シンガー・ソングライターの碧海祐人です。普段から僕は自宅でレコーディングや作曲/編曲、ミックスまで、すべてSTEINBERG Cubase Pro 11を多用しています。今回は、Cubaseに付属するプラグインを中心としたボーカルのピッチやタイミング編集、そしてボーカル・エフェクトについてお話ししていきしましょう。
不要なノイズを修正できる
VariAudioの波形編集テクニック
宅録環境でデモ音源を作成する方も多いと思いますが、歌録りに時間がかかってしまったり、思うようにボーカル編集ができないという方もまた多いのではないでしょうか。そんなとき、Cubaseでオーディオ編集のコツを押さえておけば、デモ音源を作る際にとても役に立つでしょう。Cubase Pro 11にはVariAudio 3が搭載。音質劣化もほとんど無く、オーディオのピッチやタイミングを自在に編集できます。
やり方は、“サンプルエディターウィンドウ”の左端にあるインスペクターから”VariAudio”をクリックし、VariAudioセクションの最上段にある“VariAudioを編集”を選択。するとCubaseがオーディオ・データを解析し、セグメントと呼ばれる赤いバーとピッチ・カーブが表示されます。この状態でセグメントを選択すると、周りに“スマートコントロール”と呼ばれる四角い操作子が現れ、ピッチ・カーブの調整やセグメントの開始/終了位置の変更などが行えます。
また、セグメントを上下に動かすだけでピッチ変更も可能。Shiftキーを押しながら操作すると、より微細な補正もできます。なおロング・トーンなどでピッチが下がっていくオーディオの場合、セグメントが一つにつながって表示されることもありますが、そのときはセグメントを分割することによってより細かい編集が可能です。
ここで僕なりの“VariAudioテクニック”をお伝えしましょう。2つのセグメントの境目に“サ行”などの歯擦音が来る場合、その部分をピッチ調整すると大幅にノイズが入ることがあります。しかし、どうしてもその部分をピッチ調整したいという場合は、2つのセグメント両方を一度に選択して調整するとノイズの発生無しに処理できることがありますので、ぜひ試してみてください。
また、宅録では予想外のノイズが入ってしまうことがあります。せっかくの良いテイクを不意なノイズで台無しにするのはもったいないですよね? 小さいノイズでしたら、思い切って波形編集で消してしまいましょう。
このテクニックは、ノイズ部分の前後に奇麗な波形がある場合、それを波長1つ分コピーし、ノイズ部分にペーストして解決するというものです。まずは、サンプルエディターウィンドウの右下にあるズーム・バーを用いてノイズ部分を拡大。ツールバーで“範囲選択ツール”をクリックし、ノイズ部分の前後で正常な波形を見付けたら、一波長分選択します。
次に、左端にあるインスペクターの“処理”セクションで“基本コマンド→コピー”をクリック。最後にノイズ部分をカバーするように波長の1つ分を選択して“基本コマンド→貼り付け”と進みます。これで奇麗な波形をノイズの乗った波形に上書きできました。
さらに細かい調整として、ツールバーから“ペンツール”を選び、上書きした波形の前後のつなぎ目がなめらかになるように処理すれば完ぺきです。せっかく録れた良いテイクにノイズが乗ってしまった場合は、ぜひこのテクニックを使ってみてください。
ピッチ・シフターのPitch Correctで
ボコーダー的なサウンドを生成
近年はボコーダーやピッチ・シフター、ピッチ・シフトした複数の音声をハーモニーで重ねる“デジタル・クワイア”などが多くの楽曲で使われています。ここでは実際に僕が曲に用いるボーカル・エフェクト・プラグインを幾つかご紹介しましょう。
まずボコーダー的なサウンドを作る際に使うのは、Cubase付属のプラグイン・ピッチ・シフターPitch Correct。本来はピッチをリアルタイムで補正するためのエフェクトですが、極端な設定にするとなかなか良いボコーダー的なサウンドを作ることができます。
やり方は、オーディオ・トラックにPitch Correctをインサートし、同時にMIDIトラックを立ち上げます。次に、このMIDIトラックのインスペクターから“アウトプットのルーティング”をクリックし、先ほどのオーディオ・トラックを設定しましょう。
今度はPitch Correctの画面中央にある“Scale Source”を、デフォルトの“Internal”から“External - MIDI Note”に変更。最後に画面左上の“Correction Speed”を“100”に設定すれば完了です。MIDIトラックにボーカル・メロディのMIDIノートを入力して再生すれば、オーディオのピッチがMIDIノートに追従して変化します。
このとき、MIDIノートを一つ一つマウスで入力するのは非常に手間がかかりますよね? そこでお薦めなのがVariAudioのMIDIデータ抽出機能。オーディオからMIDIデータを簡単に抽出することができます。手順は、先述と同様にVariAudioセクション内にある“VariAudioを編集”をオンにして、“機能”メニューから“MIDIデータの抽出”を選択するだけ。MIDIノートを一つ一つ入力するより、とてもスムーズに作業が進むことでしょう。
次はデジタル・クワイアに用いるプラグイン。もちろん先ほどのPitch Correctを応用すればハーモニーを奏でることも可能ですが、別の方法としてはIZOTOPEのプラグイン、VocalSynth2を用いるという選択肢もあります。
やり方はPitch Correctのときと同じで、オーディオ・トラックにVocalSynth2をインサートし、MIDIトラックを新規作成。MIDIトラックのインスペクターにある“アウトプットのルーティング”から、VocalSynth2をインサートしたオーディオ・トラックを選択します。最後にVocalSynth2の画面最上段にある“Global Input Mode”から“MIDI Mode”をセレクトし、MIDIトラックに好きなコードをMIDI入力すればOKです。
昨年配信したEP「夜光雲」の収録曲「hanamuke」と「夜光雲」では、今回紹介したボーカル・エフェクトを用いているので聴いてみてください。宅録では、ひらめきを得られる機会がたくさんあります。自分だけの音を探求していきましょう!
碧海祐人
【Profile】名古屋を拠点とするシンガー・ソングライター。ジャジーかつメロウな雰囲気のトラックに叙情的な歌声が乗る楽曲を得意とする。2020年9月9日にEP『逃避行の窓』でデビュー。客演にはmillennium paradeへの参加など現在の音楽シーンをけん引するドラマーの一人=石若駿、エンジニアはOvallやKan Sanoを手掛ける藤城真人氏を迎え、耳の早い音楽好きの間で話題を集めている。12月16日には配信限定EP『夜行雲』をリリースした。
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