伝統的フィルム・スコアリング方法〜Digital Performerでパンチ&ストリーマーを実践!|解説:小林洋平

伝統的フィルム・スコアリング方法 パンチ&ストリーマーを実践!|解説:小林洋平

 皆さんこんにちは。作編曲家の小林洋平です。早いもので私のDigital Performer(以下DP)連載も4回目。最終回は、フィルム・スコアリングにおいて非常に強力なデバイスであるPunch & Streamer(以下パンチ&ストリーマー)についてお話をしていきたいと思います。特にテンポの揺れが大きい楽曲や、エモーショナルで音楽的揺れを重視したいような場面において大きな力になってくれます。

まずは環境設定の“フィルムスコアリングイベント”をチェック

 映画や単発ドラマなどで映像に対してタイミングや尺を合わせて作曲、録音する際、その方法論は多岐にわたります。例えば、クリックでレコーディングするとエモーションが足りず窮屈になってしまうようなシチュエーションがあるとします。そこに対して若干テンポの幅を持たせて、かつタイミングを合わなければならないシーンの場合、パンチ&ストリーマーというものがとても有用です。海外では昔から当たり前のように使われていると認識していますが、日本の現場で使われることはあまり多くなく、劇伴収録などでも珍しがられることのほうが多いです。最近ではほとんどクリックで録音するのが主体になってしまい、本来フィルム・スコアリングの世界で当たり前のように使われてしかるべきデバイスですが、日本ではなぜか一般的にはならなかったようです。

 ではどういうものか。まずテンポのリファレンスのために画面に開けられた白穴があります。これがパンチです。テンポがゆっくりだと、もっと縛りが緩やかなフラッターというのもあります。そして、曲の入りや終わり、その他タイミングを合わせるべきシンク・ポイントを認識するために、画面の左から右に流れるラインがストリーマーです。

画面では背景が黒色だが、実際には映像の上にパンチ&ストリーマーを投影する。白穴がパンチ、赤い縦線がストリーマー。ストリーマーは左から流れていき、右端に到達したタイミングをシンク・ポイントに合わせることが多い。パンチは必ずしもストリーマーとセットというわけではなく、小節の頭や、特にテンポを細かく合わせたいときに単独で用いる。パンチを連続して出すことで、通常のパンチよりも長く出現させるフラッターというものもあり、より縛りが緩やかなシンク・ポイントで活用できる

画面では背景が黒色だが、実際には映像の上にパンチ&ストリーマーを投影する。白穴がパンチ、赤い縦線がストリーマー。ストリーマーは左から流れていき、右端に到達したタイミングをシンク・ポイントに合わせることが多い。パンチは必ずしもストリーマーとセットというわけではなく、小節の頭や、特にテンポを細かく合わせたいときに単独で用いる。パンチを連続して出すことで、通常のパンチよりも長く出現させるフラッターというものもあり、より縛りが緩やかなシンク・ポイントで活用できる

 ストリーマーは、Warning=カウント前の注意指示として黄色(明確な決まりはなく、私はカウントが入るタイミングで入れています)、入口は緑、出口は赤など、役割ごとにさまざまな色を駆使します。これらを総じてパンチ&ストリーマーと呼びます。フィルムの時代には、実際のワーク・プリントに穴を開けたり、数フレームにわたって切り込み線を入れて行っていました。

 パンチ&ストリーマーを表示させる方法は複数ありますが、DPでは非常に簡単な操作で映像に反映することができます。その方法と手順を見ていきましょう。

 最初に、きちんとパンチ&ストリーマーがジェネレートされているかを確認するため、DPの環境設定から“フィルムスコアリングイベント”を見てください。

環境設定のフィルムスコアリングイベント画面。筆者は英語版を使用しているが、日本語表示の場合、赤枠には“マーカーストリーマーを生成”“スタンドアローンストリーマーを生成”“パンチを生成”“フラッターを生成”の各項目が、黄枠には“ムービーオーバーレイ”と表示されている。初めて使用する場合は、まずこれらをチェックするところから始めよう

環境設定のフィルムスコアリングイベント画面。筆者は英語版を使用しているが、日本語表示の場合、赤枠には“マーカーストリーマーを生成”“スタンドアローンストリーマーを生成”“パンチを生成”“フラッターを生成”の各項目が、黄枠には“ムービーオーバーレイ”と表示されている。初めて使用する場合は、まずこれらをチェックするところから始めよう

 そして必要に応じて、画面左上の4つのジェネレート項目にきちんとチェックを入れてください。また、左下の項目ではどのようにパンチ&ストリーマーをアウトプットするのかをセレクトします。外部機器を使用して表示する方法もありますが(既に機器が入手困難であることも踏まえ、ここでは説明は割愛します)、基本的には“ムービーオーバーレイ”で問題ないかと思います。画面右側ではそれぞれの色や秒数、大きさなどのデフォルト設定ができます。もちろんこれらはデフォルト設定なので、後から一つずつ異なる設定にもできます。

フィルムスコアリングイベント画面の右側ではストリーマーの色や秒数、パンチの色や大きさなどを設定できる。伝統的にストリーマーは2秒が基本だが、2.67秒や3秒、3.33秒といった、用途に合わせた秒数を指定可能だ

フィルムスコアリングイベント画面の右側ではストリーマーの色や秒数、パンチの色や大きさなどを設定できる。伝統的にストリーマーは2秒が基本だが、2.67秒や3秒、3.33秒といった、用途に合わせた秒数を指定可能だ

イベントリストからストリーマー/パンチ/フラッターを入力

 さて、次は具体的にパンチ&ストリーマーを入力/表示させていきたいと思いますが、ここで一つ確認です。パンチ&ストリーマーの使い方に関して、大まかに言えば厳密なルールや決まりに縛られることはありません。しかしながら、やはり基本的な考え方、理想的な方法論は確実に存在していて、それらを無視して闇雲に表示させても、かえって弊害が出てくることもあり得ます。限られた誌面上でその方法論までお話することは残念ながらできませんので、ここではあくまで表示のさせ方にのみフォーカスをしていると思っていただければ幸いです。担当している大学院の映画音楽の講義などでも、かなり時間をかけて解説する項目ですので、その点だけご理解いただければと思います。

 既に映像はインポート済みを前提としてお話しします。まずはトラックウィンドウ上でパンチやストリーマーを表示させたい位置にカーソルを持ってきます。次にコンダクタートラックのイベントリストを表示させタブを開くと、“ストリーマー”“パンチ”“フラッター”の項目が出現。

イベントリストのタブ項目の下段には、ストリーマー、パンチ、フラッター(画面ではStreamer、Punch、Flutter)が並ぶ

イベントリストのタブ項目の下段には、ストリーマー、パンチ、フラッター(画面ではStreamer、Punch、Flutter)が並ぶ

 仮にストリーマーを入力したいのであれば、セレクトして+ボタンを押すと、現在のカーソル位置での入力タブが出てきます。

イベントリストの+ボタン(一つ前の画面を参照)を押すと、トラックウィンドウ上でカーソルを合わせた位置のメジャータイムが表示される(赤枠)

イベントリストの+ボタン(一つ前の画面を参照)を押すと、トラックウィンドウ上でカーソルを合わせた位置のメジャータイムが表示される(赤枠)

 ここでストリーマーの秒数、色、そしてストリーマーの出口では必ず入るパンチのサイズを指定できます。パンチやフラッターを選んでも同様です。シーケンスを再生して映像を確認すると、任意の位置に入力したパンチ&ストリーマーが表示されます。とても簡単ですよね。

イベントリストにストリーマーなどを設定した画面。色の付いた縦線がストリーマー、その右隣にある白丸がパンチ、白丸が3つ並んでいるのがフラッターを表している

イベントリストにストリーマーなどを設定した画面。色の付いた縦線がストリーマー、その右隣にある白丸がパンチ、白丸が3つ並んでいるのがフラッターを表している

 コンダクタートラックに直接入力する以外にも、マーカーに直接パンチ&ストリーマーを付与する方法もあります。環境設定の“フィルムスコアリングイベント”の、左列の中ほどに“新規マーカーをストリーマーに付属”の項目があります。ここにチェックを入れると、新しくマーカーを打った場所を目がけてストリーマーが入り、マーカーの場所に(つまりはストリーマーの出口に)パンチを自動で入力可能です。ただしこの方法だと個別に色などは指定できなくなりますので、やはり一つ一つ入力していく方がずっと汎用(はんよう)性が高く、丁寧なアプローチかと私的には考えています。

 パンチ&ストリーマーを焼き込んだQTファイルを書き出すのは非常に簡単。任意の範囲を指定し、“バウンストゥディスク”でファイルフォーマットを“QuickTime Export: ムービー”にして、最後に表示される“フィルムスコアイベントトラックを含む”をチェックすれば、オリジナルの映像にパンチ&ストリーマーを焼き込んだファイルが得られます。

バウンストゥディスク画面で、ファイルフォーマット“QuickTime Export: ムービー”(画面ではQuickTime Export: Movie)を選択して、QTファイルを作成

バウンストゥディスク画面で、ファイルフォーマット“QuickTime Export: ムービー”(画面ではQuickTime Export: Movie)を選択して、QTファイルを作成

ファイルフォーマットをQuickTime Export: ムービーにしてOKを押すと、QuickTime出力オプション(赤枠。画面ではQuickTime Export Options)が出現。ここで“フィルムスコアイベントトラックを含む”(画面ではinclude film scoring events)にチェックを入れると、パンチ&ストリーマーを反映したQTファイルが出来上がる

ファイルフォーマットをQuickTime Export: ムービーにしてOKを押すと、QuickTime出力オプション(赤枠。画面ではQuickTime Export Options)が出現。ここで“フィルムスコアイベントトラックを含む”(画面ではinclude film scoring events)にチェックを入れると、パンチ&ストリーマーを反映したQTファイルが出来上がる

 最後に、繰り返しになりますが、自由度はあるもののやはりベーシックな方法論や考え方は無視できないと思います。きちんとしたフィルム・スコアリングの基本をきちんと押さえた上でデバイスを活用するべきで、“面白がって画面にストリーマーを入れているだけ”のような使い方にならないように気をつけねばならないことは言うまでもありません。

 4回にわたり、フィルム・スコアリングに有用なDPの機能をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか? まだまだ素晴らしい機能が盛りだくさんのDP、ぜひ制作に活用していっていただければ幸いです。それでは皆さま、またどこかでお目にかかれますように。ありがとうございました。

 

小林洋平

【Profile】東京理科大学で宇宙物理学を学んだ後、奨学金を得てバークリー音楽大学映画音楽科へ留学し首席で卒業。映画やドラマ、報道番組など数多くの作品の音楽を手掛ける。主な作品として、映画『52ヘルツのクジラたち』(成島出監督)、『マッチング』『異動辞令は音楽隊!』(内田英治監督)、『繕い裁つ人』(三島有紀子監督)、連続ドラマW『落日』、NHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』、NHK『国際報道』、NHKスペシャル『福島モノローグ』『世界遺産 富士山』などがある。

【Recent work】

『52ヘルツのクジラたち オリジナルサウンドトラック』
小林洋平
(Rambling RECORDS)
RBCP-3527

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):オープン・プライス(市場予想価格:79,200円前後)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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