音楽とそのオーディエンスが交差する“接点“
東京からベルリンに拠点を移してから15年目になってしまった。いつの間にかというか、あっという間だ。越してきたばかりの頃は、ライターや編集、取材コーディネートの仕事をメインにやっていたが、だんだんと“ブッキング”の仕事が中心になってきた。これは特にクラブ音楽産業全体において、楽曲そのものやメディアよりも、興行(イベント)収入が中心となってきたからだと思う。音楽雑誌は次々と姿を消し、多くのインディペンデントレーベルも現れては消え、今では音楽ベニューやクラブも苦戦しているところが多い。あまり本コラムでは筆者自身のこうした日々の業務内容について書いたことがなかったが、実は2020年の3月に自分のブッキングエージェンシーを立ち上げていた(https://setten-agency.com/)。立ち上げと同時にロックダウンというタイミングに見舞われたので、実質稼働しているのはここ2年ほどなのだが。エージェンシーには“setten(接点)”という名前を付けた。月並みだが、音楽と人をつなぐ接点でありたいという想いからだ。ブッキングエージェントというのは、秘書と営業を足して二で割ったような性質の仕事だ。向こうからやってくるリクエストやオファーに対応しながら、所属アーティストを出演させたいと思うイベントや会場、フェスティバルに売り込みもかける。双方の期待や想いが一致し、アーティストにとって望ましい環境が整う場合もあるが、どこかの部分でズレが生じてしまい、そうならない場合もある。
ブッキング業務には2018年から本格的に携わっていて、パンデミックを経て、世界情勢が混沌としてくる中、“もっとこんなイベントがあればいいのに”というイメージが湧いてくるようになった。であれば、それを自分で開催してしまおうということで、今月試験的に2回のイベントをやってみる。それ以降は未定だが、年に数回のペースでやっていければと思う。イベントの内容としては、自分のエージェンシー所属アーティスト1組を中心に、音楽的共通項があるのにあまり一緒にブッキングされないラインナップをあえて組む。それによって、音楽とそのオーディエンスが交差する“接点”を作り出すことを目指す。形式もコンサートとクラブの中間くらいを目指し、まずは夕方から深夜にかけての時間帯でやってみることにした。このようなコンセプトのイベントはアーティストにとっても刺激になるようで、既に出演者たちが皆やる気になってくれているので楽しみだ。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている