第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、J. Cole『The Off-Season』、エリカ・ド・カシエール『Sensational』です。
ギミックやサウンドの加工は最低限にとどめ
サンプリングを主体とした叙情的なビートが新鮮
2年前のNBAオール・スターの際に、飛び入りであわやダンク・シュートを決めそうになったJ.コールが、なんと今年アフリカのリーグでプロ・バスケ選手としてデビュー。新アルバムを“オフシーズン”と題しているのは“バスケのオフ・シーズンの仕事がラッパー”という感じでしょうか(笑)。ただ玄人受けが良い彼らしく、アルバムのクオリティはこの片手間感のあるタイトルとは裏腹に、素晴らしいものになっております。本作のサウンドの特徴は“生々しさ”。近年のラップのプロダクションは過剰なEQ/コンプや深いリバーブなどで、非現実感的サウンドからSF映画的没入感を演出している方向が多かった印象です。本作はそれらのトレンドとは真逆で、ギミックやサウンドの加工は最低限になっており、いわば“ドキュメンタリー映画的没入感があるもの”になっています。サンプリングを主体とした叙情的なビートも近年のメインストリームの抽象的な方向と対照的で新鮮でした。
ドラムンベースやトラップのような
ゆったりした曲調に細かいリズム要素をふんだんに配置
ゆったりした曲調なのに細かいリズム要素がふんだんに配置されているような曲には、個人的になぜか引かれる傾向があります。古くは坂本龍一さんの「黄土高原」だったり、ジャンルでいうとドラムンベースやトラップだったりがそのニュアンスのものです。コペンハーゲンのR&Bシンガー、エリカ・ド・カシエールが4ADから発表したアルバム『Sensational』の中の「Call Me Anytime」がまさにその感じ。歌声の脱力感を含めて、本当に好きな曲です。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している