皆さん、こんにちは。作編曲家の小林洋平です。連載3回目は、シンクポイントの多い楽曲を制作する際に便利な“ファインドテンポ”、そしてフリー・タイミングでの制作時に非常に強力な“アジャストビート”について解説をしていきたいと思います。どちらもDigital Performer(以下DP)ならではの珠玉の機能です。
シンクポイントからテンポを割り出すファインドテンポ
フィルム・スコアリングにおいて、映像と音楽をシンクロさせるタイミングのことをシンクポイントと呼ぶことは、既に当連載でお話させていただきました。もちろんシンクポイントの数は作品の演出や曲ごとによって異なりますし、そのポイントが多い場合、テンポを全く変化させずにタイミングを合わせることは簡単ではありません。そこで心強い助っ人になってくれるのが、DPの“ファインドテンポ”機能です。操作手順を追いながら見ていきましょう。
まず楽曲の理想的なテンポを決定し、コンダクタートラックに入力しておきます。次にすべてのシンクポイントにマーカーを打ち(control+M、WindowsではCtrl+M)、それからマーカーウィンドウ(Shift+K)を開きます。その際、テンポの変化に対して絶対位置が変わってしまわないように、必ずマーカーをロックして固定するようにしましょう。
マーカーウィンドウでは、マーカーごとにメジャータイム上の位置やシーケンス頭からの実時間、タイム・コードなどを一括して把握することができます。ウィンドウの中にはチェック可能な“ファインド”項目があるので、すべてのマーカーの中でも特にきちんとヒットさせたいシンクポイントに“ファインド”のチェックを入れます。
さらに、タイミングがヒットしているかを判定する前後の範囲を、マーカーごとにフレーム単位で設定することが可能です(ヒットレンジ前/後)。その上で、ウィンドウ右上にあるミニ・メニューを開き、“ファインドテンポ...”という項目をクリック。
ここでは、検索したいテンポの範囲と間隔(値が小さいほど多くの数を検出)、メジャータイムにおいてヒットを認定するリズムの最小要素(4分音符、8分音符など)、さらには曲頭のオフセットの任意指定を含めて、指定したテンポの検索範囲に対応する理想的なテンポの候補が、多数リストアップされます。
このリストは、すべてのシンクポイントを総括してトータルエラーの量が少ない順に並んでいます。それぞれの候補となるテンポの“ヒット”“近”“ミス”の総数が表示されており、そのすべての数を定量集約したのがトータルエラーとなります。これで理想的なテンポが見つかればそれをクリックし適用します。もし満足いく結果が得られなければ、マーカーメニューでヒット範囲の見直しをしたり、テンポのレンジ、密度などを変更した上で再検索を続けます。
ただし、テンポやシンクポイントの数にもよりますが、すべてのシンクポイントに対して満足のいくタイミングを当てていくことが難しいのも事実です。そのようなときは、前回取り上げたように、すべてのシンクポイントがきちんとヒットするように細かく調整することも必要ですし、現実的にはそのようなアプローチをするのが多いことも言及しておきます。とはいえ、このファインドテンポはフィルム・スコアリングする過程において、大変役立つ機能と言えるでしょう。
アジャストビートを使えばフリー入力したMIDIを奇麗に譜割できる
さて、次は“アジャストビート”機能について。フィルム・スコアリングにおいて、役者の芝居と綿密に合わせたような曲だったり、テンポがゆっくりした音楽的な揺れの大きい曲を付けなければならないとき、当然一定のテンポ・マップだけでは対応できません。画面を見ながらフリー・タイミングで音楽を付けるようなシチュエーションの場合、シーケンスだけで完パケできる場合は問題ないかもしれませんが、生楽器をレコーディングする曲であったり、トラックダウンの際にきちんとした譜割で管理されていなければならないとき、フリー・タイミングで入力したデータをどのように扱えばよいか。そこで活躍する強力な機能が“アジャストビート”です。
仮に、映像に合わせてフリー・タイミングでMIDI入力したバイオリンの旋律があるとします(なお、後からアジャストビートを使ってフィックスするとはいえ、あらかじめおおよそのテンポをコンダクタートラックに入力しておくと、後の作業がとても楽です。特別な場合を除いて必ずその手順を踏むようにしています)。当然フリー・タイミングのため、本来の音楽的な譜割とは大きく乖離(かいり)しています。
これを修正するのに用いるのがアジャストビートです。こちらも具体的な手順を追いながら紹介していきましょう。
まずは、適用するMIDIトラックをトラックウィンドウ上でロックします。その後シーケンスウィンドウに移動して、プロジェクト・メニューからコンダクタートラック→アジャストビートと進みます。
アジャストビート・ウィンドウでは、まず譜割の修正単位を選びます。
その下のチェックでは、一度の操作で指定したテンポ修正がどの範囲までおよぶのか、などを決めることができます。その下のタブで、音符やオーディオ・ノート、マーカーなどに対して調整できるようにすることも可能です。
アジャストビート・ウィンドウが表示された状態では、小節のグリッド上でのカーソルが両矢印のような表示になります。
入力したMIDIデータを見ながら譜割上で想定される拍でクリックし、本来想定していた位置までドラッグして引っ張ると、任意の位置までデータをずらすことができます。
修正したいすべての拍でこの操作を順に行っていけば、きちんとした音楽的な譜割の完成です。最初に入力データをロックしているので、絶対的な音符の位置は変わらずに、テンポのアジャストとともに譜割だけが正確になったことになります。
ご存じの通り、DPはMusicXMLファイルに対応しているため、レコーディングのための譜面作りも容易です。特にヒューマン・ドラマなどで役者の芝居が高みにあればあるほど繊細なスコアリングが求められてきます。このアジャストビートは数あるDPの素晴らしい機能の中でも、我々フィルム・コンポーザーにとって本当に心強いものとなっています。
最終回はPunch & Streamerについてお話したいと思います。それでは今回はこの辺で。ありがとうございました。
小林洋平
【Profile】東京理科大学で宇宙物理学を学んだ後、奨学金を得てバークリー音楽大学映画音楽科へ留学し首席で卒業。映画やドラマ、報道番組など数多くの作品の音楽を手掛ける。主な作品として、映画『52ヘルツのクジラたち』(成島出監督)、『マッチング』『異動辞令は音楽隊!』(内田英治監督)、『繕い裁つ人』(三島有紀子監督)、連続ドラマW『落日』、NHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』、NHK『国際報道』、NHKスペシャル『世界遺産 富士山』などがある。
【Recent work】
『映画「マッチング」オリジナル・サウンドトラック』
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▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB 以上のRAM(8GB以上を推奨)