SOLID STATE LOGIC SSL 12は、SOLID STATE LOGIC(以下SSL)のコンパクトなオーディオ・インターフェース、SSL 2、SSL 2+に続いてリリースされたモデル。ADAT入力が追加され12イン/8アウトとなり、多入出力に対応しただけでなく、AD/DAコンバーターも刷新し、音質がより向上した。一方、同社のアナログ・ミキサーBig Sixは、前モデルSixからチャンネル数を増やし、内蔵のEQやコンプも進化。さらにはオーディオ・インターフェース機能も追加されている。今回はこの二つの機材の魅力を、エンジニアの米津裕二郎氏によるインプレッションとともに深掘りしていこう。
Photo:Hiroki Obara
SSL 12|最高32ビット/192kHzに対応するオーディオI/O
2023年1月にSSLのオーディオ・インターフェース・シリーズに加わったSSL 12。最高32ビット/192kHz対応のAD/DAコンバーターを搭載する。コンソールSL4000シリーズのサウンドを再現するLegacy 4Kスイッチを装備したアナログ入力4つに加え、ADAT入力も用意。トークバック・マイクの搭載やソフトウェアSSL 360°を使った自在なルーティングが可能になるなど、よりパワーアップしたモデルとなっている。
◎オープン・プライス(市場予想価格69,850円前後)
トップ・パネル
❶+48Vファンタム電源、LINEスイッチ、ハイパス・フィルター
+48Vをオン/オフするとLEDが数回点滅し不要なポップ音を避けるためオーディオが自動でミュートされる仕様。LINEスイッチは入力レベルをラインに切り替えるもので、ハイパス・フィルターは、カットオフ周波数が75Hz、スロープは−18dB/octとなっている
❷ゲインつまみ
プリアンプのゲインをコントロールする
❸Legacy 4Kスイッチ
オンにすると回路が切り替わり、高周波のブーストとハーモニック・ディストーションの効果を入力ソースに付与できる。これはコンソールSL 4000シリーズからインスパイアされたものだ
❹USB LED
緑色に点灯していれば、USBから正しく給電されていることを表す
❺モニター・レベルつまみ
モニター・スピーカーを接続するライン・アウトのレベルをコントロールする
❻PHONES A/Bつまみ
A、Bそれぞれのヘッドフォン出力のレベルをコントロールする
❼CUT、ALT、TALK
CUTはライン・アウトの信号をミュートするボタンで、ALTはモニター・アウトをメイン(1&2)からサブ(3&4)に切り替えるボタン。TALKは内蔵トークバック・マイクをオンにするボタン(トークバック・マイクはUSB LEDの左側に搭載)
フロント・パネル
リア・パネル
ソフトウェア SSL 360°
SPECIFICATIONS
●最大同時入出力数:12イン/8アウト ●ビット/サンプリング・レート:最高32ビット/192kHz ●外形寸法:321(W)×196(H)×104(D)mm ●重量:1.1kg
REQUIREMENTS
●Mac:macOS 11.3以降、標準ドライバーで動作 ●Windows:Windows 10/11、専用のASIO/WDMドライバーで動作
Impression|パンチがあってまとまりもありコンソールの音を踏襲している印象です〜米津裕二郎
まずは、マイクプリを声とドラム(キック、スネア、トップ)で試しました。パンチのある音で、SSLのコンソールの音を踏襲しているなという印象です。Legacy 4Kモードはとても派手になるので、使ってみると楽しいと思いますね。サチュレーションがかかって音が前に出てくるので、限られた機材環境でレコーディングをされる方の便利な選択肢として役立ちそうです。
スピーカー・アウトの音質についても、マイクプリと同様に密度があってまとまりがあります。前に出てくる音で、とても良いです。スタジオ・モニターに近い、ぐっとくる音がします。ボリュームを絞っても、きちんとした音質で鳴ってくれる印象です。ヘッドフォン・アウトについても同じで、中域にパンチがある音楽的な音ですね。
SSL 12の大きな特徴でもあるソフトウェア・ミキサーSSL 360°は、マニュアルを見ずに触ってみても問題なく操作できました。この価格帯でルーティングなどがソフトウェア上で一通り組めるのは良いですね。本体の操作性については、フロント・パネルがすごく触りやすいなと思いました。コンパクト故に操作しづらいオーディオ・インターフェースも見かけますが、SSL 12のボタンはコンソールのモニター・セクションと同じような感覚で触れるし、ボタンの形状や間隔も絶妙に押しやすい作りになっています。
SSL 12の最大の魅力は、一台で基本的なことは全部できてしまうこと。ヘッドフォン・アウトが2つ付いていてMIDI IN/OUTもあるし、マイクプリも安心感のある音が録れる。ADAT入力もあるから、SSL 12とADAT対応のマイクプリをスタジオに持って行けばドラムも録れてしまいます。欲しい機能が押さえられていて、とてもバランスが良いなと思いますね。このサイズのオーディオ・インターフェースは一人で使うものだと思ってしまいそうですが、誰かと一緒にレコーディングするときにも使えるように、必要な装備が整っているのが好印象です。
サウンドについても、一緒に仕事をしているクリエイターに実際にお薦めできるようなクオリティです。エンジニアも、自宅にこれがあったら便利かもしれないですね。ヘッドフォン・アンプだけ、またはモニター・アウトだけ、別のものを用意しないといけないということがないレベルの音がしっかり鳴るので、自宅作業はこれ一台で完結できると思います。
Big Six|オーディオI/O機能を内蔵したアナログ・ミキサー
Big Sixは、最高24ビット/96kHzのUSBオーディオ・インターフェース機能を備えるデスクトップ型アナログ・ミキサーだ。モノラル4ch+ステレオ4系統に加え、ステレオ外部入力2系統を装備。モノラル入力に独自のSuperAnalogue技術により設計されたマイクプリを内蔵する、SSL唯一のオーディオ・インターフェースとなっている。それぞれのチャンネルEQには同社のコンソールSL4000 Eシリーズを基にした3バンド仕様のものを備え、モノラル・チャンネルにはワンノブのコンプレッサーも用意。さらにはSL4000 G由来のステレオ・バス・コンプも搭載する。各チャンネルのFROM USBボタンを押せば、DAWのトラックをすぐに立ち上げてミックスができるのも魅力だ。
◎オープン・プライス(市場予想価格440,000円前後)
トップ・パネル
❶マイク入力(XLR)、ライン入力(TRSフォーン)
+48Vファンタム電源、ハイパス・フィルター、ライン・スイッチ、Hi-Zスイッチも搭載
❷ゲイン
内蔵USBオーディオI/Oの出力を立ち上げるためのFROM USBボタン(サミングするときに使用)、位相を反転するボタンを備える
❸ステレオ・キュー・センド
独立したボリューム・コントロールを備える2つのステレオ・キュー・センドにアクセスできる
❹3バンドEQ
モノラル・チャンネルの場合、ハイとローはシェルビングとベルの切り替えが可能
❺コンプレッサー
スレッショルド・ノブのみを備えたコンプレッサー。アタック・タイムは8~30mmsで変化し、リリース・タイムは300mmsでレシオは2:1。自動メイクアップ・ゲイン機能も備える
❻チャンネル・フェーダー&パン
MUTE BUS Bボタンは、デフォルトはメイン・ミックス・バスに送られる信号をミュートし、バスBの方に送るもの。PFLは、押すとモニターの出力をフェーダーの前段から取れるようになる。USB OUT POST FADERを押すと、USB出力に送る信号を、フェーダーを通過した後のものに切り替えられる。INSERTスイッチ(モノラル・チャンネルのみ)は、チャンネル・インサートのオン/オフを切り替える
❼トークバック入力(XLR)
48Vファンタム電源、+20dBのメイクアップ・ゲインを持つLMCスイッチが用意される
❽外部入力(TRSフォーン)、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)
❾G-Series Bus Compressor
コンソールSL4000 G Seriesに搭載されたものと同じ設計のステレオ・バス・コンプ。アタック・タイムは30ms、リリース・タイムは100msで、レシオは4:1
❿ステレオ・キュー・マスター
ステレオ・キュー1、2を制御。ステレオ・キューをDAWの9/10、11/12chに送るスイッチも装備する
⓫PHONES
ヘッドフォン・アウトのレベルを青いノブで調整する。出力されるのは、下のモニター・ソース・セクションで選択されたソース(EXT1/2、MAIN、BUS Bから選択可能)。ST CUEスイッチを押すと、ステレオ・キュー・バスをモニターすることもできる
⓬メイン/ALTモニター
モニター・レベルを調整する。ALTでサブモニターに切り替えられ、CUTはミュート。DIMは指定した音量まで出力レベルを下げ、MONOは、出力をモノラルにする
⓭Bus Bマスター
Bus Bのレベル/ミュートをコントロールする
⓮メイン・バス
EXT1/2は、外部入力をメインのバスにサミングさせるボタンで、INSERTは外部エフェクト信号をメイン・バスにインサートするもの
リア・パネル
サイド・パネル
SPECIFICATIONS
●入力:モノラル×4+ステレオ×4+エクスターナルL/R×2、メイン・チャンネルへのサミング用インプットL/R ●USBオーディオI/O:最高24ビット/96kHz、最大16イン/16アウト ●入力インピーダンス:1.2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン/モノラル、ステレオ共通)、1MΩ(Hi-Z) ●メイン出力ノイズ:-90dBu以下(1つのモノラル・チャンネルに入力した状態)、-82.5dBu以下(全チャンネルに入力した状態) ●AD/DAダイナミック・レンジ:117dB ●付属品:USB-C to Aケーブル、電源ケーブル ●外形寸法:489.4(W)×141.2(H)×390.2(D)mm ●重量:6.8kg
REQUIREMENTS
●Mac:OS X 10.11以上 ●Windows:Windows 10、11。専用のASIO/WDMドライバーで動作
Impression|即応性と実用性のある音を兼ね備えているのがすごいですね〜米津裕二郎
前モデルのSixが発売されたときに“良いところを突いた製品が出た!”と思いました。このサイズのPAミキサーはたくさんありますが、レコーディング・コンソール仕様でマイクプリも付いているような製品は、このサイズ感だとなかったんですよ。それで現在はSixを配信の際によく使用しているのですが、もう少しフェーダーの数が欲しいと思っていて。そこにこのBig Sixが発売されたので、まさに求めていたものが形になったという印象でした。
まずは操作性についてですが、直感的で何も迷う必要がありません。特に素晴らしいのは、マスター・インサートのオン/オフや、マスター・バスにエクスターナル・インプットからの信号をサミングするということが、ボタン一つでできてしまうことですね。エクスターナル・インプットには、USBの13/14ch、15/16chを返すことも可能なので、例えば、DAWのメイン・アウトをエクスターナル・インプットにアサインしておいて、メイン・フェーダーは録るためだけに使う、というように作業の内容で切り分けることができます。ほかにもいろいろな使い方が考えられ、ユーザーごとのさまざまな使用方法に対応できるので、とても便利です。
Big Sixが最もすごいのは、オーディオ・インターフェースになることでしょう。USB-Cでコンピューターと接続すれば、Macならドライバー不要ですぐにレコーディングできてしまいます。FROM USBボタンを押せば任意のフェーダーにUSBからの入力を立ち上げることも可能です。声とドラムを録音してみたところ、クリアで繊細な音が録れる印象。味付けがなく、ソースを選ばずに使えそうです。モニター・アウトも同様にクリアで奇麗な音でした。
EQ、コンプは、オンにして回せばすぐにかかるので直感的に使えますし、割とがっつりかかります。チャンネル・コンプはワン・ノブなので細かな調整はできませんが、目指すべき方向性の音になってくれますし、バスコンプも同様に便利。即応性と実用性のある音を兼ね備えているのがすごいですね。
総じて、声や楽器などをいろいろ録音するクリエイターや、自宅のスタジオでアーティストと一緒にレコーディングするプロデューサー、配信を行うエンジニアにとっては最強の機材。現行品でやりたいことをかなえてくれるのは、これしかないですね。
米津裕二郎
アーティスト作品、CM楽曲、劇伴、リレコーディング・ミキサーなど幅広く活動中。イマーシブ・オーディオにも意欲的に取り組んでいる。2023年7月より青葉台スタジオに移籍