踊っているときに“こんな感じだったら楽しいだろうな”ということを考えながらビートを作っています
今回登場するのは、毎年タイで開催されている東南アジア最大級の音楽フェス“Big Mountain Music Festival”に出演するなど、グローバルに活躍する7人組ダンス/ボーカル・グループ、PSYCHIC FEVERのJIMMY。同グループではラップやボーカル、ダンスだけでなく、ライブにおけるダンス・トラックやSEの制作などにも関わっている。今回は、そんなJIMMYのプライベート・スタジオに潜入し、音楽制作のこだわりを聞いてみよう。
【Profile】2022年にデビューした7人組ダンス/ボーカル・グループ、PSYCHIC FEVER from EXILE TRIBEのメンバー。愛知県名古屋市出身で、9歳の頃からダンスを始める。グループではラップを担当しており、ライブ・トラックのアレンジやビート・メイキングなども行っている。
Release
『PSYCHIC FILE Ⅰ』
PSYCHIC FEVER from EXILE TRIBE
(LDH Records)
しっくりくるリファレンス・モニターを一つ持っておく
■スタジオ
自分でビートを作ることもあるので、このスタジオではビート・メイキングから、ライブ音源のアレンジ、プリプロのボーカル・レコーディングなどを行っています。リビングの半分を音楽制作用の作業スペースにしていて、デスクやモニター・スピーカー、キーボード、マイクなど、制作に必要な機材を一箇所にまとめているんです。イスに座れば、すべて手の届く範囲に機材をセッティングしているのもポイントですね。物件は角部屋で、防音性に優れた建物を選んでいるので、近隣住民の方からの苦情もなく、快適に作業が行えます。まだ自分は駆け出しの身でもあるので、部屋の居心地を良くするというより、どちらかというと音楽制作にすぐ集中できるような部屋作りを意識しているんです。
■タイでのレコーディング経験
約半年前はタイに滞在していたこともあり、このスタジオにある機材のほとんどを現地のホテルに置いていました。移動も多いので、持ち運びやすい機材を選ぶことが多いですね。ちなみに日本の電圧は100Vですが、タイは220Vなんです。だから、タイでレコーディングしたらどういう音になるんだろうっていうところに興味がありました。自分は低音ラップの担当なんですが、実際に録音したラップは若干クリアに聴こえ、悪いところもはっきり見えた印象です。あらためて電圧って重要なんだなと気付かされた経験でした。
■DAW
コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはAVID Pro ToolsとAPPLE Logic Pro。もともと中学生の頃にAPPLE GarageBandでビートを作りはじめ、続けているうちにLogic Proに乗り換えました。Pro Toolsはレコーディング用です。LDHのスタジオや海外のスタジオなど、どのスタジオでもPro Toolsが使われていたので、そこで教えてもらった知識を生かすには自分もPro Toolsを導入するしかないと思ったんです。
■オーディオ・インターフェースとかけ録り
オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Xです。一番の決め手はUADプラグインAntares Auto-Tune Realtime Advancedを使った二アゼロ・レイテンシーでのかけ録りができること。もともと別のプラグインをPro Toolsに立ち上げて録っていたんですが、それだとCPU負荷が高すぎてレイテンシーが発生してしまって……。それで、よくPSYCHIC FEVERの歌詞を書いてくれているELIONEさんに相談したらApollo Twin Xをお薦めされたので購入しました。マイクプリ系のUADプラグインも同時にかけ録りできるので、作業がだいぶはかどります。特にUADプラグインのAvalon VT-737SPがお気に入り。Apollo Twin Xは持ち運びしやすいのも気に入っています。
■モニター・スピーカーとヘッドフォン
スピーカーはJBL PROFESSIONAL 305P MKIIです。長年使っているモニターで、これまでに何度か新しいものを探したこともありましたが、なんだかんだでやっぱり305P MKIIの音が好きなんですよね。リスニング用として使うときもありますが、モニターとしても細かい音を聴き分けられるので優秀なスピーカーだと思います。価格にこだわらず、自分がしっくりくるリファレンスを一つ持っておくといいですね。
音楽理論的な誤りは最後に正せばいい
■尊敬する音楽プロデューサー
アーティストでもあり、曲も作るタイ・ダラー・サインです。キーボード、ドラム、ベース、ギター、バイオリン、オルガンなど何でもこなすマルチプレイヤー。でも彼は“一人で曲を作れるけど、それじゃ面白くないから客演を呼ぶんだ”っていう考え方をしていて、そこがすごくカッコいいなと思います。彼は自分が何を持っていて、何を持っていないのかを分かっています。だから、それをうまく生かして他人と効果的にコラボすることができるんです。そのセンスや自己を客観視できる能力が、ずば抜けてすごいと思います。
■ライブ音源のアレンジやビート・メイキングのこだわり
まずは直感的に音を入れまくって、そのあと引き算していくやり方が多いです。この音を入れたら面白いだろうなとか、自分が踊っているときに“こんなビートだったら楽しいだろうな”っていうことを考えながら作っています。例えば「Highlights」という曲はドロップで音数が少なくなるんですが、ライブでやると音圧が足りない感じがしたので、新しいキックを追加して迫力を出しているんです。ちなみにコードが変だとか、音がぶつかっているとか、そういう音楽理論的な誤りは一番最後に正せばいいと思います。
■お気に入りのソフト音源やプラグイン
ドラムはサンプルで、ベースはFUTURE AUDIOWORKSHOP SubLabが多いです。そのほかのパートはLogic Proに付属するソフト音源や、XFER RECORDS Serum、NATIVE INSTRUMENTS Kompleteなど。中でもScarbee Rickenbacker Bassはリアルなエレキベースの音がするのでお気に入りです。エフェクトに関してはUADプラグインやDADA LIFE Sausage Fattener辺りが好きですね。マスターにはIZOTOPE OzoneのImagerやDynamic EQをよく用います。
■今後の展望
まだ自分は未熟ですが、最初から完ぺきな曲を作ろうとせず、まずは発表することが大事かなと。次作でより良い曲を出せばいい……そんなマインドで音楽を続けたいと思います。
JIMMY(PSYCHIC FEVER)を形成する3枚
「コンフェッションズ」
アッシャー
(ソニー)
「両親はR&Bが大好きで、この作品はいつも車の中で流れていました。子供の頃は気に留めていませんでしたが、今聴くと自分のつぼを押さえたサウンドが満載。知らぬ間に影響を与えられていた一枚です」
「ドーン・エフエム(オルタネイト・ワールド)」
ザ・ウィークエンド
(ユニバーサル)
「プレイリストで音楽を聴くのが主流の中、この作品は最初から最後まで一貫して聴く価値があるアルバム。音質も他と比べて段違いに良いと思います」
「MONOCHROME」
KOHH
(Gunsmith Production)
「リリースされた当時、自分は中学2年生で思春期のまっただ中。歌詞は大人向けだなと感じながらも、KOHHと同じ団地生まれという背景から共感を覚えた作品です。今でも何回も聴き返す一枚」