TM NETWORK『DEVOTION』制作インタビューと併せて、小室哲哉の制作拠点に潜入! 小室の右腕としてプログラミングを担当する溝口和彦、赤堀眞之の両氏にも、『TM NETWORK TOUR 2022“FANKS intelligence Days”』からアルバム『DEVOTION』にかけての制作について話を伺った。
細かいノリが出るように打ち込みをリメイク
——2021年12月号での取材時と、機材面での変化はありましたか?
溝口 基本的には変わっていませんね。一番使用頻度の高かったソフト・シンセはREFX Nexus 4です。ただ、小室さんがNexus 4で演奏した音色を後で差し替えたり補強したりはしています。でも、アルバム未収録ですが「Whatever Comes」と、アルバム・タイトル曲の「DEVOTION」などの新曲はギターから作り出すことが多かった……小室さんが自分でギターを弾くことも多かったです。延々とリフを試していたこともありました。
赤堀 PAUL REED SMITHを弾くことが多かったですね。
溝口 ほかにもスタジオの外に結構いっぱいギターがあるんです。しばらく使っていなかったものはメインテナンスをしたりして。PAUL REED SMITHが多かったのは、ビンテージのものなどと比べて弾きやすいからでしょうね。
——赤堀さんもエレクトリックギターで数曲クレジットされています。
赤堀 小室さんといろいろ試す中で、細かいカッティングとかを弾いたりしました「このコードで、これ以外のボイシングはある?」と聞かれて、録ったものがそのまま残っていたり。
——ギターの録音はどのように?
赤堀 ライブでもそのまま使えるように、LINE 6 Helixを2台お借りしていて。1台は木根さんの手元にあって、1台は僕が管理しています。そうするとパソコン経由でデータの共有ができるので、秋からのツアーのことも考えてデータを木根さんにお渡ししています。ギター・アンプもブースでいろいろ試しましたが、結果としてHelixになりました。
——そういう意味ではライブと制作がシームレスになっていますし、まさにこのアルバムはツアーで演奏したアレンジが反映されています。既存曲のリプロダクションは、何かテーマがあったのでしょうか?
溝口 やっぱり3人だけでステージに立つので、バンド編成ではないというところは当然あったと思います。過去曲のデータ素材も一部はありましたが、基本的には全部作り直す形でした。本当に打ち込み直す……例えば16分音符の間の細かいノリ、ギターやドラムが担っていたライブ感を補完する要素を細かく作りました。
——ドラムのサウンドには何を使ったのですか?
溝口 生ドラム系はTOONTRACK Superior Drummer 3で、それにサンプルをNATIVE INSTRUMENTS Battery 4で重ねています。ライブでも、いわゆるエレクトリックなドラムと、生系のスネアを足してます。やっぱりTMのサウンドはかなり初期から実は生が多い。例えば「Self Control」のスネアはかなりサウンドを決定づけていますしね。こうすることで、エレクトロニック・ドラム系のサウンドに輪郭が加わるんです。
「TIME TO COUNTDOWN」のオーケストレーション
——小室さんとお二人の作業分担は?
溝口 ベーシック・アレンジは小室さんがやって、僕と赤堀君がオペレートする。それを元にアイディアを出し合ったり、みんなで詰めていく形です。
——溝口さんと赤堀さんの明確な役割分担はあるのですか?
赤堀 僕はどちらかというと生モノ系。打ち込みっぽい音やリズム・マシン的なノリ感は溝口さんが得意なのでお任せし。そこで「何か足して!」となれば足す。
——では「TIME TO COUNTDOWN」のイントロのオーケストレーションはどのように?
赤堀 音源はSPITFIRE AUDIOやVIENNA SYMPHONIC LIBRARYのSynchron Seriesに、パーカッションとしてHEAVYOCITY Damageのワンショットなどを加えています。最初は小室さんが過去のライブで演奏しているピアノのイントロを参考に、揺れなども反映してみようとしたのですが、結局はかっちりしたオーケストラの方がいいということになりました。ただ、三連のフレーズで、パーカッションがリズムを刻む形になると、どうしてもハリウッド映画のようになってしまうので、ストリングスがメインのフレーズを演奏して、そこにブラスがカウンターとして入り、最後はファンファーレで終わるような形になりました。
いつもと違うソフト・シンセから音を探す
——Nexus 4以外にもソフト・シンセは使われましたか?
溝口 アルバムに先駆けて制作を始めた「Whatever Comes」では、XFER RECORDS SerumやREVEAL SOUND Spireといった、いつもと少し違うものから音をずっと探してましたね。なので「DEVOTION」のようにその後から制作に入った曲も、そうしたチョイスを反映した形になっています。ギターもブースでアンプを爆音で鳴らしてみたりしたんですが、結果的にHelixになりましたし。そういう意味でここ最近の中ではいろいろ試行錯誤した……パッと作るような形ではなかったですね。
——小室さんが試行錯誤していく中で、時間がかかるのはどの作業なのですか?
溝口 リフじゃないかな?
赤堀 そうですね。いろいろ試して、しっくり来るようなものを探すような形でした。
溝口 並行して音色とかは差し替えてみたりしています。ギターも、音源を重ねて輪郭を出したりしていますね。サビではそのレイヤーする数を減らしてうるさくならないように調整したりもします。
——最近では小室さんはMOOG Minimoog Model Dを気に入っているとおっしゃっていました。
溝口 はい。それ以外のハードウェア・シンセでは、MOOG Moog Oneを少し使っていたくらいです。Minimoogはすごく弾いてます。
赤堀 やっぱり全部のパラメーターが表に出ているのは分かりやすいですよね。
——今回のアルバム制作で印象的だったことは?
赤堀 「WE LOVE THE EARTH」のコード感が時代にそぐわないって、小室さんがここでバーンと新しい形を作り出したのが印象的でしたね。原曲の明るいコード感が今の時代に合わないと。今の時代に合うものというイメージがあったのかなと思いました。
溝口 今回のアルバムは、今までの2年間のまとめでもあり、この先に向けた新曲も入っている。僕も制作にかかわりつつ、そのどっちなんだろう?と思いながら作業している部分もありました。秋のツアーも、どういう形になるのか、これから探っていくんだと思います。
Softwares for「DEVOTION」
Sequences
Guitars
Synthesizers
Beats
【インタビュー】小室哲哉が語るTM NETWORK『DEVOTION』の制作過程
【インタビュー】TM NETWORK『DEVOTION』を小室哲哉が全曲解説
Release
『DEVOTION』
TM NETWORK
ソニー・ミュージックレーベルズ/ALDELIGHT
初回生産限定盤:MHCL-30834~5、通常盤:MHCL-30836
Musician:宇都宮隆(vo)、小室哲哉(k、g、cho)、木根尚登(g、cho)、溝口和彦(prog)、赤堀眞之(prog、g、b)、松尾和博(g)、佐々木詩織(cho)、SAK.(cho)、会原実希(cho)、大越王起也(g)、iBerry(g)
Producer:小室哲哉
Engineer:佐藤雅彦(mixmix)、奥田裕亮(Sony Music Studios Tokyo)、デイヴ・フォード、佐竹央行、伊東俊郎、溝口和彦、赤堀眞之
Studio:Pavillions、Basement、HeartBeat、MECH、Sony Music Studios Tokyo