2024年に創業100周年を迎えたドイツのハイルブロンに拠点を構える音響機器のブランド、beyerdynamic。ヘッドホンのDTシリーズ、マイクのMシリーズやTGシリーズなどの製品は数多くのクリエイター/エンジニアに愛用されており、その品質が世界中のユーザーから大きな支持を得ていると言えるだろう。本サイトでは、7回にわたってbeyerdynamicをピックアップし、業界でも並外れた長さを誇る100年という歴史に迫っていく。初回は、現地に赴いて敢行したCEOのアンドレアス・ラップ氏へのインタビューを中心にお届けする。氏の話からブランドについてひも解いていきながら、礎を築いてきた製品、本国の楽器店での取り扱いなども併せて紹介していこう。
Photo:Hiroki Obara(*を除く)
beyerdynamic CEOが語る100年の歩みとこれから
2023年にbeyerdynamicのCEOに就任したアンドレアス・ラップ氏。本社のあるドイツ・ハイルブロン出身で、さまざまなオーディオ・ブランドで重要なポストを経験するとともに、beyerdynamicでもキャリアを積んできた人物だ。ブランドの特色や製品、今後のビジョンなどについて詳しく聞いた。
サクセス・ストーリーの代名詞“DT 770 PRO”
まずはラップ氏に、ブランドの成り立ちから聞いていこう。
「ちょうど100年前の1924年に、ベルリンで創業者のオイゲン・ベイヤーがシネマ用スピーカーの製造を始めたことからスタートしました。その後、ヘッドホンやマイクの製造も行うようになり、第二次世界大戦後に拠点をハイルブロンに移して以降、自社工場で開発と生産を続けています。今後もハイルブロンを拠点とすることは変わらないでしょう」
ジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンなどの往年のロック・スターから、エディ・クレイマーら著名なプロデューサー/エンジニア、現代ではテイラー・スウィフトやエド・シーランといったトップ・アーティストもbeyerdynamicユーザーとのこと。では、その代表的な製品とは何なのだろうか。
「1980年代半ばに発売したヘッドホン、DT 770 PROでしょうね。1937年のDT 48から始まった高品質ヘッドホンにおける卓越したクラフトマンシップと音質は、この数十年の経験に基づいたものです。今日に至るまで、DT 770 PROは世界中で数え切れないほどのホーム・スタジオやプロフェッショナル・スタジオのリファレンスに使用されています。DT 770 PROのサクセス・ストーリーこそ、beyerdynamicの代名詞なのです」
2024年の4月には創立100周年を記念した限定モデル、DT 770 PRO X Limited Editionが登場。ラップ氏の言葉の通り、DT 770はブランドの顔として長きにわたり支持されている。「当社のブランドDNAは、サウンドと品質です」と、氏は続ける。
「すべてのスタジオ・ヘッドホンに共通して、我々のモットーである“Made in Germany”の正確な製造技術により、低域から高域まで全帯域をカバーする、フラットで優れた音質を実現しています。また、快適な装着感の実用的で堅固なデザインになっており、数年~数十年後に部品が壊れても、交換部品を入手でき、簡単に修理が可能です。これらはすべて、プロ・ユーザーが数十年来、当社の製品を信頼していることを意味します。今後の新製品も含め、このクオリティを維持し続けることが重要なのです」
DT 880 PRO、DT 990 PROのほか、ハイエンド・モデルのDT 1770 PRO、DT 1990 PRO、2021年リリースのPRO Xシリーズなど、多岐にわたるヘッドホンを発表している。また、ラインナップはヘッドホンだけでなく、マイクにおいても創業初期からの伝統が受け継がれている。
「1939年にダイナミック・マイクのM 19、1957年にはリボン・マイクのM 130とM 160を発表し、現在もMシリーズとしてスタジオ・ユースのマイクを提供しています。そのほかライブ・ステージ向けのTGシリーズも大切なラインナップです。どちらも音質はもちろん、形状や使いやすさの面も重要視しています」
beyerdynamicが生み出した往年の名機
ハンドメイドによって品質の水準を保つ
生産工程には、ハンドメイドと機械生産の両方を導入している。オートメーション化によって生産数を増やし、多くのユーザーに製品を届けることも重要というが、並行して行うハンドメイドでの生産にもこだわっている。
「当社は独自で機械やシステムを開発し、それをハンドメイドの生産フローに組み込む形で導入しています。ハンドメイドにこだわるのは、高水準のプロダクション・レベルを維持するため。自社の工場でハンドメイドすることによって、音響的な水準を保つことができていると信じているんですよ。これらを組み合わせた一貫した流れを構築することで、“Made in Germany”を維持し続けられているのです」
100周年を経たその先の展望について、ラップ氏は「プロ・オーディオ製品とコンシューマー製品の両立した市場拡大です」と掲げる。
「共に両立しながら、シェアをもっと多くの国に、今後1、2年のうちに素早く広げていきたいです。まだ詳しくは言えませんが、コンシューマー製品のラインナップだけではなく、プロ・オーディオ製品の拡大も考えています。もちろん我々のDNAである、beyerdynamicならではの音質がコアになっていることは、これから先も変わりません」
最後に、遠く離れた日本でbeyerdynamicを愛用するユーザーへのメッセージをお願いした。
「いつも応援してくれてありがとうございます。製品の購入からSNSでのエンゲージメントまで、いろいろな形でサポートしていただいていることに感謝しています。これからも、とてもエキサイティングな新製品を出していくので楽しみにしていてください。100周年を祝福すると同時に、これからの100年を一緒に祝えるようにする。これが我々のミッションであり、高水準、高品質を維持し続けるための戦略です。日本の市場でもbeyerdynamicが成功を遂げていることを誇りに思っています」
ドイツの大手楽器店に見るbeyerdynamic
今回編集部はドイツでのbeyerdynamicの販売状況を確認するべく、thomannとsessionという2つの大型楽器店を訪問。世界ではどのように取り扱われているのか、写真とともにレポートしていく。
thomann
バイエルン州トレッペンドルフを拠点とする楽器販売店。実店舗、オフィス、物流など、町全体がthomannと言えるような、広大な敷地を構えている。オンライン販売規模はヨーロッパ最大級で、2023年度の売上高は約14億ユーロ(3分の2は国外への販売)。
session
ヘッセン州の大都市、フランクフルトにある楽器店。中心部からトラムで行ける距離にありながら、敷地面積は約2,500㎡を誇る。バーデン=ヴュルテンベルク州ヴァルドルフに店舗を構えるほか、オンライン販売も行っている。
beyerdynamic 100周年限定モデル|DT 770 PRO X Limited Edition
ブランド100周年を記念して発売された、DT 770 PROの限定モデル。ベロア生地のイヤー・パッドによる快適な装着感、力強い低域と明瞭な高域を再生するというスタジオ・ユースのサウンドを受け継ぎながらも、着脱式ケーブルの採用、インピーダンスが48Ωに、周波数特性が5Hz~40kHz(DT 770 PROは5Hz~35kHz)となるなど、現代的な音楽プロダクションに適応したさまざまな変更が施されている。
ドライバーは、2021年に誕生したPRO Xシリーズに採用している“STELLAR.45”ドライバーを搭載。音楽制作やエンジニアリング、ストリーミング配信などのあらゆる用途に対応する、beyerdynamicの次世代ヘッドホンだ。