TAOCのプロオーディオ専用スピーカースタンド、MSTPシリーズの特長と制振技術を徹底検証

プロが選ぶスピーカー・スタンド TAOC Studio Works MSTPシリーズの真価

1983年にトヨタ系の自動車鋳造部品会社内の有志で創立されたオーディオ向けブランド、TAOC。鋳鉄を用いた制振技術に特化し、音響メーカーへのOEM生産を行いながら、スピーカー・スタンドなどの自社製品を世界中へ提供している。本記事では2023年にスタートしたプロ・オーディオ専用シリーズ「TAOC Studio Works」のMSTP-S、MSTP-W、MSTP-Dの3つのスピーカー・スタンド・シリーズに焦点を当て、それぞれの特徴と実力を検証。レビュアーはエンジニアのyasu2000だ。MSTPシリーズの特徴である高い制振性と安定性が、どのようにスタジオでのモニタリング環境を向上させるのだろうか。

Photo:Hiroki Obara

MSTP-Sシリーズ

MSTP-Sシリーズ

MSTP-S09HB:88,000円/ペア|MSTP-S10HB:91,300円/ペア|MSTP-S11HB:93,500円/ペア

 TAOC MSTP-Sシリーズは、音響メーカーの開発室などでリファレンスとして導入されてきた実績と近年の独自研究を基に、オーダーメイドの製作からスタートした。エンジニアのニーズをくみながら多くの特注品を製作していく中で、スタジオ・モニター特有のノウハウを蓄積していき量産化した製品だという。新採用の3重構造の天板と、堅牢な支柱を備えている。

【外形寸法/重量】
●天板:220(W)×250(D)mm ●底板:320(W)×350(D)mm ●スタンドの高さ:MSTP-S09HB/900mm、MSTP-S10HB/1,000mm、MSTP-S11HB/1,100mm(いずれもスパイク部を含む) ●重量:約20kg/1台 ●カラー:マット・ブラック(ツヤ消し黒色塗装)

yasu2000's Impression|MSTP-Sシリーズ

MSTP-Sシリーズ

ニアフィールドのモニター・スピーカーに最適 解像度が高くなり、キックとベースのミックスがしやすくなりました

 今回はMSTP-S10HBを使用したのですが、組み立ては非常に簡単で、一人でもスムーズに設置できました。スパイクねじを使って片側ずつ持ち上げながら設置する方法で、短時間で完了するため手軽に組み立てられるのが特長です。重厚感のある見た目ですが、実際の設置や調整は誰でも問題なく行えるでしょう。

yasu2000は「スパイクねじの長さを六角レンチで調整することで、角度を付けたり、ガタツキを防ぐことができます。非常に安定した設置が可能です」と語る。写真はMSTP-Dシリーズのスパイク部分

yasu2000は「スパイクねじの長さを六角レンチで調整することで、角度を付けたり、ガタツキを防ぐことができます。非常に安定した設置が可能です」と語る。写真はMSTP-Dシリーズのスパイク部分

 音質面については、特に低域の明瞭さが大きく向上します。キックのアタックやボディにあたる部分の周波数がよりはっきりと押し出されるため、ミックス時にキックとベースのバランス調整が非常にやりやすくなりました。また、低域の曇りが解消されることで高域もクリアに聴こえ、全体的に音の解像度が高くなった印象を受けます。これらの効果はMSTP-S10HBが持つ“高い制振性”によるものだと思いますね。実際にスタンドに触れて確認したところ、以前使っていたスタンドに比べて振動が明らかに軽減されていることが確認できました。MSTP-Sシリーズは、特にニアフィールドのスピーカーに最適なスタンドです。ホーム・スタジオや中規模の音楽制作環境で使用するのに最適ですね。

MSTP-Wシリーズ

MSTP-Wシリーズ

MSTP-W09HB:154,000円/ペア|MSTP-W10HB:159,500円/ペア|MSTP-W11HB:165,000円/ペア

 TAOC MSTP-Wシリーズは、あるエンジニアのアイディアを元に開発されたという横置き型スピーカー用スタンド。MSTP-Sシリーズ同様に天板は全面3重構造で、選定した新支柱には調整された鋳鉄紛が充填されている。スタンド全体が最適な制振効果を持つという。また、2本の支柱の間に取り付けられた“制振子”と言われるユニークなパーツは、天板の下側から振動を減衰させる効果があり、TAOCの伝統的な独自手法である。

【外形寸法/重量】
●天板:500(W)×320(D)mm ●底板:540(W)×370(D)mm ●スタンドの高さ:MSTP-W09HB/900mm、MSTP-W10HB/1,000mm、MSTP-W11HB/1,100mm(いずれもスパイク部を含む) ●重量:約42kg/1台 ●カラー:マット・ブラック(ツヤ消し黒色塗装)

yasu2000's Impression|MSTP-Wシリーズ

MSTP-Wシリーズ

ラージ・モニターや横置き型のスピーカーにばっちり 低域の問題を解消し、スピーカー性能を最大限に引き出します

 私が使用しているモニターは超低域まで再生できるため、これまでかなりの振動が発生していたんです。しかし、MSTP-W10HBに変えてから、その振動を驚くほどしっかり吸収してくれることに驚きました。以前使っていたスタンドはMSTP-Wシリーズと同じ幅の天板サイズでしたが、そのときは低域における特定の周波数帯域が聴こえにくく、周波数特性がフラットではなかったんです。

 MSTP-W10HBに変えたことでその問題がかなり改善され、スウィート・スポットの幅も広がりました。MSTP-Sシリーズにも同じような効果がありましたが、MSTP-Wシリーズの方がより顕著にその効果を実感できます。

 また、中域から高域にかけて音の粒立ちが非常にクリアになります。そのため、バンドのキメなど音を同時に鳴らす際のタイミング(縦軸)がしっかりとそろっているのが、明確に分かるようになりました。MSTP-Wシリーズは、高い解像度を備えながらもよりパワーのあるラージやリファレンス・モニターのパフォーマンスを最大限に引き出してくれます。特に横置きで使用するタイプのスピーカーをお持ちの方は、ぜひ試してもらいたいです。

MSTP-Dシリーズ

MSTP-Dシリーズ

MSTP-D15HB:58,300円/ペア|MSTP-D20HB:59,400円/ペア

 TAOC MSTP-Dシリーズはプライベート・スタジオでの利用を想定し、“最も揺れにくく、最も机上からの振動を受けにくいスタンド”をテーマに開発されたコンパクトなラインナップ。MSTP-S/Wシリーズ同様に全面3重構造の天板、鋳鉄紛を充填した支柱、角度調整可能な脚部を備え、多様なデスクトップ・ユースでもクラス最高の安定性とアイソレーションを備えているという。

【外形寸法/重量】
●天板:180(W)×200(D)mm ●底板:200(W)×220(D)mm ●スタンドの高さ:MSTP-D15HB/150mm、MSTP-D20HB/200mm(いずれもスパイク部を含まず) ●重量:約6kg/1台 ●カラー:マット・ブラック(ツヤ消し黒色塗装)

yasu2000's Impression|MSTP-Dシリーズ

MSTP-Dシリーズ

デスク上などコンパクトな作業スペースにぴったりのサイズ感 スピーカーの揺れを軽減してクリアな音質を提供

 MSTP-D20HBを使ってみたのですが、設置に関してはこれまでのMSTP-SシリーズやWシリーズと同様、スパイクねじで簡単に行えます。底板の面積は、ほかのシリーズと比べてすごくコンパクト。これがまた絶妙で、コンピューター・ディスプレイの両脇に置くのにちょうどいいサイズ感なんです。

 スタンドの高さに関しては、ツィーターの高さを耳の位置に合わせるのが正しいセッティングですが、底板のスパイクねじで角度を付けられるので便利。別売りのインシュレーターや、昇降式デスクなどを活用するとなお良いでしょう。

 音質面では、小型スピーカーの音質が大きく向上しました。これまでは、大音量で鳴らすとスピーカー自体が若干カタカタと揺れていたことに気づかなかったのですが、MSTP-D20HBを使用して初めてそのことに気付くことができたんです。今ではその不要な振動が解消されたことで、とてもクリアにモニタリングできるようになりました。

 MSTP-Dシリーズは、ホーム・スタジオのようなコンパクトな作業スペースで、デスク上にスピーカーを設置して使用する方に最適です。僕のようにメイン/サブモニターを使い分けていて、サブをデスク上に置いている方にもぴったりでしょう。

全体を振り返って

 今回、MSTP-Sシリーズ/Wシリーズ/Dシリーズからそれぞれ1製品をレビューさせていただきましたが、いずれも高い安定性と、不要な振動を減衰させることでスピーカー本来のサウンドを引き出す能力が素晴らしいと感じます。ちなみに別スタジオでもMSTP-Wシリーズを導入。そちらではさらに解像度の高い環境になり、音の定位や重なり、繊細な表現をよりモニターしやすくなりました。ミックス作業が効率的になったのも特筆すべき点です。特に、コントロールが難しいと言われる低域の調整が格段にしやすくなったことが印象的ですね。プロからビギナーまで幅広く使ってみてほしいスタンドです。

【Profile】big turtle STUDIOSのレコーディング/ミックス・エンジニア。ニューヨークのInstitute of Audio Research卒業後、ブルックリンのBushwick Studioを経て、2005年に帰国。現在はorigami PRODUCTIONS所属のアーティストのほか、あいみょんなども手掛けている。

製品情報

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