第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、ジュース・ワールド『Bad Boy feat. Young Thug』、Alle『Alletiders』です。
音階の切れ際やタイミングが良い意味でどこか壊れている
ディストーション・ギターが特徴的
1年前に亡くなったジュース・ワールドがMVに出てきてびっくりしたこの楽曲。ヤング・サグとの共作です。プロデュースはリル・ウージー・ヴァートやカニエ・ウェストなどを手掛ける、ピエール・ボーン。ディストーション・ギターが特徴的なトラックですが、よく聴くと音階の切れ際やタイミングが良い意味でどこか壊れていて面白いです。
以前、世界的プロデューサーのステレオタイプスと一緒に作業した方から聞いたのが“普通のサンプル音源だとありきたりなので、わざわざミュージシャンを呼んでホーンのフレーズを録音し、それを生では演奏できないフレーズに編集して使っていた”ということ。“音は生々しいのに演奏できないフレーズ”を作るという、聴き手の脳をバグらせるような制作方法は、本作からも似たものを感じます。
インディー・ポップならではの良い感じのチープさ
狙って作ったであろうサウンドに高い技術力を感じる
お正月にはさまざまな年間ベストを見て、名盤のチェック漏れを探しました。今年の自分的チェック漏れベストは、Alleの2ndアルバム『Alletiders』。インディー・ポップならではの良い感じのチープさと、デンマーク語の不思議な響きが素晴らしいです。
チープと言っても明らかに狙って作ったであろうサウンドなので、逆に高い技術力を感じます。何かのプリセットっぽい可愛い音や、歌謡曲のような楽曲からは日本的な要素も感じられて、新鮮に聴こえてきました。ふんだんにダブ処理が施されているものの、これが本場のジャマイカでもUKでもないのが不思議で、面白いです。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している