フックアップが運営するオンライン・ストアbeatcloudから、注目のソフトをピックアップする本コーナー。今回レビューするのはLIQUIDSONICSからリリースされたリバーブ・プラグイン、 Tai Chiです。Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VST2/VST3プラグインとして動作。ステレオだけでなく、5.1chやDolby Atomosにも対応するほか、内蔵エフェクトで細かい音作りが可能です。各セクションを一つ一つ、丁寧に説明していきたいと思います。
コーラスやモジュレーションを備えるADVANCEDタブ
まずは画面レイアウトから(メイン画像)。最上段にはプリセット欄や詳細設定ボタンなどを装備。真下にはMASTER、ADVANCED、DYNAMICS、FIDELITY、EQUALISERというタブがあります。画面右上には入力/出力/残響成分といった項目で表示を切り替えられるメーターと、OUTPUT MIXセクションを搭載。同左下にはMULTIBAND REVERB TIME MULTIPLIERSとCROSSOVER BAND DEFINITIONセクションがあり、これらの右側にはTREBLE CONTOURINGとBASS CONTOURINGセクションがあります。
それでは、使用感を交えながら詳しく見ていきましょう。まずは画面上段にあるMASTERタブ。REVERBセクションではリバーブ・タイム、プリディレイ、 広がり、初期反射などの設定が行えます。Pre-delayノブのラベル横にはメトロノーム・アイコンがありますが、これで設定値をmsからDAWのテンポと同期した音符単位へと切り替えることが可能です。気に入ったのはWidthノブ。音像をかなり広げることができるので、シンセ・パッドなどに用いるのが効果的でしょう。
REFLECTIONセクションの“REFLECTION”ラベル横にあるメニューからは、ルームやホールといった空間イメージをセレクトできます。ここで大体のイメージが作れてしまうので、ここから詳細を詰めていくような流れです。Patternノブで、選択した空間イメージに応じた初期反射成分の分布パターンを設定可能。パラメーターの数値が大きいほど位置が離れ、アルファベットが大きいほど初期反射率が高くなります。Rolloffノブでは、初期反射成分の高域の減衰特性を調整。ラベル横にある数字をクリックすることで、ローパス・フィルターのカーブを−6/−12/−18/−24dB/octから設定できます。
次はADVANCEDタブ(画面①)。Densityノブで残響成分の明瞭度を、Diffusionノブでリバーブの分散率を設定できます。このタブの右側にあるChorusノブ、Mod Rateノブ、Wanderノブ、そしてこれらの上部に位置するボタン類では、コーラス/モジュレーション・エフェクトを扱います。興味深かかったのはWanderノブ。これを上げるとモジュレーションが“ランダム”に分厚くなるのです。またThicken Chorusボタンをオンにすると、より深みのあるコーラス・サウンドが得られるでしょう。さらにこの右側にある3つのボタンでコーラス・モードを切り替えられ、Enrich、Driff、Detuneの順で効果が強くなります。
ダッキングとコンプレッションを調整するDYNAMICSタブも見てみましょう(画面②)。このタブの上段には5つのボタンを搭載。Offボタンを押すとダイナミクス・プロセッサーを無効にでき、Reverbボタンをオンにするとダッキング/コンプレッションを残響成分のみに適用可能です。一方のWetボタンをオンにすると、初期反射成分と残響成分の両方に適用することができます。
続いて右側にあるDuckボタンをオンにすると、ダイナミクス・プロセッサーの動作がダッキング・モードに、Compressボタンをオンにするとコンプレッサー・モードになります。試しにReverbボタンをオンにしてダッキング・モードで使用したところ、いわゆるサイド・チェイン・リバーブのような効果を得ることができました。Trimノブで出力レベルを補正できるのも便利。ゲイン・リダクション量を確認できるGRメーターも搭載しています。
FIDELITYタブでは、リバーブ・サウンドをあえて劣化させるための処理が行えます(画面③)。Bandwidthノブではブリックウォール・フィルターを適用でき、入力信号の帯域幅を調整。BIT CRUSHERセクションでは、3つのノブで出力音、残響音、初期反射音にビット・クラッシャーを施せます。試しにBIT CRUSHERセクションで残響音のビット深度を下げたところ、空間がよりリアルな響きになりました。
続くRECIRCULATIONセクションですが、これはADVANCEDタブにあるMod Rateノブに追従しており、Depthノブでモジュレーションの深さを、Resolutionノブでモジュレーションにかかるビット・クラッシャーの深度を調整可能です。
最後はEQUALISERタブ(画面④)。ここにはハイパス・フィルターとローパス・フィルター、高域/低域用のシェルビング・フィルターを装備。またEQUALISERタブ右上にあるEnable EQボタンを押すと、このタブ全体をオフにできます。さらにLow CutとRoll-offのラベル横にある数字をクリックすることで、それぞれのフィルター・カーブを−6/−12/−18/−24dB/octから切り替え可能です。
リバーブ・タイムとクロスオーバー・ポイントを直感的に変更
画面左下にあるのは、リバーブ・タイムを複数の周波数帯域ごとに制御できるMULTIBAND REVERB TIME MULTIPLIERSセクションと、クロスオーバー・ポイントを設定するCROSSOVER BAND DEFINITIONセクション(画面⑤)。バンド数は3つか4つで選べ、クロスオーバー・ポイントはSplit A/Split B/Split Cで設定できます。ディスプレイ内にある❶〜❹のポイントをマウスで上下左右にドラッグすることで、各バンドのリバーブ・タイムとクロスオーバー・ポイントを自由に変更することができるため、非常に直感的な処理ができると思いました。
最後は画面右下。TREBLE CONTOURINGセクションには残響成分におけるハイカットEQを、BASS CONTOURINGセクションには残響成分におけるローシェルフEQを搭載(画面⑥)。また、両セクションにはリバーブ・タイムに対する減衰係数(乗算値)を設定できるRT Multiplyノブも備わっています。
この隣にあるFrequencyノブでは、 RT Multiplyが作用する周波数を設定可能。TREBLE CONTOURINGセクションでは500Hz〜18kHzまで、BASS CONTOURINGセクションでは25Hz〜4kHzまで調整できます。例えばTREBLE CONTOURINGセクションでRT Multiplyを×0.5に、Frequencyを6kHzに設定した場合、6kHz部分のみ、設定前と比べて半分の時間で減衰点に到達し、そのほかの高域残響成分は、設定前と同じ時間で減衰点に到達し、さらにRoll-offで設定したカットオフ周波数でカットされるという仕組みです。
プリセットは全部で220種類を収録しています。良いと思ったのはパラメーター・ロック機能。各ノブの下にある南京錠のようなアイコンをクリックすると、そのときの値をロックすることができます。つまり“ここだ!”と決めたパラメーターはそのままの値で固定しておきながら、さまざまなプリセットを試すことができるので重宝するでしょう。
忘れてはいけないのが、Tai Chiはモノラルからステレオ、L/C/R、クアッド、5.1ch、7.1ch、7.1.6chまで、さまざまなフォーマットに対応しているということ。自分はDolby Atmosや360 Reality Audio環境で、LFEやボトムを除くチャンネルに対してリバーブをよく使用します。Tai Chiの場合、ビット・クラッシャーを内蔵するため、意図した空間を再現する上で必要となるノイズを付加することができるので便利です。これまではリバーブ用のトラックを作り、そこにEQやコンプ、コーラス、イメージャーなどのエフェクトを重ねて独自のリバーブ・サウンドを作り込んでいましたが、Tai Chiならプラグイン一つで完結できてしまいます。
シンセやエレピにローファイ感を演出したいときにも、内蔵ビット・クラッシャーで積極的な音作りが可能ですし、緻密な設定ができるので、曲の印象を決定付けるボーカルに使用するのも効果的でしょう。Tai Chiはクリエイターからミックス・エンジニアまで、幅広くお薦めできる革新的なプラグインだと言えます。
LIQUIDSONICS Tai Chi
beatcloud価格:27,060円 ※2023年3月時点
Requirements
■Mac:macOS 10.9以降、AAX/AU/VST2/VST3対応のホスト・アプリケーション。第10世代以降のINTEL Coreプロセッサー(最低8コア以上)、またはApple Siliconを推奨
■Windows:Windows7以降、AAX/VST2/VST3対応のホスト・アプリケーション。第10世代以降のINTEL Coreプロセッサー(最低8コア以上)、またはAMD AMD Ryzen 5000シリーズ(Zen 3)以上を推奨
■共通項目:64ビット対応のDAWとOSが必要。iLokアカウント(iLok Cloudもしくは第2世代以降のiLok USB Keyでライセンスを管理)
murozo
【Profile】Crystal Soundを拠点に活動する気鋭エンジニア。元ラッパーという経験を生かし、ヒップホップ/R&B、ポップスといった2ミックスだけでなく、Dolby Atmosや360 Reality Audioなども幅広く手掛ける。