最初に曲作りを始めた頃のように、シンガー・ソングライター的なアプローチで取り組みました
小山田圭吾のソロ・プロジェクト=コーネリアスが、6年ぶりとなるオリジナル・アルバム『夢中夢 -Dream In Dream-』をリリースした。そのタイトルが表すように、夢の中にいるような心地よい浮遊感が全体を包み込み、さらに小山田のストレートな歌ものの雰囲気も持ち合わせた、コーネリアスの現在地を示すマスターピースとなっている。小山田のほかに、プログラマーの美島豊明氏、エンジニアの髙山徹氏、「火花」のMVを手掛けた映像作家の辻川幸一郎氏、CGアーティストの犬童宗恒氏へもインタビューを実施。さまざまな角度から迫り、その類いまれなる作品の魅力を解き明かしていこう。
小山田圭吾がボーカルとギター、美島豊明氏がプログラミングを担い制作された『夢中夢 -Dream In Dream-』。これまでと同様の手法で制作されていると言えるが、確かに新たなコーネリアスの到来を感じられる。まずは制作拠点である3-D Studioにて、小山田に話を聞いた。
テープに収まる46分
——今作は『Mellow Waves』から6年ぶりのオリジナル・アルバムで、発売日も全く同じ6月28日です。
小山田 そうだったんだ。全然気づいてなかった(笑)。あんまり記憶にないけど、真夏は嫌だなっていうのは思ってた気がします。
——曲数も10曲、再生時間も40分台と、統一しているような印象を受けました。収録曲数や再生時間については意図的なものですか?
小山田 そうですね。やっぱりアナログ世代だし、カセットテープ世代というのもある。アナログのA/B面で済むぐらいというのと、テープに収まる46分がアルバムのサイズの基準になっちゃってて。アルバムっていう概念が今はほとんどないと思うんですけど、最初から通して聴いたときに、46分以内だったらまだ集中力が持つ。自分の中にはずっと46分というのが何となくあって、“もうちょい聴きたいな”くらいが程よいのかなと。
——普段のリスニングでサブスクは使っていないのですか?
小山田 めっちゃ使ってます(笑)。自分もアルバムを通して聴くことってほぼないですし、今はそういう聴き方をする人もいないのかもしれないですけど、やっぱり自分の育った頃に聴いていたアルバムという形は頭に残っているので。
——本誌の表紙やこのインタビューの撮影では、『夢中夢 -Dream In Dream-』のジャケットなどを投影する形でお願いしました。今作のジャケットはどのようなイメージで制作されているのでしょうか?
小山田 もともと『変わる消える』を12インチでリリースしたときに、『Mellow Waves』で使った自分の叔父(銅版画家の中林忠良氏)の版画作品とはモードを変えて、“多重露光”にしようというイメージがありました。
——複数の写真を重ね合わせる写真技法のことですね。
小山田 例えば目の写真が欲しいときに、Instagramとかで自分のイメージに合う写真を探して、その方にコンタクトを取って作品を使わせてもらっています。いろいろな写真を多重露光で加工して、イメージを形にしていくという作り方ですね。『変わる消える』のジャケットは、ポーランドの19歳のカメラマンのInstagramから見つけてきたもので、裏ジャケの橋の写真は、アメーバブログで見つけた広島の方の写真です。橋の光っている部分が目に似てると思って、コンタクトを取って使わせてもらっていて。今作のジャケットもAPPLE iPhoneで撮影した自分の横顔と、見つけてきた写真を多重露光で組み合わせて作りました。だからコラージュというわけではないんです。
——多重露光というのが、まさに作品のテーマ、内容とも合っているように思います。
小山田 自分のイメージに合う写真を撮るよりも、イメージに合う写真を探して組み合わせた方が、早くイメージに近づけられるかなと。SNSだとコンタクトも取りやすいし、日本だけじゃなくて世界中からいろんなものが探せる。広島の方は写真を専業にしている方ではないですけど、ポーランドと広島がなぜかここでミックスされている(笑)。そういうのも面白いなと思いました。
制作再開はギターを弾くところから
——『Mellow Waves』では「あなたがいるなら」をはじめ入り組んだリズムのアプローチが印象的でしたが、今作は小山田さんのストレートな歌ものという印象を強く感じました。制作方法など、変わった点はあるのでしょうか?
小山田 方法とかは基本的に変わらなくて、ここ(3-D Studio)でずっとやっていて。多少ソフトウェアやパソコンとかのアップデートはあったんですけど、何かすごく新しい機材や楽器の導入はしていないです。ただこの6年の間に、コロナ禍とか自分の騒動とか、かなりいろんなことがあって。その前は『Mellow Waves』のツアーがあったりMETAFIVEをやったりで、実際制作期間に入ったのは……多分最初に手をかけたのが「火花」で、「変わる消える」を発表した辺りからアルバム制作を始めています。
——「変わる消える」は、mei eharaさんのボーカル・バージョンを2021年7月に発表されていますね(編注:リリース後に配信を停止。2022年7月に再配信された)。
小山田 騒動の後、しばらく音楽を作れない状況になってしまって。本格的な制作期間に戻ったのは2022年の初めです。音楽をまた作りはじめようと思った頃……これまでは割と、スタジオに来て“何をやろうかな”みたいなところから曲を作ってたんですが、その前にリハビリじゃないですけど、自宅でギターを弾いたりすることから始めていて。ギターをポロポロ弾きながらメロディを考えるという、最初に曲作りを始めた頃のようなスタイルを久々にやっています。
——デモとして録音を?
小山田 いや、デモには録らないですね。何となく自分で覚えておいて。
——『Mellow Waves』発表時の2017年8月号では、テンポを決めるところから作り始めるというお話でしたね。
小山田 もちろんこれまでの方法で作った曲もありますが、メロディやコード進行を作って、それをモチーフに進めていった曲も多いです。実はアルバムの倍ぐらい曲ができていたんですけど、アルバムとしてどうまとめようかなと思ったときに、自分で歌詞を書くシンガー・ソングライター的なアプローチというか、全体の印象がそうなるようにまとめるという方向性が見えてきて。あまり自分でやってこなかったような形なので、こんな感じのアルバムになったと思います。
——歌詞を作るのは苦ではない?
小山田 もともとあんまり好きじゃなくて。『Mellow Waves』でも自分で書いてますけど、坂本(慎太郎)君に頼んでもいる。坂本くんと作った曲は全部めちゃくちゃ気に入ってて、またやったら良いものができるっていうのは分かってたんですけど、今回はあんまり坂本君に頼らず自分でやってみようかなと。シンガー・ソングライター的なアプローチだと、その方が説得力もある。METAFIVEで作った「環境と心理」が割と自分でもうまくいったと思っていて、この感じでやったらアルバム1枚分ぐらい作れるかなと。
——ボーカル録音も3-D Studioで?
小山田 そうですね。
——録音後にはどのような処理を?
小山田 ここではそれほど細かなことはしていないです。基本的には空間のない密室的な録音なので、そこに深めのリバーブやディレイをかけて、コントラストを作っていきました。
——ボーカルがディレイで繰り返されることによって、歌詞がより引き立っているようにも感じました。
小山田 ディレイは昔からすごく好きで、歌だけじゃなくてあらゆる楽器に使っています。よくやるのは、ディレイがモザイク状に組み合わさることでグルーブを出すような使い方です。“Dream in Dream”感というか、浮遊感みたいなイメージとディレイには近い感覚があって。実音とその響き……頭の中に残響がずっと残っていくような雰囲気です。
ベーシックにある80'sサウンド
——楽器の面だと今作ではギターはもちろんですが、シンセも構成要素として大きな役割を担っているように感じました。
小山田 「霧中夢」はギターがほとんど入っていないインストゥルメンタルだったりしてシンセの曲も多いけど、あんまり意識はしていなくて。曲によってですね。
——近年はジャンルとしてシンセウェーブなども一般化していますが、小山田さんの中ではどのようなシンセ・サウンドをイメージしているのでしょうか?
小山田 僕は80's育ちなので、その頃の音楽がベーシックになっています。昨今言われているようなシンセウェーブではなくて、プリファブ・スプラウトのトーマス・ドルビーの音作りとか、ブルー・ナイルとかの感じは何となくイメージの中にもありました。
——意識的にというよりは身になっているもの?
小山田 そうですね。ギター、ベース、ドラムのアンサンブルの中にシンセがちょっと入ってくるみたいな、いわゆるギター・バンドという感じでもない。そういう曲は割と多いかもしれないです。
——シンセは何を?
小山田 APPLE Logic Pro付属のES2がほぼメインです。音色も割と決まってて、それをシグネチャー・サウンドっぽくなるように、いろいろなところで使っています。
——ベースもシンセ・ベースの音色が多いですね。
小山田 シンベは『Mellow Waves』からNATIVE INSTRUMENTS Monarkです。バンドのライブでは大野(由美子)さんがMOOG Minimoogでベースを弾いていて、普通はバンドのアンサンブルの中にシンベだけ入れるってあんまりないと思うけど、MOOGはやっぱり低域の迫力、破壊力がある。フィルターの開閉とかポルタメントとかエレキベースじゃ表現できないこともあるし、シンベは好きですね。
——Monarkの音が、実機のアナログ・シンセのように温かみのあるサウンドに感じました。
小山田 でも実機かどうかって、ブラインド・テストして本当に分かるのかなって(笑)。ライブだったり、たまに実機を触って音を出すとやっぱり違うなと思うこともあるけど、録音物にしたときにどれくらい分かるのかなと。あと細かなプログラミングとか、オートメーションを書いたりするのは実機だとやっぱり面倒くさい(笑)。たまにEMSのシンセでノイズだけを録ることはありますけど、実機を使うことはほぼないです。
——作品として『Mellow Waves』からの変化は感じましたが、機材の面では変わっていない部分も多いのですね。
小山田 例えば1980年代だと、1981年と1987年のサウンドが全然違うように、6年たつと全く変わる。けれども、2000年を越えた辺りから、サウンドががっつり変わるようなことはもうないような気がしていて。小さな流行はたくさんあるけど、機材の変化によってこれまでと全く違う斬新な音楽ができる、ということはもうないんじゃないですかね。
◎インタビュー後編はこちら:
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Cornelius 夢中夢 Tour 2023
- 9/30(土)東京・LIQUIDROOM
- 10/6(金)大阪・Zepp Namb
- 10/7(土)福岡・Zepp Fukuoka
- 10/13(金)神奈川・KT Zepp Yokohama
- 10/19(木)北海道・Zepp Sapporo
- 10/23(月)愛知・Zepp Nagoya
- 10/31(火)東京・Zepp Haneda
※詳細はオフィシャルサイトにて
Release
『夢中夢 -Dream In Dream-』
コーネリアス
ワーナーミュージック・ジャパン
Musician:小山田圭吾(vo、g)、美島豊明(prog)
Producer:コーネリアス
Engineer:髙山徹、美島豊明
Studio:3-D、Switchback