美術作品としてのレコード
ベルリン市内の代表的な現代美術館の一つであるハンブルガー・バーンホフにて、『Broken Music Vol. 2』という展示が行われている。タイトルに引かれてふらりと見に行ってみたところ、とても面白かったので紹介したい。筆者の場合は鑑賞に3時間ほど費やした、かなり見応えのある内容だった。
レコード・ジャケットのアートワークを集めた画集や展示はよく見られるが、この企画はしっかりと芸術としての音楽表現の歴史も組み込まれているところがユニークだ。展示されているレコードの幾つかにはQRコードが付いており、来場者にはスマートフォンに接続したヘッドフォンが手渡され、コードを読み取ると収録曲が聴ける仕組みになっている。
元々の『Broken Music』という展示は、西ベルリンにあったGelbe Musikというレコード店の店主、ウルズラ・ブロックが主催していたそうだ。この店は残念ながら2014年に閉店しており、筆者は恥ずかしながら知らなかったのだが、ジョン・ケージやオノ・ヨーコも訪れたことのある名店だったという。1989年から続けられていたこの巡回展示コンセプトを引き継ぐ形でまとめられているため“Vol.2”というタイトルになっている。“Broken Music”というタイトルは、1979年のフルクサス派のチェコ人アーティスト、ミラン・ニザックの、文字通りバラバラに砕けたレコード盤を使って制作されたレコード作品にちなんでいる。
一般的な音楽家は、レコードを音を鳴らす媒体として捉えているのに対し、ここで紹介されているのは視覚と聴覚の両方を考慮して作られた、美術作品としてのレコードだ。前衛芸術が盛んなベルリンの名レコード店らしいアングルがとても面白い。アバンギャルド、ミニマル、フルクサス、コンクレート、サウンドスケープといった文脈から、ポップやクラブ・ミュージックに至るまでを網羅している。アンディ・ウォーホルやクリスチャン・マークレーのような作家はもちろんのこと、最近活躍している作家ではアンネ・イムホフやエメカ・オグボーなどの作品も紹介されていた。筆者も何人か新しいお気に入りアーティストを発見したりと、良質なレコード屋を訪れて店主にいろいろと教えてもらったような体験でもあった。
会期は昨年12月17日から今年の5月14日まで。音楽、およびレコード好きにとっては楽しく勉強できるような内容でお勧めだ。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている