ALLEN&HEATHより、ミドルクラスに位置付けられるFPGAベースの64chデジタル卓=Avantisが発売されました。同社は1969年にロンドンで設立された老舗のコンソール・メーカーです。アナログ卓の時代には、GLシリーズなどの使い勝手が良くコンパクトな製品が、日本でも多くのユーザーを獲得。デジタル卓に乗り出してからも、ILiveなど時代ごとに先進的な製品をリリースし続けてきました。現在ALLEN&HEATHのデジタル卓はフラッグシップのDLiveに始まり、今回のAvantisやSQシリーズ、QUシリーズと各レンジが充実。本稿では、目下最新モデルのAvantisを見ていきましょう。
目的の操作にアクセスしやすい仕様
レイヤーは12ch刻みで全6バンク
昨今はデジタル卓への移行も一段落し、ステージ・ボックスとデジタル・ケーブルでスマートにセットアップするのが普通になってきました。私たち現場のエンジニアにとっては、機種に固有の使用法を覚えながら操作するという新たな試練の始まりで、メーカー側も小型軽量化と操作性のせめぎ合いだったのではないかと思います。タッチ液晶の複数化&大型化で一度に視認できる情報を増やす製品がある一方、アサイナブルな物理操作子での直感的な操作を特徴とした製品も存在し、操作性はその2つに大別できるようになった印象です。極端な機種は現状メイン・ストリームにはなっていませんが、多くのメーカーは両者の長所と短所をどう取捨選択するかという局面に来ているように思います。
さて早速、Avantisをレビューします。まずは外観。非常にコンパクトです。今回のチェックに際してはプリパッチ・ケースでの搬送だったのですが、コンパクトで軽量なケースを製作すれば、1人での運用も不可能ではないように感じました。液晶内の表示構成は、各ページにアクセスしてからタブで操作メニューを選ぶというものです。画面左でページを選択し、上のタブを選ぶと、目的の操作メニューにたどり着けます。それ以上深くめくっていく必要が無いので、一度把握してしまえば忘れてもすぐにたどり着けます。ヒューマン・インターフェースとしては、かなり優れているのではないかと思います。初期設定の操作性は従来機と変わらず、Setupページでアウトなどの使用方法を決めていく形。また終了時はいきなり電源を切らず、UtilityページのPower Downボタンを選択してシステム終了後に電源を切ります。起動については、電源スイッチを入れれば自動的に立ち上がります。
レイヤーは、最近流行の12ch刻みです。そもそもAvantisにはデフォルト(固定)のレイヤーというものが存在せず、すべてのレイヤーがカスタム可能。ユーザーはカスタムして使うのが当たり前で、インプットとフェーダー・ストリップの相関関係はインプットのSetupページで確認すればよいということなのでしょう。初期設定の状態ならストリップの左から順に番号通りでインプットが並びますので、そのまま使えばよいとも言えますが、長尺のイベントやフェスなどで次々とエンジニアが入れ替わる場合などは、事前の準備が若干必要かもしれません。レイヤーの数は全6つ。1バンクに12のフェーダー・ストリップ、2バンクで24のフェーダー・ストリップを備え、 24フェーダー×6レイヤーで合計144フェーダー・ストリップになります。64ch/42バスを自由にアサインできる仕様になっています。
操作子が自照式で輝度をシーン記録可
ボタンとタッチを合わせた独特の操作法
サーフェスのデザインは、ほぼ上半分を2枚の15.6インチ・フルHDマルチタッチ液晶が占めるという、ミドルサイズの卓としてはかなり思い切った仕様だと思います。両者は完全に切り離しての運用が可能なので、各液晶に1人ずつスタンバイし、別の作業をすることが可能です。また、サーフェス用の照明や外付け照明用のコネクターが省略されており、その代わり液晶も含め、すべてのノブやスイッチが自照します。
フェーダーについては、下からLEDストリップにより自照する形です。そしてシーンを使うことにより、すべての輝度を0~最大で記録でき、完全暗転などの演出にも対応しやすい。ただし、紙の資料などを置くスペースや紙を照らす照明などを別の場所に確保する必要が出てくるかもしれません。今後はタブレットやノート・パソコンなどペンを使う必要がなく、自照する資料を使うことが多くなるでしょうから、大した支障ではないと思いますが。
操作性について詳しく見ていきます。まず特記すべきは、チャンネル・セレクト・ボタンの省略でしょうか。こう書くとマイナス要素のようですが、物理的なボタンが無くなっただけで、液晶上のチャンネル表示にタッチすれば選択可能。一度分かってしまえば、特に迷うこともなく操作できます。かなり独特な仕様としては、サーフェス左側にあるPreやSafes、Freeze、CopyやPaste、Resetといったボタンを押しながらタッチする操作が、数多く採用されているところです。
I/Oの設定ページなどは2本の指で拡大/縮小ができ、煩わしかった細かい画面表示を見ながらの作業がかなり軽減されます。
特に40代以上の世代には朗報なのではないでしょうか。この拡大/縮小は、今後EQのQ幅設定などにも適用されていくとのことです。
AD/DAは32ビット/96kHz
内蔵エフェクトやオプションが充実
内部にも目を向けていきましょう。ALLEN&HEATHのデジタル卓は、これまでAD/DAが24ビット/96kHzだったそうですが、今回初めて32ビット/96kHzが採用されました。サンプリング周波数96kHzは48kHzなどに対して大きなアドバンテージを持ちますが、さらに32ビットになることでダイナミック・レンジが拡大し、ディテールの再現性が高まります。このビット・デプスの向上は、確実に聴感のクオリティ・アップにも貢献しています。ALLEN&HEATH独特の中高域に特徴があるサウンド・キャラクターは健在なので、それに抵抗が無ければすんなり使い始められるでしょう。またミッドレンジの価格で96kHzという卓はまだまだ少ないので、購入検討者に向けては大きな魅力になると思います。内蔵エフェクトは十分なラインナップであり、業界標準のリバーブなどをシミュレートしたプラグインが標準でインストールされています。
現状ではグラフィックEQがチャンネルにインサートできないとのことですが、順次アップデートされていく予定だそうです。またオプションですが、フラッグシップのDLiveに搭載されているダイナミクス系プラグインを網羅したDPack($1,499/本国Webサイトのみの販売。ユーザー登録のみで取得できるAvantis Free Packもあり)をインストールして使うことも可能です。
オプションと言えば、ステージ・ボックスも用意されています。標準で使用するものとしては、48イン/16アウトのGX4816(624,000円)をラインナップ。従来機と同じくサーフェスとの通信はSLinkで、イーサーネット・ケーブル1本で接続でき80mまで延長可能です。さらに、発売済みの同社ステージ・ボックスの多くはAvantisに対応しています。既に持っている機材を無駄なく運用できるということですね。
リア・パネルを見てみると、アナログだけでも12イン/12アウトの本体入出力(XLR)がありますが、オプション・カード・スロットも2つ搭載されています。これによりレコーディングでは標準とも言えるMADI、いまやオーディオ・ネットワークのスタンダードになりつつあるDante、DLiveなどとの連携には必須のgigaACEなどのカードを組み合わせられ、豊富なスロット構成が可能です。また最近ではWAVESなどのプラグイン駆動システムを外部接続し、ニアゼロ・レイテンシーで使用することが増えましたが、WAVES SoundGrid用のカードM-DL-WAVES3-A(261,000円)なども用意されているため対応することができます。
多岐にわたって特徴を列挙してきましたが、総じて非常に良くできているコンソールだと思います。価格に対して機能面が充実しているので比較的後発の感がありますが、その分だけあらゆるファクターを分析し、さまざまな視点から考察した上で、1つの形にしたという思いが伝わります。
問合せ:アートウィズ
製品ページ:https://artwiz.jp/allen_heath/avantis.html
ALLEN&HEATH Avantis
1,600,000円
▪入出力:64ch/42バス ▪入力ゲイン:+5〜+60dB(1dBステップ)▪PAD:−20dB ▪ファンタム電源:48V ▪AD/DA:32ビット/96kHz ▪周波数特性:20Hz〜30kHz(0/−0.8dB)▪ダイナミック・レンジ:109dB ▪SN比:−92dB ▪全高調波ひずみ率:0.0015% @+16dBアウトプット、1kHz ▪ヘッド・ルーム:+18dB ▪USBオーディオ再生:モノラル/ステレオ、最高24ビット/96kHz WAV ▪USBオーディオ録音:ステレオ、24ビット/96kHz WAV固定 ▪外形寸法:917(W)×269(H)×627(D)mm ▪重量:26kg