本連載についていろんな反響をいただき大変うれしく思っています。今回はMIX師が制作する上で知っておくべき基礎知識として音声のファイルフォーマットについて紹介します。歌い手さんからの依頼を受け、インターネット上でのやり取りで齟齬(そご)なくスムーズに制作するためには、ある程度の知識は必要です。頑張って覚えましょう!
DAWでどんな作業をするのか?
歌ってみたMIXにおける、DAW上の主な作業工程は以下の通りです。
- 受け取ったカラオケとボーカルのデータをDAWにそれぞれ読み込む(インポート)
- ボーカルのノイズ除去や音質補正を行う
- ボーカルのピッチとタイミングを必要に応じて補正する
- ボーカルとカラオケがかっこよく聴こえるように音量や音質を調整する
- 全体の音量、音質を調整する
- オーディオファイルに書き出す
ここまでがMIX師の役割であり、いかにかっこよく聴かせるかが、MIX師の腕の見せどころというわけです。
また、DAWのプロジェクトファイルは、一般的なオーディオプレーヤーで再生することができません。動画編集ソフトに取り込むこともできませんので、歌ってみた動画を作るためには、オーディオファイルへの書き出し”を行い、誰でも扱えるファイル形式にする必要があります。
歌ってみたMIXに最適なオーディオファイルのフォーマットは?
画像ファイルにJPGやPNGなどのフォーマットや解像度があるように、オーディオファイルにもWAVやMP3など、さまざまなフォーマットや解像度があります。解像度を高めればきれいな音になる一方、ファイルサイズが大きくなりますし、扱えるソフトウェアや機器も変わってきます。
歌ってみたMIXのファイルフォーマットは、以下を基本にして、状況に応じグレードアップしていくと良いでしょう。
WAVは一般的な非圧縮の音声ファイルフォーマットです。ビットは「ビット深度」、Hzは「サンプリングレート(サンプリング周波数)」と呼ばれています。音をデジタル化する際の縦線と横線の細かさだと思ってください(下図参照)。
24ビット/48kHzは、ほぼすべての環境で対応できる安心な設定です。32ビット、32ビットフロート、192kHzなどの高解像度フォーマットを使用することも可能ですが、ポテンシャルを活かすためにはそれぞれのフォーマットをよく理解して使う必要があります。32ビットフロートなどはなかなか難解ですので、理解できないうちは24ビットで良いでしょう。また、制作チーム全員の機材が対応しているのか確認してから使うようにしましょう。
一方、24ビット/48kHz未満の解像度は音質の劣化が分かりやすいので、書き出すファイル形式としてはお薦めしません。またMP3は圧縮ファイルなので、音質は非圧縮形式のWAVに劣ります。可能であれば避けましょう。
しかしながら、歌い手から送られてくるカラオケデータはMP3の場合も多くあります。ほとんどのDAWは自動的にWAVへ変換して読み込んでくれますが、音質はWAVファイルに劣ります。可能であればMP3に変換される前の非圧縮WAV形式のカラオケを入手しましょう。
ほかにも歌い手の環境によってさまざまなフォーマットのファイルが届きます。最近のDAWはほとんどの形式に対応できるので心配はありませんが、より高音質の歌ってみたを作る上でフォーマットの知識は欠かせません。歌い手と連携して、より音質の優れた音声ファイルを入手できるよう努めましょう。
次回は声に響きをつけるリバーブについて説明したいと思います。お楽しみに!
第3回のまとめ
- ボーカル編集や音質・音量調整だけでなく、誰でも扱える音声フォーマットに変換することもMIXに含まれる
- ファイルフォーマットは 24ビット/48kHz WAVを基本にすると良い
- 歌い手からなるべく高音質のデータをもらうように心がける
小泉こいた。貴裕
【Profile】ミキシング・レコーディングを手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事。NoGoD、小比類巻かほる、口笛世界チャンピオンYOKOの作品などを担当。TASCAMのマーケティング、音楽コラボアプリnanaのマーケティングユニットマネージャーを経て音響機器メーカーなどのマーケティングコンサルタントも行っている。2022年には歌ってみた文化の活性化を図るため、一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会を設立。自身のYouTubeチャンネルSWKミキシング講座とともに、若いクリエイターへのスキルアップや機会提供に奔走する。
SoundWorksK Website https://soundworksk.net/
一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会 https://www.mix-shi.org/