉田による唯一無二の歌詞世界/ボーカル・スタイルと、3人のストイックにグルーヴを追求した演奏がシナジーを生み出し、ライブ・シーンで確かな評価を獲得しつづけている。彼らが7月に『FIRE』以来となる7年ぶりのアルバム『EXTRA』を発表した。今回は、バンドで楽曲制作の中心を担う鳥居と、前作に続いてミックス/マスタリングを務めたThe Anticipation Illicit Tsuboi(写真右)の2人に、Tsuboiが拠点とするRDS Toritsudaiで話を伺った。裏話的な内容から目指すサウンドまで、終始和やかな雰囲気で行われた2人へのインタビューをたっぷりとお届けしていこう。

全部消してイチからやり直した

──制作はいつ頃からスタートしましたか?

鳥居 2016年から2020年までが曲作り期間で、2020年11月から2021年の夏頃まで、半年以上かけてレコーディングした感じです。

──レコーディングからリリースまで3年ほど間が空いていますね。その理由は?

鳥居 (笑)。

Tsuboi 僕はもう今日、土下座をしなきゃいけない(笑)。本当に謝んなきゃいけない……でも、遅れたことにはちゃんと理由があって。2017年の前作『FIRE』が、僕らの周りでは、“素晴らしい!”ってなっていたんですけど、一部の人からは僕がやりすぎだっていう声もあって。ヒスノイズがすごくうるさかったりとか、SNのノイズ比率が結構高いんですよ。それを聴くと、普通の人は音が悪いって思うじゃないですか。かっこいいノイズじゃなくて、普通に間違ったノイズみたいな。それは僕の意図でもあって、気にならない人は気にならないけど、気になる人が8割くらいいまして、“もっと普通に聴きたかった”とか、シンプルに“音が悪すぎる”っていう意見があって。それを聞いて自分の考えが変わるってことは全然なかったんですけど、今回また依頼があったときに、同じようにするのはちょっとアレだよなと。売れ線というか、今のプラットフォームでどうしたら一番聴いてくれるかを考えてミックスしたんです。

Tsuboiが制作の拠点としているスタジオ、RDS Toritsudai。各種アウトボードなど、Tsuboiこだわりの機材がうずたかく積み上がっている。奥にあるコンソールの上にはATC SCM25A Pro MK2を配置。手前のモニターにはAVID Pro Toolsの画面が映っており、キーボードの脇には、DAW内の作業をマクロやスクリプトにより自動化するアプリケーション、SoundFlowのコントローラーとして使用するELGATO Stream Deckが置かれている

──アプローチを変えたのですね。

Tsuboi それで一通り終えて、メンバーに聴かせようかなと思ったんですけど、ちょっと待てと。なんか違うんだよなっていうのをずっと繰り返しているうちに、“俺に依頼されてるのは、これじゃねえだろ”と思って、全部消してイチからやり直しました。従来の方法というか、僕だったらこうするなっていうやり方。例えば、外のスタジオでよくレコーディングするので、合間の時間に機材を通してみたり、みんなが飯を食ってる間に、“ちょっとごめん”ってテープを通したり。今作は、全部で20カ所くらいのスタジオでいろいろな機材を通してます。それだけで1年くらいかかっちゃったけど、僕の中ではすごく重要で、功を奏している。でも、さすがにここまで時間がかかるとは思わなかったです(笑)。

スタジオの左手にあるアウトボード類。最上段にShadow Hills Power Supplyがあり、以下順番に、AMEK System 9098(コンプ/リミッター)、パッチベイ、AVALON VT-737SP(プリアンプ)、SHA DOW HILLS Mastering Compressor、SOLID STATE LOGIC Fusion(マルチプロセッサー)、FX- G384(コンプ)、GML 8200(EQ)、NEVE 1081、33115(以上、プリアンプ)。こちらのパッチベイをはじめ、使用したケーブルはリコールできるように記録を残している

ADコンバーターのDBTECH NOLOGIES AD122。下のAD 122-96 MK.IIと書かれているほうは、TONEFLAKEの佐藤俊雄がモディファイしたもの。Tsuboiいわく「佐藤さんのはガツンって来る。替えが効かないです」

SPL Machine Head Model 9737は、テープ・サチュレーターなどの機能を持つマルチプロセッサー。2台でも個体差があり、写真上の電源がついているほうをTsuboiは20数年来使い続けているとのこと

──『EXTRA』はそれが音に反映された、素晴らしい音像になっていると感じます。

Tsuboi この間にライブでは『EXTRA』の楽曲をガンガンやっていて、何なら次のアルバムができるくらい新曲をどんどんやってるという話を聞いていて、オーディエンスとしてはアルバムどうなってるんだ?ってなるじゃないですか。この“どうなってるんだ?”っていうのと“今出たら面白いんじゃないか?”のせめぎ合いですね。だから、ある時期からトリプルファイヤーの情報を遮断してたんですけど、別の現場で会ったシマダボーイとか澤部(渡)君から、ちょくちょく“アルバムどうなってんの?”って聞かれていました(笑)。

──待っている間、鳥居さんは?

鳥居 完成すればいいというか。できないんじゃないかみたいな不安が結構大きくて、その不安をTsuboiさんに投げかけたりもしていましたね。でも途中経過とかはなくて、“完成しました”というところまで待っていました。

──もう少し早いほうが良かった?

鳥居 今となっては、もう分かんないですね。ただTsuboiさんが“これだ”って思ってないのに、催促してもしょうがないなっていう気持ちはずっとありました。

Tsuboi 僕は、今だったんじゃねえかなと……これはいつ出しても言おうと思ってたんですけど(笑)。今後はそんなことはなく。何なら“次”って依頼が来たら、逆に今度は1日、2日で終わらせるくらいの気持ちでいようと、僕の中で誓いました。

──そもそも前作でTsuboiさんに依頼したきっかけは何なのでしょうか?

鳥居 ミックスを誰に依頼するのがいいか話しているときに、周りからTsuboiさんの名前が結構挙がっていて。ちょうど、藤井洋平さんの『Banana Games』とかを好きでよく聴いてたので、お声がけした次第です。

──今作を依頼するときに、先ほどTsuboiさんがおっしゃっていた、前作のときの“ノイズが~”といった周りの声は気にならなかったですか?

鳥居 全然……。そういうことを言う人もいるんだなっていう感じです。

デモで9割方完成させる

──曲制作はどのように行っているのですか?

鳥居 毎回違うんですけど、APPLE Logic Proでドラムのビートを組むところから始めたり、使えそうなギター・リフができたらループさせて、ベースを重ねたりしています。

鳥居の作業デスク。コンピューターはAPPLE Mac Mini、DAWはLogic Proで、オーディオ・インターフェースはFOCUSRITE Scarlett 2I2を使用している。スピーカーのJBL PROF ESSIONAL 4312Mはリスニング用で、制作の際はヘッドホンのAKG K7 01を使っているそう。MIDIキーボードはKORG MicroKey-37、マイクのMXL V67Gは、ポッドキャストや配信などの収録用とのこと。画面は「相席屋に行きたい」のレコーディング・データをLogic Proで立ち上げたもので、オーディオを細かく分割しているのが見て取れる(*)

──オーディオ・インタフェースは何を?

鳥居 FOCUSRITE Scarlett 2I2です。ギターやベースは直で挿して録っています。APPLE Macが古いモデルなので、なるべく負荷をかけないよう、アンプ・シミュレーターやドラム音源などのプラグインはLogic Pro付属のもので済ませています。

──Logic Proで作っているものは、あくまでもデモという扱いですか?

鳥居 そうですね。9割くらい完成させてから、バンドでスタジオに入ってひたすらブラッシュアップしていきます。

──鳥居さんがさまざまな媒体で執筆されているテキストを読むと、リズムに対しての造詣が深いと感じます。ドラムを打ち込む際に意識していることはありますか?

鳥居 自分の好きなタイプのグルーヴというものは割とカッチリあって。あるんですけど、それを人にやってもらうのは大変だから、なるべく分かりやすく伝える。デモの時点で細かく動かしてグルーヴを固めるよりは、グリッドに沿ったシンプルなものを渡すようにして、スタジオで練習するときに細かく口頭で伝えています。ベースもそうですね。気合いでどうにかしてくれるだろうと(笑)。

──レコーディングはどちらで?

鳥居 STUDIO CRUSOEでベーシックを2日で録りました。ほかにもいろいろなスタジオを使っています。

──ボーカルの制作は?

鳥居 いったん吉田(靖直)君にお任せでボーカルを乗っけてもらいます。彼も得意なリズム、苦手なリズムがあるので、苦手そうだなと思ったらこっちでメロディらしきものを用意して、“これに歌詞を付けて”と提案します。

──デモで9割方作っているとなると、鳥居さんの頭の中にメロディも浮かんでるのかなという気がしましたが、そこは切り離して考えている?

鳥居 そうですね。吉田君の場合、あまり“こういうふうにやって”と言っても、そんなにやってくれないっていうか(笑)。自分になじむ方法でやってもらったほうが、良いものになるんですよ。

Tsuboi そうだったんだ。ヒップホップっぽいですよね。バック・トラックを作って、歌を自由にやってもらうっていう。面白い。

──鳥居さんの方でメロディを付けようと思うのは、具体的にどういうときですか?

鳥居 一番大きな指標が、ただ語っちゃっているとき。リズムに乗らないで、なんとなく間を取ってしゃべっている感じになっちゃっていると、“あんまり良くない”と言います。今回は、10曲中7曲くらい、ガイドを入れてレコーディングしました。歌詞もすり合わせ作業というか、“ここ、語呂良くないよね?”みたいに介入したりしています。

──ボーカルのマイクは何を?

鳥居 ちょっと覚えてないです。

──レコーディングのエンジニアでクレジットされている、馬場友美さんが持ってきたものを?

鳥居 そうですね。

Tsuboi いつも同じ音がしてますけどね、馬場ちゃんが録ると。それが良いんですよ。すごく安心感があります

「相席屋に行きたい」のリズムを編集

──ベーシックは、せーので一発録りですか?

鳥居 そうですね。

──クリックも使っている?

鳥居 使っています。

──「相席屋に行きたい」はイントロがジャム・セッションのような感じで、クリックよりその場のグルーヴを重視しているのかと思いました。

鳥居 もともと不器用なバンドなんで、分かりやすい指標が一つあったほうが、みんなやりやすいところはあります。

Tsuboi 僕のほうではグリッドに対してどれだけずれているかが、画面上で答え合わせのように見えてるので、“うわ~ヨレてるね~”みたいな(笑)。

鳥居 自分の好みとしては、割とグリッドにハマっている演奏のほうが好きなところもあるんですけどね。そこはもうしょうがないというか、“人間だもの”みたいな感じで楽しんでます(笑)。

──レコーディングした素材を、鳥居さんのほうで編集することもあるのでしょうか?

鳥居 「お酒を飲むと楽しいね」の冒頭、吉田君の“カハー”は、オーディオをコピペして繰り返しています。

Tsuboi あれは僕も感動しました。最高の始まりだなって。

鳥居 ブラック・サバス「Sweet Leaf」の、多分マリファナを吸って咳き込んじゃってる、みたいなリピートをやってみました(笑)。

──そのほかには?

鳥居 「相席屋に行きたい」のドラムとベースは、オーディオ素材をLogic Pro上でめっちゃ切り貼りして整えました。レコーディングしているときに、“これ、終わんないわ”と思ったんです。良いテイクが録れるまで時間がかかりそうだから、自分でやっちゃおうと。

──何が気になったのでしょうか?

鳥居 ずっと繰り返しなので、ムラがあると曲が生きない。キレッキレで、タイトにしたほうがかっこいいだろうという判断でした。でも少しヨレているのが自然かなと思って、単純なコピペのループにならないようちょっとずつずらしたりはしましたけどね。それ以外は何もいじっていないです。ちょっと味を占めちゃったところがあるので、次回からはもっといろいろやるかもしれないです。

気持ち悪いのが気持ち良い

──バンド・メンバー以外にゲストも参加されていて、個人的には池田若菜さんのフルートが印象的に感じました。

鳥居 もともとは「相席屋に行きたい」のイントロで、ハーフ・テンポのゆっくりしたところでリード楽器が欲しいなと思ったときに、ヴルフペックのサイド・プロジェクト=ザ・フィアレス・フライヤーズが、アフロ・ビートっぽい上でサックスにワウをかけていてる曲があるから、それをまねしてみようと。けど、サックスをそのままやっても面白くないなと考えて、フルートにしよう、だったら池田さんに頼もう、という流れです。ほかにもフルートが合いそうな曲でお願いしました。

──「お酒を飲むと楽しいね」のボーカルは、コーラスがかかっていたり、ANTARES Auto-Tune的な効果がかかっていたり、エフェクティブな処理が行われています。

鳥居 全部Tsuboiさんのアイディアですね。

Tsuboi 大体僕が悪さをすると誰かが止めるんですけど、このチームは誰一人として止めないので、そのまま作品になっています。ただ当てずっぽうでやってるわけじゃなくて、あそこは歌詞的に……普通だと、ちょっと違う視点に移行したときにエフェクトで位置を変えることがあるんですけど、Auto-Tuneがそれに使えるんじゃないかなと。こういう使い方をしたことはほとんどなかったけど、“すげえかかる、この人。おもれ~”って(笑)。1曲目だし、早いかなと思ったんですけど、ここしかなかったです。

鳥居 最初からインパクトがあって、もう笑っちゃうみたいな(笑)。

Tsuboi ライブでもうこの曲をやってるはずなので、ちょっと違うところがあってもいいんじゃないかっていう意味合いもあります。

──「ユニバーサルカルマ」のイントロからはディス・ヒートが思い浮かびました。

Tsuboi ヤバいよね、あれ。めちゃめちゃ感動しましたよ。

鳥居 あれはもう、完全にディス・ヒートです。ドラム始まりの曲で、ライブで鍵盤がサポートに入ったときに思いつきました。

──「ユニバーサルカルマ」は、拍が12だったり、「ここではないどこか」も3>4>4>5でコード・チェンジしたり、この辺りもリズムのこだわりの部分なのかと感じました。こういうアイディアは、どこから湧いてくる?

鳥居 ひらめきって感じですね。ちょっとトリッキーなリズムの曲が好きなので、ことあるごとに出していきたいと思っています。攻めつつ、けれどもポップな感じではやっている。“気持ち悪いのが気持ち良い”くらいのあんばいです。

──「ここではないどこか」は、PLASTICMAIさんをゲストに迎えたデュエット形式です。

鳥居 個人的に歌詞の内容がすごく刺さりすぎて、聴いているのがつらかったんです。自分のことを責められてるんじゃないのかみたいな心境になって、ライブでミスったりしてたんですよ。だから、吉田君が1人で歌ってると生々しいから、かわいらしい声の人と歌えば中和されるんじゃないかと。そしたら、男女から同時に責められてるみたいな仕上がりになって面白かったです(笑)。

Tsuboi トリプルファイヤーだから吉田君をメインに立たせようとミックスしたんですけど、成立しないんですよ。それは多分、鳥居君と同じ理由かなと。音的なニュアンスとしても成立しないから、完全にイーブンにしなきゃダメだなと思って。

──男女がL/Rでくっきり分かれています。

Tsuboi そこら辺は感覚で、別にセンターに音を置くのが当たり前みたいな考え方は一切ない。L/Rのセパレーションは、僕の中ではほぼセンターに近いくらいの気持ちです。

──さまざまな機材を通してミックスしたということですが、その中でもどういった音を意識して進めていったのでしょうか?

Tsuboi 2年以上ずっと聴いて隅から隅まで分かってしまっているから、そんな人でもちゃんと聴けるようなミックスって何なんだろう?っていうところまで来てしまっていて。それでもフレッシュにできたとは思います。さっき言った通り堂々巡りで、普通のミックスをしていた経緯があり、普通じゃなくしたらすべてがパタパタと解決していったっていう感じです。結局やってることは別に前作とそんなに変わってない気はしていますけどね。彼らの意図をくみつつ、あとはこっちでやりたい放題やる。明確なリファレンスっていうわけじゃないんですけど、僕がもともと南米やアフリカのレコードが好きなんですよ。ああいうホコリっぽい感じというか、普段みんなが使わなそうな古い機材があったら、採用するしないは関係なくガンガン通していた時期もありました。普通の音にしないっていうのは、どの素材に対してもコンセプトとしてあった。そんなやり方だと普通は成立しないんですけど、トリプルファイヤーだとバッチリ成立してしまうというのがすごく面白いですね。

──なぜ、それが成立したのでしょうか?

Tsuboi 普通にやって成立しなかったからだと思います(笑)。例えばサンレコで特集しているようなノウハウ記事って、全部とは言わないですけど、プラグインを使って今の音楽にどう近づけていくかを再現するものが多いですよね。うちらがやってることって全く逆というか、そこから遠ざけるためのアプローチなんです。分かりやすく言うと、スーッて伸びて、奇麗で、レンジを広げて、というやり方だと、1つもハマんなかった。仮にキックやスネアだけアナログだと、デジタルで処理したほかのパートの音が弱くて浮いてしまいます。だったら全部の音を強くすればいいじゃんって。『EXTRA』の素材1つをソロで聴いてみても、生っちょろい音は1つもない。みんなの主張が強いです。

──イチからやり直すことでたどり着いたと。

Tsuboi 当初迷いがあったのは、最後に乗っかる吉田君のボーカルの主張が、ほかのすべてを蹴散らすほど強いっていう確証があったからです。でも、方針を変えたら迷いなくやれた。だからこそ、割とちゃんとした機材を通さないと、しっかりした音にならないので大変なんです。アナログじゃなかったら絶対できないバランスだと思います。プラグインは入門編としては良いと思うし、海外ではそれが主流で、アナログもやりすぎるとノイズが乗ってくるみたいなデメリットはある。だから、それはこっちで取捨選択できるのが一番良い。両方できたほうが絶対良いじゃないですか。普段、ほかのジャンルのものだったら、今っぽいミックスの仕方とかもしてるんですけど、トリプルファイヤーはそれを分かった上でやっているんです。2024年にアウトプットするものとして、何が一番面白いかを模索した感じですかね。その間に僕もいっぱい機材を買ったりしたんで、それを試せたのもすごく大きな気がしています。

──TsuboiさんのXを拝見していると、決してプラグイン=悪いという考えを持っていないというのは伝わってきます。

Tsuboi だって僕たぶん、日本一プラグインを持ってると思いますよ(笑)。昔はプラグインでいじって実機に差し替えるっていう謎の思考回路だったんすけど、最近はどっちも使っていますね。アーティストに合わせるというより、僕が僕に合わせる。どれを使えば一番良い音にできるかという基準で選んでいます。

最終段でカセットを通す

──スタジオにある機材で活躍したものは?

Tsuboi 基本、全部です。トラックもすべてサミングしています。『EXTRA』では、最後にカセット・テープを通しています。デッキはSONY TC-K333ESGで、ヘッドでバイアスの調整がリアルタイムでできる。ハイが足りないときは、EQで持ち上げるんじゃなくてバイアスでも調整できます。あとはケーブルもいろいろ試していて、気になる帯域があったらEQじゃなくてケーブルを挿し変えたりするところから始めるんで。

32chサミング・ミキサーのKA HAYAN EPSILON 32-500。アウトを32ch仕様にしたAVID Pro Tools|MTRXからの出力をサミングしている

カセット・デッキのSONY TC- K333ESGは、マスタリングの最終段に通したそう。テープはクロームを使用。Tsuboiは「テープを替えるだけでも音が変わります。アナログ・テープを用意するのは大変だけど、カセットは簡単にできるからお勧めですね」と語る

──単に機材を通すだけでなく、ケーブルにまで配慮されているのですね。

Tsuboi 日々買っては試しています。リコールできるように、どのケーブルをどこに挿したかをきちんと残していますよ。

──ベースはトレブル感がなく低域らしいと言えるような、豊かなサウンドに感じました。あれはレコーディングの段階から?

鳥居 どうですかね。割と丸い音はベースの山本(慶幸)君に注文していました。

Tsuboi 僕の耳は、みんなが考える標準の帯域よりも、さらに下が標準になってる。だからどうしても下が少し強めになるというのはあるかなと。ただ、ベース・ラインとして上の音域にいったときに弱くならないようにするということには気をつけています。

──ボーカルが強いというお話もありましたが、ミックスとして何か配慮をされましたか?

Tsuboi 僕はリリックが聴こえないミックスには絶対しないんで。一字一句、絶対聴こえるようにしてます。音量を上げてダイナミクスはそのままっていうパターンか、“音量を上げないでくれ”っていう場合は、オートメーションを書きまくる。トリプルファイヤーは、アレンジですみ分けがしっかりできているから、そのまま生かしているところが多いです。

──最後に、今作についてあらためて鳥居さんの感想を伺えますか?

鳥居 Tsuboiさんのお話を聞いて思ったんですけど、自分が聴いてる間も、音の一つ一つの存在感……オラついてはいないけれど怖い人がいるみたいな、立体的に耳に入ってくる。それがアルバムの音に対する一番の感想です。なるべく大きな音量で、近所迷惑になっても致し方ないという感じで聴いてほしいです(笑)。

──次の作品の構想も既にある?

鳥居 曲のストックはあるんですけど、そのままアルバムにしてもあまり面白くないなと。

Tsuboi あとはこっからみんなまた歳を取っていくから、年齢や周りを取り巻く状況に負けない心があるかどうか(笑)。

鳥居 負けない心、大事ですね(笑)。

Release

『EXTRA』
トリプルファイヤー

(SPACE SHOWER MUSIC)

Musician:吉田靖直(vo)、鳥居真道(g)、山本慶幸(b)、大垣翔(ds)、池田若菜(fl)、沼澤成毅(k)、シマダボーイ(perc)、PLASTICMAI(vo)
Producer:トリプルファイヤー
Engineer:The Anticipation Illicit Tsuboi、馬場友美
Studio:RDS Toritsudai、STUDIO CRUSOE、STUDIO UEN、STUDIO FAMILIA渋谷、他

 

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