プレゼンテーション・モード
基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能だ。ここでは最先端のアーティストによるクールなパッチを紹介。ファイルをダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててほしい。
.txtファイルでパラメーターを書き出す
コンパクトなボディにもかかわらず良い出音で、鍵盤のウェイトも絶妙なYAMAHA Reface CS。スピーカー内蔵かつ電池駆動も可能という素晴らしいスペックを持ちながらも、本体にプリセット保存機能が搭載されていないため、ライブや制作時でのプリセット・リコールが一筋縄ではいかないという、かわいいながらもなかなか手のかかるシンセです。このシンセを使い倒すべく、Maxを用いてパラメーターを保存/呼び出しができるライブラリアンを作成しようと、このパッチ=Reface ParameterCaptureを制作しました。
Reface ParameterCaptureはMax for LiveデバイスとしてABLETON Liveで動作します。使い方ですが、まずReface ParameterCaptureをLiveのMIDIトラックにインサート。MIDI信号の入出力先“MIDI To”“MIDI From”でUSB接続したReface CSを選択します(MIDIケーブルを使用してもよいですが、USBを使う方がケーブルが1本で済むのでこちらを推奨します)。トラックのアーム・ボタンを押せば、Refaceの本体スライダーを操作した際にパッチのスライダーやLEDも変化することが確認できるはずです。パッチのWriteボタンを押すと、現在のパラメーターが.txtファイルとして任意の場所へ保存される仕組みになっています。プリセットをリコールする際には、Readボタンを押して保存した.txtファイルを選択。そうするとパッチのインターフェースが変化し、Reface本体の音色も呼び出した設定に変更されます。
パッチ本体の内部構造はとてもシンプル。Reface CS本体のフェーダーを用いて作成した音色のパラメーターを、MIDIを介してMax内の[pack]経由で[coll]へ格納。Writeボタンをクリックすることでその値を.txtファイルとして外部へ書き出して保存します。パラメーター類は、フェーダーやLEDなどReface CS本体のデザインを参考にし、[slider]や[bang]で作成したインターフェースに反映されるようになっています。見た目が破たんしないよう、適宜調整用のオブジェクトを組み込んでいたり、Inspector内で数値を調整しました。リコールの場合は、.txtファイルから数列を[coll]に読み込み、Reface CSの対応するパラメーターへ[ctlout]を経由して吐き出すといった仕組みになっています。それぞれのMIDI CCの値を.txtファイルの数列で書き出すという仕組みにしたのは、.txtファイルを共有することで別のパソコンでもこのパッチを使用してプリセットの読み込みを可能にするためです。
パッチング・モード
ビンテージ・シンセのエディットもMaxで可能
書き出し/読み込みのシステム自体は難しい機構を組み込んでいない分、インターフェースには少しこだわり、ユーザーがパラメーター・エディットで迷うことがないように、できる限り実機のReface CSのパネルを忠実に再現することに注力しています。[fpic]や[live.line]、カラー・エディットした[bang]を使用してReface CSのトップ・パネルを再現する作業は、細かい微調整の繰り返しで大変でしたが、ついつい没頭してしまいました(この作業が一番時間がかかりました)。
さらに、誤ってパッチのパネルを操作してしまい、せっかく作成したプリセットが変更されないように、パッチのフェーダーやOSCのLEDはマウスなどで変更できないような仕様にしています。現バージョンではパラメーター表示と、プリセットの書き出し/読み込みのみというライブラリアン機能に留まっていますが、このパッチを介して今後はReface CSのパラメーターをエディットできるようなシステムに拡張することも検討中です。また、ライブ時にはボタン一つで事前に設定したプリセットを瞬時に呼び出せる仕様にカスタムしています。
できるだけシンプルな構造にするために、今回のパッチでは基本的にMIDI CCでコントロールできるパラメーターのみを反映していますが、SysExを使用すればオクターブ・チェンジやルーパーの設定などもコントロールできるようなので、いずれこの機能も組み込んでみようと考えています。Reface CSに限らず、MIDI CCでパラメーター・エディットができる最近のシンセであれば、同様のシステムで独自のライブラリアンやエディターをMaxで作成することが可能です。またMaxはSysExデータのやりとりも可能なので、MIDI規格が搭載されているビンテージ・シンセのエディターやライブラリアンの作成もできます。筆者のOBERHEIM Matrix-6は、自作のMaxパッチでSysExを用いてエディットを行っています。
Maxでこのようなエディターを作成する利点として、自分が扱いやすい好みのデザインや仕様に仕上げられることや、Liveであればほかの素晴らしいMax for Liveデバイスと組み合わせてフィジカルやMIDIコントローラーでは難しい多層的なパラメーター・エディットを実現できることが挙げられます。筆者自身はプログラミングには全く明るく無い人間ですが、Maxを使用することで、“こんな機能が欲しい”“このパラメーターを個別にエディットすることができれば”と感じたとき、必要なユーティリティを比較的簡単に作ることができるので本当に重宝しています。Maxは誰でも30日間無償で使用できるので、プログラミングに触れたことの無い方も、ぜひ一度Maxの扉を開いてみてはいかがでしょうか。
佐藤公俊
音楽家/サウンド・デザイナー。フィールド・レコーディングと電子音を組み合わせた手法で楽曲を制作。公共空間のサウンド・デザインやラジオのサウンド・プロデュース、舞台芸術の劇伴など活動は多岐にわたる。またミックス/マスタリング・エンジニアとしてのノウハウやハードウェアの知識を生かして、ライブ・サポートも行っている。
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