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塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|SENNHEISER E 965

塩塚モエカがハンドヘルド・マイクを試して語る連載、第3回目!

塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|SENNHEISER E 965

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki Illustration:Hiromi Mizoguchi Hair & Make:kika

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 2021年もそろそろ締めですね。12月、私たちはBillboard Live YOKOHAMAとOSAKAでの小さなツアーもあり、駆け抜ける感じになりそうです。ラスト1カ月、一緒に楽しみましょう!

 

 さて、今回研究するのはSENNHEISERのE 965です。E 965はハンドヘルド型でありながらコンデンサー・マイク。初めてこういったマイクを試すので、ワクワクです。

 

 E 965のポイントは“圧倒的にクリアな音質”と“ワンタッチで変えられる指向性”。まず音質は、とてもクリアで抜けが良かったです。音が前に出る感じで、埋もれてしまいがちな歌詞もはっきり聴かせられそうだし、小声で歌っても届けることができると思います。声の再現性がとても高いので、ニュアンスも付けやすそうです。一方で、その分歌の技術のごまかしが効かないマイクだとも感じました。発声が悪かったりするとすぐにバレます……ということは、E 965を使って練習したら、とても歌が上手になりそうです。

 

 もう一つのポイントである指向性について。E 965はカーディオイド(単一指向性)とスーパー・カーディオイド(超指向性)をワンタッチで切り替えられます。カーディオイドはマイク前方で鳴っている音を、広めに収音するので、ダイナミックな音像になります。スーパー・カーディオイドはカーディオイドよりも収音する範囲を少し狭めているので、ライブ演奏などで使用する場合にはハウリングを防ぐことができます。併せて、音質がちょっとマットで柔らかい印象になるような気がしました。指向性を切り替えられることで、宅録でもライブでも使うことができるし、さまざまな音楽ジャンルに対応してくれそうです。

 

 そんなE 965を一言で表すならば……“最強の右腕マイク”。自分は前に出過ぎることなく、一歩下がった立場からどんなときでもボーカリストを引き立てる。そんな信頼の置けるマイクだと思いました。

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塩塚モエカ:3人組オルタナティブ・ロック・バンド=羊文学のボーカル/ギター。同バンドの作詞/作曲を担当。

 今回のエンジニア 
溝口紘美(ナンシー)
羊文学、シャムキャッツ、DEERHOOF、DMBQのツアーPAや、DOMMUNEやBLACK OPERA、Asian Meeting Festival、MultipleTapの音響など国内外で幅広く活動中。2020年からはオウンド・レーベルkazakami recordsをスタート!

SHURE SM58とはどう違うの?

✔ コンデンサー・マイク

✔ 周波数特性が40Hz〜20kHz

✔ 指向性の切り替えが可能

✔ レスポンスが速い

E 965はオールマイティに使えそうな優れもの

 今回もライブ現場でスタンダードと名高いSHURE SM58とSENNHEISER E 965の歌唱比較を行った。その後試聴を行なった際には、オケ+ボーカル、ボーカル・オンリーの2通りを試した。

 

 エンジニアの溝口紘美氏は「実は今一番欲しいと思っていたマイクです。どんな音楽ジャンルやどんな編成のバンドでもオールマイティに使えそうな優れものだと思います」と期待の伝わるコメントを残す。

 

 今回取り上げるE 965はコンデンサー型で、SM58がダイナミック型ということもあり「タイプが異なるので、それぞれの魅力があると思います」と溝口氏。

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SHURE SM58で「マヨイガ」を歌唱する塩塚モエカ。AメロとBメロは緩やかだが、サビでダイナミクスが大きく変化する

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SENNHEISER E 965を試している様子。モニター・ヘッドフォンはSONY MDR-M1STを使用

 録音したボーカルの試聴を行うと塩塚モエカは「E 965は再現性が高いので、ごまかしが効かない。大きい声を出すと、その分だけ出るから、ちゃんと音量を自分で調整しないといけない」と語る。それに対して溝口氏はこう答える。

 

 「E 965の再現性の高さは、歌をうまく聴こえさせる効果もあると思います。コンデンサー・マイクなので感度も良く、そのため大きい声を出し過ぎると少しピーキーに聴こえる場合もあります。音質的には、SM58が柔らかくて、E 965がクリーンという印象を抱きました。E 965はハイエンドの解像度が高いので、ブレスもよく聴こえてきて、全体の声のニュアンスが聴き取りやすいです」

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ダイナミック・マイクELECTRO-VOICE RE320でオペレーションを行う溝口氏。収音した歌声はミキサーのALLEN&HEATH SQ-5を通り、AVID Pro Toolsに録音

 両機では周波数特性にも違いがある。SM58は50Hz〜15kHzで、E 965は40Hz〜20kHzだ。溝口氏は「SM58の周波数帯域は業界の標準になっています。E 965の良いところは、倍音の鳴り方が奇麗な点だと感じます。あとはレスポンスの速さに違いがあるのではないでしょうか。SENNHEISERのマイクは、どれもレスポンスが速いのが特徴ですよね。E 965の音も、低〜高域まで全帯域のレスポンスが速いなと思うんです。とても使いやすいマイクだと感じます」と言う。

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録音したボーカル・テイクは、御茶ノ水RITTOR BASEのメイン・スピーカーGENELEC S360Aから出力して確認

E 965は指向性の切り替えができて使い勝手が良い

 指向性がカーディオイドのSM58に対して、E 965はグリルを取り外すとカーディオイド/スーパー・カーディオイドの切り替えスイッチが付いているのもポイント。今回は試していないが、その横には−10dB Padとロー・カットのスイッチも搭載されている。

 

 溝口氏は「指向性を切り替えたりできるのは、優秀で使い勝手がいいですね。スーパー・カーディオイドにしたときに、音が奇麗な音像で小さくなるように感じて、全帯域の音がきちんと収音できているのが分かりました。これはとても優秀なマイクの証です」と語る。

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E 965のグリルを取り外して指向性の切り替え(カーディオイド/スーパー・カーディオイド)を試す塩塚と溝口氏

 塩塚に総評を問うと「ストイックな人にお薦め!」と一言。溝口氏はそれに対してこう付け加える。

 

 「全帯域にパワー感もあって、音が近く聴こえるので、ASMRや小さい声でささやくようなボーカルにも使えますね。例えばE 965を宅録で使って、バンドでライブするときにスーパー・カーディオイドに、アコースティックのライブをするときにカーディオイドに切り替えて使ったりもできそうなのが便利です」

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 SPECIFICATIONS 

SM58-LCE  14,080円(参考価格)
■指向性:カーディオイド ■周波数特性:50Hz~15kHz ■出力インピーダンス:300Ω(実効値) ■感度:−54.5dBV/Pa@1kHz(1.85mV) ■質量:0.298kg

E 965 53,700円
■指向性:カーディオイド/スーパー・カーディオイド ■周波数特性:40Hz~20kHz ■出力インピーダンス:50Ω ■感度:2.3mV/Pa@1kHz ■質量:396g

製品情報