何も考えずにいい音が出せて、マイキングの自由度も高いクリップ・マイク
NEUMANNから多彩な楽器に対応するクリップ・マイク、Miniature Clip Mic System(以下MCM)が登場した。アコースティック楽器のクローズド・マイキングに適した高耐音圧と低ノイズを誇るエレクトレット・コンデンサー・カプセルKK 14を中心に、グースネック、楽器の形状に合わせた9種類のクランプ、そして各社の送信機などに対応可能なコネクターを備える4種類のケーブルを自由に組み合わせて使用できるマイク・システムだ。MCM 114という型番で各楽器向けのセットも用意されている。NEUMANNブランドにふさわしい音質や設置時の調整を容易にする機構などを備えているということで、ミュージシャンやエンジニアから高い関心を集めている本製品を、いち早く導入した音響映像会社サンフォニックスの奥村岳児氏に、その実力について伺っていく。
耐音圧153dB SPLに着目
今回、取材に応じていただいたのは、放送局の技術業務からコンサートPA、イベント企画、ピアノ調律、機材レンタルまで幅広く手掛ける音響映像会社、サンフォニックスの奥村岳児氏。奥村氏は音響事業部の部門長として主にコンサートの現場に携わっている人物だ。MCMのことを知ったのは、海外の音響系情報サイトだったという。
「よく見ているWebサイトに、新製品の情報としてMCMが紹介されていて、あのNEUMANNがクリップ・マイクを出すのかと目を引かれました。僕はもともとレコーディングからこの業界に入ったので、NEUMANNブランドには“ドイツの職人によって作られた良質な製品”という特別なイメージを持っています。さらにスペック面では、耐音圧が153dB SPLという記載があり、その時点で抱えていた“馬力のあるホーン・セクションに使える、ひずまないマイクの選択肢が少ない”という課題が解決できそうだと思いました」
早速、日本でNEUMANN製品を取り扱うゼンハイザージャパンに問い合わせ、国内に製品が入ってきた段階で、すぐにチェックする機会を得たそうだ。
「まずは、コンサート会場に持ち込んで声で試してみました。普段、音の基準にしているマイクで“ワンツー、ワンツー”とテストした後、MCMで同じことを行うというチェックを繰り返してみたのですが、そのとき“普通の音だ”と思ったんです。もちろん、これは良い意味の“普通”です。クセのあるクリップ・マイクもある中で、MCMにはそれがありませんでした。そこで、“これはいいな”と思いましたね」
さらに後日、ライブ現場のリハーサル時にサックスで試してみられたとのこと。
「その際も、ミュージシャンの方から“クセがなく良い音だ”と言ってもらえました。イアモニから聴こえてくる音も生音に近くて、ストレスを感じなかったんです。エンジニアの視点で言えば、EQをしなくてもいい音なので助かります。ステージから聴こえてくる生音と、自分がチューニングしたスピーカーの音の差が少ないので、特別な処理を施す必要がなく、あとは各楽器の音が混ざってから考えようという姿勢でいられるんですよね。そんなマイクは実は多くないんです。トランペットやトロンボーンが力強く鳴ったときも、ひずむことなく、そのままの音が捉えられていて、耐音圧の高さも実感できました」
このようにMCMのクオリティに手応えを感じた奥村氏は、「ひとまず必要最低限の本数を」ということで、MCM 114 Set Brass/Sax/Uniと呼ばれる金管楽器用を5セット、バイオリン用クリップMC 1を2個、ピアノ用のマグネット・クリップMC 8を1個、ワイアレス・システムなどへの接続用にLEMOコネクター・ケーブルAC 32を1本、MICRODOTコネクター・ケーブルAC 33を1本、MINI XLR(4ピン)コネクター・ケーブルAC 34を1本導入した。
クリップの挟む力もポイント
MCMは音質だけではなく、クリップも大きな特徴だ。管楽器用やバイオリン用をはじめ、コントラバス用、ギター用など全9種類がラインナップしており、その使い勝手にも優れている。例えば、クリップはグースネックのどこにでも取り付けられるので、グースネックの長さをクリップの位置で調節可能だ。また管楽器や打楽器などへの取り付け用であるユニバーサル・クランプ・クリップMC 6は、グースネック取り付け部とクリップ部がそれぞれ45°単位(2軸)で回転する。また、MC 6以外のMC 8やMC 1も1軸の回転機構を備えている。これは非常に便利な仕様と奥村氏は語る。
「グースネック自体をマイクを向けたい方向へ回転できるので、マイキングの自由度が高まります。これがない場合、楽器に取り付けた後に角度を変えたいとしたら、グースネックをねじらなければなりません。しかし、グースネックはそれほど強度の高いものではないので、最小限の調整に抑えなければならないんです」
さらに弦楽器用のクリップには、挟み込む部分が楽器形状にフィットする可変機構が備わっている。これにより無理なく楽器にクリップを装着することが可能だ。また管楽器用のクリップではこんな気付きがあったという。
「クリップの挟む力が強すぎると、吹いたときの楽器自体の振動を止めてしまうことがあるんです。特によく分かるのがボディの薄いトランペットで、音色の艶やかさが失われてしまう。ですから、クリップの挟む力もポイントになるのですが、MCMのクリップは適度な力で挟んでくれるので使いやすいです」
接続ケーブルはMCM 114に含まれる3.5(φ)mmプラグのタイプのほか、SENNHEISERの送信機などに採用されているLEMOコネクター、MINI XLR(4ピン)コネクター、さらにMICRODOTコネクターの4種類が用意されている。
「現場によってワイアレス・システムを使い分けるので、各社の送信機に対応できるように、それぞれ4種類のコネクターが付いたケーブルが用意されているのは便利ですね。ワイアレス・システムを選ばずにマイクを使えるメリットは大きいです」
ケーブルを差し替えられるのは、システムごとに使い分けられる利便性の高さだけでなく、メンテナンスが必要になったときに個別に対応できることも利点として挙げられる。MCMはケーブルだけでなく、カプセル、グースネック、クリップ、どれもが個別に入手できるため、万が一の際にもフレキシブルに対応可能だ。
最後に、MCMを導入してから奥村氏の仕事にどういう変化があったかを尋ねてみた。
「“我慢しなくてよくなった”というのが一番感じていることです。それまでは“いい音だけどひずむから使えない”“ひずまないけど、音は妥協しなければならない”というケースもありました。しかしMCMを導入してからはそういうことがなくなって、“これを使えば何も考えずにいい音が出せる”という状況になりました。今後は、さらに本数を増やしてドラムにも使ってみたいですね。ステージ上の見え方がすっきりしてスマートになると思います」
奥村氏によると、ミュージシャンの間でもMCMは注目されており、披露すると現場が沸き立つそうだ。音についても好評を博しているとのことで、今後ミュージシャンが個人的に所有するケースも増えると思われる。MCMを目にする機会はさらに多くなるだろう。
製品情報
NEUMANN Miniature Clip Mic System