YAMAHAが、音楽業界へのCOVID-19の影響による危機感をきっかけに、ニュー・ノーマル時代の新しい音楽のあり方を提案する“Yamaha Covid-19 Project”を立ち上げた。そのプロジェクトの一環として、次世代ライブ・ビューイング・システム“Distance Viewing”を開発。10月19日にシステムを活用したライブを開催した。
Distance Viewingは、ライブの音響、映像、照明を記録したデータを使い、ライブ時の環境を再現するライブ・ビューイングのシステム。映像は大型スクリーンに映し出され、音響、照明はライブ・ハウスの機材を本番同様に稼働することで生演奏さながらの音圧や空間演出を体感できるようになっている。
今回対象となったライブは、音楽ユニットORESAMAのライブ公演『ORESAMA ONEMAN LIVE “Gimmme!”』。10月18日にVeats Shibuyaで行われたライブ本編を収録し、翌日同会場にて、観客を動員してDistance Viewingを使った再現ライブ『ヤマハ、ORESAMA、Veats Shibuya presents LIVE ON DISTANCE VIEWING “Gimmme!”』を行った。その一般公演に先駆けて、メディアに向けた体験会を実施。ORESAMAの楽曲「OPEN THE WORLDS」「cute cute」の2曲がDistance Viewingで上映された。
また、体験会ではYamaha Covid-19 Projectリーダーの畑紀行氏、Distance Viewing開発担当の柘植秀幸氏、Veats Shibuya店長の川上貴也氏が登壇。Yamaha Covid-19 Projectの概要や、Distance Viewingの仕組みと開発背景、コロナ禍で大打撃を受けたライブ・ハウスを取り巻く現在の状況が語られた。
今年5月から急ピッチで開発が進められたというDistance Viewingだが、そのベースとなる仕組みとなったのが、YAMAHAが既に開発を進めていたライブ再現システムの“Real Sound Viewing”だ。これは、アーティストの姿、PA/音響、楽器の生音、照明/空間演出の4つの要素を再現するシステム。音響についてはネットワーク経由で同期した信号が各楽器に送られ、トランスアコースティックという仕組みを用い、楽器から生のサウンドが再生されるというものである。
今回のDistance Viewingでは、よりスピーディに展開できるようにReal Sound Viewingのシステムを簡素化。楽器の生音ではなく、PAエンジニアのミキシング・データを含むライブ時の音響データを使用する。同時に、照明、映像データがパッケージングされて再現される仕組みだ。
音声はパラデータで収録し、再現時もマルチトラックとして扱うことが可能。ミキシング・データについては、本公演時のフェーダー操作を含むデータをそのまま活用することもできるが、ミックス前のデータを使用して、会場に合わせてその場でミキシングをすることも可能だという。
本システムの導入は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせでの提供を予定。ハードウェアに関しては、YAMAHA製の音響機器をベースとするため、既存のYAMAHA製デジタル・ミキサーも活用できるように調整を進めているそうだ。照明や映像との連携部分については、新たにソフトウェアを開発して提供するイメージだという。
また、今回のイベントではYAMAHAのスタッフがオペレーションを行ったが、今後はライブ・ハウスのスタッフ、PAエンジニア、照明エンジニアがオペレートを行えるような仕組みを作ることを視野に入れて開発を進めているそう。さらに、本番を行った会場だけでなく、別会場での再現にも対応できるようなシステムを開発中とのこと。実現すれば、過去のライブや遠方で行われたライブを場所を問わず再現することも可能になるだろう。
柘植氏によれば、このDistance Viewingが実用化されることで、
・感染リスクを抑えながらライブ・ハウスの営業が可能になる
・繰り返しての上演が可能であるため、チケット収益を確保できる
・ライブ・ハウスの既存の音響や照明機材をそのまま活用するため、導入コストを最小化できる
というメリットが考えられるという。ライブ・ハウスの新たな活用方法として、どのように発展していくのか今後の展開に注目していきたい。
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