第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、トラヴィス・スコット『The Plan』、コナン・グレイ『Kid Krow』です。
上下左右前後すべてにうまく配置されたサウンドは
この曲の空間に入り込んだような感覚になる
映画『TENET テネット』のサントラに収録されているトラヴィス・スコットのシングル「The Plan」は、聴いた瞬間久々に“何だこれ!?”級の感動がありました。ミニマルの極地のようなシンプルなベースとスコットの浮遊感のあるボーカルが絡み合い、一聴すると非常にシンプルに聴こえますがよく聴くと細かい楽器が展開ごとに入れ替わり立ち替わり出てきて映画のようです。
ミックスの具合も非常に素晴らしく、サラウンドのごとく上下左右前後すべてにうまくサウンドが配置されています。まるでこの曲の空間に入り込んだような感覚になるのです。最近購入したATCのスピーカーで聴くと各パーツの分離感やベースのひずみの絶妙さなど、ずっと聴いていたくなるほど見事。特にボーカルが空中に溶けていくかのような空間処理やモジュレーション具合は素晴らしいです。
生々しさを強調した仕上がりに
細かく緻密(ちみつ)にミックスしない良さを感じる
新型コロナによる自粛期間で、アコースティック・ギターが売れに売れたという話を聞いたのですが、やはりこういったときはアコースティックなサウンドへの需要が高まるものだなと思います。自分も多かれ少なかれその影響は受けていて、カリフォルニアのシンガー・ソングライター、コナン・グレイの「Heather」がやけによく聴こえていました。
生々しさを強調したその仕上がりは、細かく緻密(ちみつ)にミックスしない良さみたいなものを感じます。整理することで失うエネルギーもあるので、ぶっきらぼうでも勢いを大事にするこの音感覚はとても良いなと思いました。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している
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