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音に関わるリサーチャー必見!“感性と物理をつなぐ音のプラットフォーム”Sound One【第38回】realize〜細井美裕の思考と創発の記録

小野測器の内部から生まれたSound One ポッドキャスト『音の専門家の雑談』に細井が出演

 突然ですが先日私の連載がナードな内容であると自ら認めざるを得ない状況になったんですよ。私と最も音楽の趣味が近いソウルメイト、いや、イヤーメイトの元YCAM職員の原ちゃんが、不意に目の前で私の連載を音読しだしたんですね。そしたら秋葉原の風が吹いたのです。これまで、マニアックな内容だけれども、なんとかいろいろな人に興味を持ってもらえるよう書いていたつもりだったのですが。人間の性格というものは言葉の節々に出るものですね。ということで、振り切って音響の沼全開でいきますね。

 今月は音に関わるリサーチャー(プロアマ学生問わず)、デザイナーの方にぜひ知ってほしい“感性と物理をつなぐ音のプラットフォーム”Sound Oneについてです。個人的には、今この連載を読んでいて、音と感性に関する研究をやろうとしている学生の方がいたら肩をゆすってとりあえず使ってみてと言いたい。私が学生だった頃はGoogleフォームやらなんやらを駆使していたけど、それが昔話になるようなものですから……。詳細は後ほど。

 Sound oneは音に関わる人たちを緩やかにつなぐコミュニティになることも目指していて、興味がある方はポッドキャスト『音の専門家の雑談』の初回に私も出演しているので聴いてみてください。その名の通り、専門的な話がメインではなく、専門家の雑談をテーマに自由に会話しています。対談相手は、小野測器/Sound Oneの石田康二さん。石田さんはオーチャードホールなどコンサート・ホールの音響設計を担当されていたり、日本騒音制御工学会元会長であったりします。もうこれで刺さる人には刺さったのではないかと思います。ポッドキャスト、私の次はなんと岩宮眞一郎先生(九州大学名誉教授)です!

Sound One石田康二さんによるポッドキャスト『音の専門家の雑談』。細井は#1〜3に参加。Spotify/Apple Podcastで配信中 Photo:Eito Takahashi

Sound One石田康二さんによるポッドキャスト『音の専門家の雑談』。細井は#1〜3に参加。Spotify/Apple Podcastで配信中
Photo:Eito Takahashi

 Sound Oneとの関わりが始まったのは、2021年に愛知県芸術劇場で発表した『ヌトミック+細井美裕 波のような人』公演のために小野測器さんにスポンサードしていただいたとき、稽古場の森下スタジオまで、当時はSound Oneではなく小野測器の所属だった石田さん、古川さん、三神さん、髙橋さんが現場まで実験に協力して来てくださって、稽古終わりで“実は小野測器が柔らかい事業をやるんです”と話があったことから始まりました。

 ここでお気づきの方もいるかと思いますが、Sound Oneは、小野測器の内部から生まれたものです。これが音/振動業界においての信用をグッと上げてきますよね……。老舗メーカーの新たな挑戦、震えるぜ……。

小野測器は老舗計量器メーカー。その歴史とプロダクトを経てSound Oneが誕生した Photo:Eito Takahashi

小野測器は老舗計量器メーカー。その歴史とプロダクトを経てSound Oneが誕生した
Photo:Eito Takahashi

この巨大な無響室では、かつて細井が担当した企画で、ストラディヴァリウス「サンロレンツォ」の収録も行われた Photo:Eito Takahashi

この巨大な無響室では、かつて細井が担当した企画で、ストラディヴァリウス「サンロレンツォ」の収録も行われた
Photo:Eito Takahashi

5つのコア機能を持った音の分析ツール 音の印象と物理量の関係性が見える

 早く説明をしろという感じですね。Sound Oneは端的に説明すると、ブラウザで動く5つのコア機能を持った新しい音の分析ツール、です。“音を録る”“音を編集する”“音を管理する”、そして特筆すべきは“音の印象を集める”“印象の理由を探る”の2つです。

 “音の印象を集める”とはつまり、ブラウザで機能するアンケート(オーディオ・テストと呼ぶ)で、URLを送れば手軽にモニターを集められるということ。これが私が大学時代Googleフォームを使って苦労した部分ですね……。ツールとして優れている部分です。

 “印象の理由を探る”は、オーディオ・テストを終了すると音の印象と物理量の相関が表示され関係性を確認できる。なんということでしょう。画像をご覧ください。この感動が伝わっているでしょうか?

オーディオ・テストの分析機能。散布図から回帰直線が得られる。画面右で選択されているサウンド・ファイルに対して、画面左の赤くなっている周波数帯の相関が高い

オーディオ・テストの分析機能。散布図から回帰直線が得られる。画面右で選択されているサウンド・ファイルに対して、画面左の赤くなっている周波数帯の相関が高い

オーディオ・テストの分析機能。散布図から回帰直線が得られる。画面右で選択されているサウンド・ファイルに対して、画面左の赤くなっている周波数帯の相関が高い

集めた音の印象を確認できる。評価語は自由に入力が可能で、例えば“ 午前っぽい”“ 午後っぽい”などの曖昧な単語も面白い

 例えば、この周波数帯はこの評価語(例えば、やわらかい、痛い、耳障りだ、とか)と相関がこれくらいある、みたいなものが見える。そしてここから例えば、“じゃあ耳障りなところを改善したいから相関の高い〇〇kHzの部分をEQで下げてもう一回オーディオ・テストかけてみよう”なんてことができるわけです。EQやトリムもブラウザ上ででき、そのデータも管理できるということです。

 “音を録る”については、私は現場で機能する部分なのではと思っています。Sound Oneはブラウザで動作するということですから、めちゃくちゃお金をかけて整えられた音環境の中で何かを実験するプロジェクトに向いているというよりは、スピードとトライ&エラーの数を優先する機会に向けていると思っていて、となると例えば、そもそも高価な機材を持ち込めない工事現場の異音の判定であるとか、そういうときにパッと取って分析する……。まるで私がSound Oneの未来を描いているように語っていますが、Sound Oneの活用方法のページに書いてあったことを我が物顔で書いておりました。

 そうそう、Sound Oneの公式サイトの個人的ヒットは“活用方法”のページなんですよ。読み物として面白いのでぜひ読んでみてください。お薦めは「工業製品の稼働音から容器の開閉音まで、機械的に生じる音の印象評価と物理解析を元にしたサウンドデザイン」「声優の声とキャラクターのマッチング、心地よさなどの音声の評価」あたりかなあ。

 最後に、実はSound Oneの公開はちょうど1年前の9月だったのですが、なぜこのタイミングでの紹介だったかと言うと、一般参加の大規模なオーディオ・テストの結果を待っていたからです。参加者約450名が、ひたすらペンの音、車の音、AIアナウンスの声を評価する胸熱ならぬ耳熱イベント、Sound Oneの中の人たちの熱意を知っている私は、この大規模オーディオ・テストのレポートが確実に長文になることを予想してこの瞬間を待っていたのです。それでは、期待通りの長文&熱量をご覧ください。オーディオ・ナード最高‼

ペンによる音の違いについて約450人が回答したオーディオ・テストの結果の一部。詳細は下記URLより確認できる

ペンによる音の違いについて約450人が回答したオーディオ・テストの結果の一部。詳細は下記URLより確認できる

 そうだ、オーディオ・ナードのみなさん、先月からしれっとサンレコらしからぬページが差し込まれていることにお気づきでしょうか。サンレコTを音楽好きのデザイナーたちと作っています。まだほかにもデザインが控えていて、早くリリースしたい。現場にいる人にしか分からない気持ちを込めたものもあるので、共感してもらえたらうれしいです。ではまた〜!

 

今月のひとこと:9月15~24日、ARTBAY TOKYOという東京都のプロジェクトで実際に輸送に使用されていたコンテナを用いて新作を発表します。

細井美裕

細井美裕

【Profile】1993年生まれ、慶應義塾大学卒業。マルチチャンネル音響を用いた空間そのものを意識させるサウンド・インスタレーションや、舞台公演、自身の声の多重録音を特徴とした作品制作を行う。これまでにNTT ICC無響室、YCAM、札幌SCARTS、東京芸術劇場コンサートホール、愛知県芸術劇場、国際音響学会AES、羽田空港などで作品を発表してきた。

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