今年のテーマは “portals”(=門、扉)
パンデミックの影響で、昨年は5月開催、その前年と前々年は縮小/リモート開催となった、ベルリンを代表する実験的な音楽フェスティバルの一つ、『CTM(Club Transmediale)』。今年はやっと久しぶりにフルスケールで、本来の開催時期である1月末から2月の第1週目にかけて、11日間にわたって行われた。
毎年掲げられるテーマは、今年は“portals”(=門、扉の意)。ややぼんやりとしたテーマの印象通り、フェスティバル全体としては何を目的として開催しているのかというビジョンが見えにくかった。プログラムや地図などの印刷物は一切無い上にWebサイトも見にくく、相変わらず参加者にとっては不親切で分かりにくい運営が改善されていないのも残念であった。
とはいえ、部分的には刺激的で楽しめたプログラムも多数あった。筆者が参加できたものの中では、クラブ情報サイトResident Advisorの編集長と、25歳以下のZ世代のクラブ系アーティストやオーガナイザーとの対談や、タンザニアのストリート・ダンス音楽“シンゲリ”のアーティストとのパネル・ディスカッション、そしてウクライナ、シリア、イランなど戦争や弾圧の影響を受けている国のアーティストたちによる表現についてのディスカッション。これらは、普段なかなか当事者と話す機会が無いので、大変興味深い内容だった。
前々号の本コラムで紹介した、ドイツとアフリカ諸国のアーティストたちの交流/共同制作プログラム『Afropollination』の途中成果発表を兼ねたパフォーマンスも多数行われた。いずれもクオリティが高く、これまでに聴いたことのない斬新なサウンドで、共同制作の意義が強く感じられた。シンゲリ・プロデューサーのJay Mitta、ゴム・プロデューサーのMenzi、モジュラー・シンセを自作するAfrorackといった、『Afropollination』参加アーティストたちによるワークショップも行われた。今年は特に南アジアとアフリカに関するプログラムの比重が高く、やはり近年の欧州圏の文化芸術分野の潮流である“脱植民地化”、(宗主国から旧被植民地に対する)“返還”及び、“ジェンダーや民族の多様性”を色濃く反映していた。
筆者の長年の友人で、現在世界的に注目を集めている日本のDJ、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U君が、連夜行われたクラブ系のイベントの、最後のメイン・ルームの大トリを飾ったのも感慨深かった(撮影禁止のため写真はナシ!)。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている