注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。UNIVERSAL AUDIOから、さまざまなマイクをモデリングできるマイク・システムTOWNSEND LABS Sphere L22を継承する新モデル=Sphere DLXがリリースされたので、詳細についてUNIVERSAL AUDIOのIchi氏と、メディア・インテグレーションの天野玲央氏から話を聞いた。
Sphere DLX
デュアル・カプセル仕様のコンデンサー・マイクSphere DLX。プラグインSphere Mic Collectionと併せて使用することで、38種類のマイクのモデリングや指向性の変更などができるほか、1本でステレオ収録することも可能。
●まずは開発の経緯について教えてください。
Ichi Sphere L22は2017年にTOWNSEND LABSが発売したマイクです。TOWNSEND LABSはUNIVERSAL AUDIOと同じサンフランシスコのベイエリアにあり、当時はスタートアップの会社だったので、UNIVERSAL AUDIOと提携してSphere L22を開発しました。我々はSphere L22の技術にずっと興味があり、オーディオ・インターフェースApolloのUADプラグインのシステムともすごく相性が良いと思っていました。その後2021年にTOWNSEND LABSを買収することになり、そこの技術者であるクリス・タウンゼンドとUNIVERSAL AUDIOの技術者が協力して、今回紹介する新モデルSphere DLXと、Sphere LXを開発しました。LXはDLXより機能がコンパクトで手に取りやすい製品としてラインナップしています。
●マイク本体はL22を踏襲しているのでしょうか? また、素の音にはどういった特徴がありますか?
Ichi ほぼ同じ作りですが、より生産やメインテナンスがしやすくなるように細部を改善しています。モデリングができるマイクなので、ニュートラルな音が特徴ですね。フレーバーはあまりないけれどモダンなサウンドなので、そのまま使っている人もいますよ。
天野 クセがないので、アコギなどを録音する際に使いやすい音だと思います。
●セルフ・ノイズが7dBと低いのも特徴かと思いますが、どうやって実現されたのでしょうか?
Ichi できるだけ不要なノイズを排除するデザインにしています。ノイズは、マイクのパーツの品質だけでなく、パーツのレイアウトなどにも影響されるんです。それらすべてをハンドリングできれば、ローノイズの製品が作れるんですよ。
●さまざまなマイクの特性をモデリングできるというのが一番大きな特徴です。開発するにあたって、何を行ったのですか?
Ichi まずは“良い音のマイクを探す”ということをしたんです。マイクは同じ工場で生産された同じ製品だとしても、かなり個体差があります。だから、モデリングするマイクの中で“誰が聴いても最高だと言うであろう個体”を探しました。そしてそれを徹底的に分析し、プラグインで細部まで再現できるようにしています。マイク本体にはフロントとバック両方にカプセルを搭載してあらゆる情報を得ることで、マイクの特性を正しくモデリングできるようにしているんですよ。
●モデリングの再現度についてはいかがでしたか?
天野 ほかのメーカーもモデリング・マイクを出していますが、それらと比べても“これは確かに似ている……”と納得させられるような音がします。周波数特性だけでなく、軸外特性や音のアタックからリリースまで、精密にデザインされているような印象です。Sphereシリーズを使用していて、モデリング元の実機をお店で試しに来る人も多いのですが、十分実機と勝負できると感じますね。感度のバランスやセルフ・ノイズの低さは、むしろ実機よりも優秀ということもあるんですよ。感度が高すぎてすぐにひずんでしまったり、逆に低すぎてレベルを持ち上げるとノイズが出てしまったりするマイクも多いのですが、そこがちょうど良いので本当に使いやすいんです。
Ichi プラグインで実機とは異なる指向性にすることもできるし、本物を超えているところもいっぱいありますね。
●モデリングできるマイクの数も増えていますね。
Ichi ND103(NEUMANN TLM103)、RB-121(ROYER LABS R-121)、RB-160(BEYERDYNAMIC M160)、LD-BV1 (BRAUNER VM1)の4つ増え、計38本になりました。別売りのBill Putnam Microphone CollectionではUNIVERSAL AUDIOの創業者、ビル・パットナム氏所有のマイクを、Ocean Way Microphone Collectionではエンジニア/プロデューサーのアレン・サイズ氏所有のマイクを使用できます。
●特に気に入ったマイクはありましたか?
天野 やはり周波数特性に特徴があるマイクたちですね。例えばリボン・マイクのように“高域がナローだけど太くて気持ち良い”みたいな音が、あの見た目のマイクから出てくると、すごく“おおっ!”って思いますね。
●モニターする際にもモデリングするマイクを選べるそうですが、レイテンシーは気にならないのでしょうか?
天野 オーディオ・インターフェースApolloで使用すればレイテンシーは全く気になりませんでした。
Ichi レイテンシーが無いので、実際のレコーディング・フローまで変えてしまうんです。例えば、大量のマイクがあるスタジオでも、一瞬でマイクを変えることはできませんよね。普通はマイクを2、3本立てて試すと思うのですが、Sphereを使えば瞬時にマイクを変えられるし、どのマイクにするかは後から決められます。これだけすぐにマイクを変えられると、思ってもいなかったようなマイクが曲にハマったりすることも出てくると思うんです。だからすごくクリエイティブで面白いものが生まれるんですよ。どんな豪華なスタジオでもできなかったことが可能になるって、すごく大きなことですよね。
●DUALモードでは2つのマイクをブレンドできます。これはどのような仕組みなのでしょうか?
Ichi マイクで収音した信号を2つにコピーしてプラグインに読み込み、それぞれを処理して組み合わせることで、一つの新しいマイクを作れるという面白い機能です。
天野 素の音で録っておいて幾つもトラックをコピーすれば、さまざまなブレンドを試せるのがいいですね。
●フロントとバックのカプセルをそれぞれL/Rに割り当てることで、ステレオでの収音もできますね。
Ichi 例えば、ギター・アンプを録る際によく行う、SHURE SM57とリボン・マイクを組み合わせたマイキングが1本で可能ですし、一方のカプセルをアコギのサウンド・ホールに、他方を声に向けて、弾き語りを録るという使い方もできます。
天野 SHURE SM7Bと同じ位置に真空管コンデンサー・マイクを置くという設定をボーカル録音でよく見かけますが、そういったことがマイク1本でできるということですよね。
Ichi そうですね。スタジオでもよく行うセッティングですが、物理的に複数のマイクを使用すると、どうしても設置場所が異なるのでタイミングや位相がずれるんです。でもSphere DLXを使えばこの問題は完全に解決されます。
●リフレクション・フィルターによる色づけを補正する機能が追加されたのも大きなトピックです。
Ichi こういったフィルターは、形状によってクセがあるんです。それぞれの特徴を分析することで、その影響を打ち消し、元の自然なサウンドに近づけることができます。
天野 こういった機能は初めて見ました。リフレクション・フィルターは、主に残響時間をコントロールするために使うのですが、マイクの近くに設置するが故に、反射でコム・フィルターっぽい音になってしまうことがあるんです。EQなどを使って補正しようにも、空間の狭さを感じる音になってしまい簡単に解決できません。それを専用の機能で打ち消せるというのは素晴らしいですね。
●最後にどんな方にお薦めしたいかを教えてください。
Ichi 大量のマイク保管できないホーム・プロデューサーですね。この一本でクリエイティブなことがいろいろできます。プロ・スタジオでも一つの候補として持っておいてもいいし、スピード感がほしいエンジニアの方にも使ってほしいです。
天野 宅録で活動している個人の方にすごくマッチすると思いますし、AAX DSPにも対応しているので、AVID Pro Tools | Carbonや、HDXを使用しているスタジオで、“何にでも変身できる、セッティングが超楽な1本”として持っておくのも、すごくいいだろうなと思いますね。
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