最終回となる今回は、自然の中でフィールドレコーディングした素材をハードウェアのモジュールに通したり、モジュラー機器をBITWIG Bitwig Studioからコントロールするという体験としても非常に楽しい内容をお届けします。
外部のハードウェアモジュールとオーディオ&CVを接続
まずはBitwig Studioユーザー仲間であるmunero君と、ハードウェアモジュールを用意してくれたTomohiro Yano氏と共に友人宅の裏山に散策にでかけ、モバイルレコーダーやハイドロフォンで、さまざまな音を採取しました。この日はちょうど良い加減の雨が降っており、雨がタープにあたる音、川の流れる音、石の転がる音、森の中に放置された重機の金属音、キャンプ内で録音したウクレレなどバリエーションに富んだフィールドレコーディングを楽しみました。
その後、友人のアトリエをお借りして、レコーディングした素材をBitwig Studioに取り込み、オーディオインターフェース・モジュールのexpert sleepers ES-9とMacをUSBケーブルで接続。
ES-9はCVコントローラーの機能も併せ持っているので、ES-9の任意のCVアウトから、さまざまな共振を物理モデリングで再現するエフェクトモジュールJak Plugg nanoRingsのFM(周波数変調)端子にパッチケーブルでつなぎました。
次に、エフェクトトラックを作成して外部エフェクトとのセンド/リターンを行うためのデバイス、HW FXを立ち上げ、ES-9のオーディオ出力をnanoRingsへ入力し、その出力は6chミキサーモジュールMAKENOISE RxMxを介してES-9へ戻すように設定。これで素材のトラックをエフェクトトラックへセンドすると、nanoRingsへサウンドが送られます。
さらに、インストゥルメントトラックにCV出力デバイスのHW CV OUTを読み込み、CV OUT欄で先ほどnanoRingsと接続したES-9のCVアウトを指定。これでBitwig Studio上のトラックをnanoRingsで加工しつつ、nanoRingsの周波数をBitwig StudioのCV出力でコントロールできます。最後に、HW CV OUTにモジュレーターのClassic LFOを読み込んで、HW CV OUTのVALUEノブにマッピング。nanoRingsの周波数をモジュレーションすることで、フィールドレコーディング素材がLFOの周期で変化し続け、金属的な響きを持つ宇宙からの信号のような音に変化しました。
次に、石や鉄、楽器などのワンショットの打音が鳴るたびに、nanoRingsの周波数がランダムに切り替わる仕組みに挑戦しました。ただ、このアイディアを思いついたのはよいものの、そんなことが可能なのだろうかと3人でしばらく悩むことに……。結果、以下の方法で実現できました。まず前述のセッティングを流用して、Classic LFOの波形にRandomを選び、RATEを最低速度の0.01Hz=ほぼ止まっている状態に設定します。そこへオーディオ入力をトリガーとするモジュレーターAudio Sidechainを追加し、オーディオソースに打音のトラックを選択。Classic LFOのRATEにマッピングして打音が鳴った瞬間に最速まで上がるように設定。これで打音が鳴るたびにnanoRingsの周波数が変化します。
もう一つアイディアを紹介しましょう。nanoRingsのFMに接続されているHW CV OUTに、鍵盤のピッチでモジュレーションを加えるKeytrack+を追加します。この状態でMIDIキーボードを演奏すると、nanoRingsは本来、音階演奏を行う機能はないものの、フィールドレコーディングした音の余韻にピッチ感を与え、楽器的な演奏が可能になります。
ステップシーケンサー・モジュールからBitwig Studioをコントロール
次は、nanoRingsをMutable Instrumentsのモジュール、Beadsに置き換えてみました。
HW CV OUTのValueノブには、Audio Sidechainをマッピング。オーディオソースは先ほどの打音です。Beadsは音の粒立ちの質感が特徴的なグラニュラーエフェクターで、ゲートシンクによるリズミカルな表現が得意。SEEDやFREEZEという機能で、規則的もしくはランダムにグレインを発生させることができます。また、レコーディング音質を選択できるなど、プラグイン顔負けのハードウェアです。ES-9のCVアウトはこのBeadsのSEED端子に接続。これでBitwig Studioを再生すると、打音と同時に先のSEED機能がオン/オフされ、素材の音に変化が生まれました。
ここからはおまけですが、ステップシーケンサーのWMD METRONでBitwig Studioをコントロールして、その出力をRxMxでミックスしてみました。
METRONはCV/Gate出力を持ち、信号の出現率を制御してランダムなパターンを生成できるモジュールです。ランダマイズはBitwig Studioが得意とするところですが、それをあえて外部モジュールから行ってみたわけです。また、RxMxはチャンネル間のクロスフェードが可能で、独特の減衰音を作れるローパスゲート機能も持ち、有機的かつ複雑に絡みあったミックスを作れるというユニークなミキサーです。Bitwig Studioからは2種類の音声を出力して、RxMxでそれらが交互に切り替わるように設定すると、METRONのランダマイズやBitwig Studio内部の複雑な信号処理とあいまって、多彩なサウンドバリエーションを生み出せました。こうした試行錯誤は新しいヒントを生み出すきっかけになります。
今回、Bitwig Studioとハードウェアモジュールを連携させてみましたが、Bitwig Studioのデバイスは外部との連携においても、制作者の想像を実現するツールとしてとても有効でした。The Gridを活用すれば、より柔軟な音作りが行えるでしょう。
仲間たちと、“良いアイディアを思いついたけど、Bitwig Studioでどう設定したらいいんだろう”と頭を抱えて悩んだ末に具現化できたときは爽快です。
ゲームの攻略法を見つけるのに近い感覚があります。また今回のように雨の中で集って自然の中に出たり、機材を持ち寄ってサウンドのシステムを想像して組み立てたりといった時間は、一つの目的を共有していなければ、なかなか持てないものです。こんな1日を楽しむことができるのもBitwig StudioというDAWが制作の中心にあるからだと思います。生活の中に創造性だけでなく、仲間と共有する楽しみも与えてくれるBitwig Studio、僕がファンとして愛して止まない理由でもあります。
本記事に登場したプロジェクトで作成した楽曲を視聴できます!
荒木正比呂
【Profile】作曲家、電子音楽家、音楽プロデューサー。2009年にfredricson名義でPreco Recordsよりエレクトロニカアルバムを発表。ポップスバンド“レミ街”のリーダーとしても知られ、シンガーソングライター中村佳穂の楽曲制作では、作編曲~サウンドプロデュースまで深くコミット。CM音楽の制作なども手掛ける。現在は三重県の田園地帯に暮らしながら、UAのツアーメンバーとしても活動中。
【Recent work】
『ラヴの元型』
AJICO
2024年3月リリースのAJICOによる3年ぶりとなるEP。荒木は表題曲の「ラヴの元型」を含む3曲のサウンドプロデュースで参加。
『stunned』
munero
前回に続き、今回も執筆に協力してくれた友人で、岐阜を拠点に活動するミュージシャンのmunero君が2023年にリリースしたEP。
『SAZAE EP』
Tomohiro Yano / Yuji Kobayashi
モジュラーや音作りで協力していただいたTomohiro Yano氏とYuji Kobayashi氏による12インチ。2人の共作曲も含む3曲を収録。
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:69,300円|エデュケーション版:47,300円|12カ月アップグレード版:29,700円
Bitwig Studio Producer:34,100円
Bitwig Studio Essentials:17,600円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、intel CPU(64ビット)またはApple Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはintel CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 20.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンドコンテンツのダウンロードに必要)