公的資金援助が一切受けられなくなる可能性も
現在、イスラエル/パレスチナ問題をめぐり世界が二分されていると言っても過言ではない状況が続いている。その中でも、ドイツは最も震撼している第三国の一つだろう。ユダヤ人を迫害/虐殺したホロコーストの歴史を持ち、現在は欧州最大のパレスチナ移民コミュニティがある。隣国からのアラブ系移民も多い。しかし、昨年武装勢力ハマスによる市民襲撃を受け、ドイツは無条件かつ全面的なイスラエル支持の姿勢を表明。移民が多く暮らすベルリンでは、これに対する反発も強い。パレスチナに連帯する団体や個人が(ユダヤ系であっても)“反ユダヤ主義的”であることを理由に公演や展示が中止されるケースが激増し、停戦を求める市民運動も警察によって暴力的に弾圧されている。
11月には、ベルリン市内のOyounという、特にマイノリティのために運営されてきた文化施設が、ユダヤ人団体主催のパレスチナの犠牲者のための追悼イベントを開催したところ、それも“反ユダヤ主義的”であるとして突如ベルリン市からの補助金を打ち切られ、年内の閉鎖を強いられる事態に。“多様性”を重んじ、“脱植民地主義”を掲げてきた文化/芸術セクターでは、抑圧されてきたパレスチナに連帯するLGBTQ及びPOC(有色人種)コミュニティを中心に、怒りが噴出。しかし、ごく一部のクィアや、移民系の文化従事者、活動家以外の大多数のドイツ人は、ずっと沈黙したままである。これは、ドイツにおいて最も不名誉な“反ユダヤ主義”のレッテルを貼られ、活動などに影響することを恐れてのことだ。こうした同業者たちに対する失望も非常に大きく、すでにドイツを離れる決心をしたアーティストもいる。
さらに、Oyounを閉鎖に追い込んだベルリン市文化担当参事のジョー・チアロが、今後ベルリン市が提供するすべての財政的支援を受けるためには、国際ホロコースト記憶同盟による“反ユダヤ主義”の定義に従うという同意を求める、と年明けに発表。この定義は以前から、イスラエル政府やシオニズム批判をも封じ込める危険性があると指摘されてきたもの。つまり、パレスチナ支援を表明する者は公的資金援助が一切受けられなくなる可能性がある。これに反発し、国際的な連帯を求める“ストライキ・ドイツ”というキャンペーンも始まった。ドイツで行われている文化事業は音楽フェスを含め、公的資金援助を受けているものが非常に多いので、関わる予定のある方は状況の注視を。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている