レトロ・ポップ・ユニットFANCYLABOを軌道に乗せ、自作曲の世界観を拡張し続けるプロデューサー/DJのNight Tempoさん。主に1980年代の日本のポップスや歌謡曲をダンサブルにリエディットする『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』シリーズも好調で、ますます時めいています。今回は、DJ活動を通して培った曲作りのフィロソフィに言及。トラック・メイカー必見の内容ですヨ!
随所に英語が入った日本語歌
自分の曲作りのインスピレーション源となっている1980〜90年代の日本のポップスには、ハイファイなサウンドが数多く見られます。一方で僕は“汚い音”も大好きなので、両者のエッセンスが自身の曲に反映されているはずです。その汚い音とは、例えば初期のダフト・パンクやジャスティスがやっていたようなサウンド。サンプリングした音にコンプやフィルターをバチバチにかけたやつですね。
細川たかしさん「北酒場」の昭和グルーヴ辺りは音を奇麗にしていたんですけど、今は元に戻しました。“ローファイに聴こえる”というご意見もありますが、クラブでのDJプレイを想定すると、あまりにクリーンな音よりは多少なりとも汚れていた方が味があると思うからです。それに僕はアメリカでも頻繁にDJをしていて、現地のお客さんがダーティなサウンドを好むことも実感しているため、最近は自分のやりたいように音作りしています。80'sポップスをハイファイなままリエディットするなら、原曲のままでいいのではないかって思いますしね(笑)。
アメリカのDJ現場では、“ところどころに英語が入る日本語詞”の人気も感じます。例えば泰葉さん「フライディ・チャイナタウン」の昭和グルーヴをプレイすると、日本語の部分では“オイッ、オイッ、オイッ!”みたいなかけ声を発しながら踊ってくれたり、目を閉じて聴き入ってくれたりするんですが、サビの“フライディ・チャイナタウン〜”の部分が来たら大合唱になる。僕は実際に現地を訪れて、DJをやって、オーディエンスの反応を確かめて、その体験を自身の作品に生かしています。つまり、自ら検証した上での結果が作品なので、“これで良い”という確信が持てるんです。
日本のメディアでは少し前まで、シティポップが世界的に流行していると言われがちでしたが、一部の曲がネット上でバズっていたのは事実として、マーケット全体はずいぶん前に落ち着いていたというのが僕の見解です。例えば、BTSのような今のポップスはロサンゼルスの街中でもよく聴こえてきますけど、シティポップはおしゃれカフェとかでかかっている印象で、どちらかと言えばマニアックだと思います。裏を返せば、マニアにはすごく受けている。自分の目が届く範囲ではあるものの、実際に日本以外の国へ行って確かめているからこそ、こう言えるんです。
原曲が聴き返される機会を作れたと思う
クラブに関して言うと、オーディエンスは同じシティポップでも原曲のままではなくエディットされたもの、サンプリングされてダンサブルになったものを好んでいて、恐らくフィーリングで楽しんでいるのだと思います。日本には曲の背景を重視するような文化があると思いますが、少なくともアメリカのオーディエンスを見ていると“パッと聴いたときに心と体が動けばいいんじゃない?”という価値観を感じます。
音楽はみんなのものだし、どう捉えたっていいわけじゃないですか? “背景を詳しく知りもしないのに……”って言われたとしても、往年のポップスをリエディットして、原曲が聴き返される機会まで作ったという自負が僕にはあります。ブームに便乗したのではないんです。そしてリエディットがリリースされた結果、原曲を作った方々も今まで以上に潤って、全体がうまく回っていくのがベストだと考えています。
ちなみに“英語混じりの日本語詞”は、荻野目洋子さんの1989年の楽曲「IS IT TRUE(日本語バージョン)」もお薦めです。また、作詞の手法として、僕がプロデュースしているFANCYLABOの「Flash Light」にも取り入れているので、ぜひ聴いてみてください。
Night Tempo
80’sの日本のポップスをダンス・ミュージックに再構築した“フューチャー・ファンク”のシーンから登場した韓国人プロデューサー/DJ。アメリカと日本を中心に活動する。昭和ポップスを現代的にアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズを2019年に始動。Wink、杏里、松原みき、秋元薫らの楽曲を素材にこれまで17タイトルを発表し、最新作は泰葉。2021年にはオリジナル曲を収録したアルバム『Ladies In The City』をメジャー・リリースした。