PRESONUS Studio One(以下S1)ユーザーの皆さん、こんにちは。Yuichiro Kotaniです。前回は、普段サード・パーティ製プラグインで行っているキックの音作りをS1標準搭載のプラグインで再現してみました。今月も引き続き、リズム/グルーブの構築過程を通してS1をどのように使っているか紹介していこうと思います。
Pipeline XTとTunerを合わせ
外部音源のピッチをチェック
今回は、S1と併用する外部音源として、リズム・マシンのROLAND TR-8Sを使って話を進めます。まずはTR-8Sの音を録るためにオーディオ・トラックを作り、S1のユーティリティ・プラグインPipeline XTをロード。
通常はアウトボードのセンド&リターンに使うものですが、インプットに外部音源の信号をアサインしておくと、常時S1を通った音がモニターできます。チャンネルのモニター・ボタンを押す必要も無ければ、ほかのトラックを選択してもモニター音が途切れません。
またPipeline XTを使用すれば、外部音源をリアルタイムにマスターへ送ることができます。筆者は、テンプレートでマスターのポストエフェクト初段にS1のTunerを挿しているので、これを外部音源に対してもリアルタイムに使えるわけです。もちろん、毎回Pipeline XTを挿すのも手間なので、テンプレートではインプット設定済みのオーディオ・トラックにPipeline XTをあらかじめセットしています。Tunerに関しては、キックなどのピッチが楽曲のキーに合っているかどうかをチェックする用途。画面右上の虫ピン・マークをオンにすれば別のプラグインを開いても表示され続けるため、筆者はセカンド・ディスプレイにミキサー画面とともに配置しています。
こうした設定が済みTR-8Sで4つ打ちを打ち込むと、キックが鳴るたびにTunerが反応します。120BPMで4つ打ちのままだと速過ぎて、正確なピッチを確認しづらいものの、1小節あたり1打に減らしディケイを長くすると、しっかり判定してくれるようになります。ピッチの変更が必要な場合、TR-8SだとTUNEノブを使えばよいわけですが、S1付属のサンプラーImpact XTにサンプルを読み込んだ場合もTransposeとTuneのノブで調整可能です。Transposeでは半音単位の上げ下げ、Tuneではct(半音の1/100)単位での変更が行えます。気に入ったキック・サンプルがあれば、Tunerでピッチを把握した上でImpact XTに読み込むと、楽曲のキーに合わせて鳴らすことが容易でしょう。
低音はただ出ていればいいのではなく
“いかに止めるか”が肝
次にロータムとベースを打ち込みます。今回は、ロータムはTR-8Sのもの、ベースはユーロラック・モジュールNOISE ENGINEERING Basimilus Iteritas Alterのサウンドを使い、キックと同じようにチューニングしてからリズム内に配置しました。こうした低音楽器は、それぞれを個別のパートとして考えるのではなく、各音色が絡み合って1つのパターン/フレーズになるような感覚で作っています。クラブ・ミュージックにおいて低音はもちろん大事なファクターですが、ただ低音が出ていれば踊れるかと言われればそうではなく、むしろ低音が鳴って止まる、そして再び鳴るといった一連の流れで起こる空気振動で決まってくると感じています。いかに格好良く止めて、また鳴らし始めるかが腕の見せどころ。キックをトリガーにしてサイド・チェイン・コンプをかけるのも、この感覚で行うと正解が見えやすいと思います。
チューニングを行うのも低音のグルーブを効果的に聴かせるために必須です。S1では、録音時のチューニングが甘かった場合やピッチそのものを変えたいときにトラックを選択し、インスペクターのトランスポーズ/チューンを上下させることですぐに対応でき、結構大幅なピッチ変更をしても音質が破たんしないので、とてもありがたいです。こうすれば録音済みのリズムをチューニングし直すのも簡単だと思うので、今までチューニングをしていなかった方は試してみてください。低音セクションにやってみるだけでも見違えるようになると思います。
エフェクトのセンド&リターンは
ドラッグ&ドロップ一発で組める
続いてはTR-8Sのミッドコンガを録音しました。音色はばっちりだったものの、TR-8S上でTUNEを目一杯上げても楽曲のキーに合わなかったため、録音後にS1でトランスポーズしています。その後、2020年10月号のS1特集でも大活躍してくれた、純正のAnalog Delayをミッドコンガにセンド&リターンでかけてみましょう。WIDTHを100、SWAPをオンにすることで左右にディレイ音が振り分けられるピンポン・ディレイに、LFOのAmountを少し上げると選択したLFO波形(今回はサイン波)に沿ってディレイ音のピッチが上下するため、よりアナログ感が出てきます。
ちなみに、エフェクトをブラウザーからチャンネルのセンド欄にドラッグ&ドロップすると、そのエフェクトを挿したFXチャンネルや送り量のスライダーが自動的に作成されます。
これは結構な時短機能ですよね。ほかのDAWだと、FXチャンネルをエフェクトとともに立ち上げてから、送りたいチャンネルに戻ってセンド先と送り量を設定……となるところがドラッグ&ドロップ一発というわけです。素晴らしいです。
ここまで作ってきたリズムにシェイカーとハンド・クラップを足したものをSoundCloudにアップしておきました。チューニングをしたものと、わざとずらしたバージョンをアップしておいたので聴き比べてみてください。チューニングをしていない方は、どこかガタガタしてグルーブが出ていないと感じるのではないでしょうか?
さて、2020年も今号が出るころには残り少ないわけですが、皆様にとってどんな1年だったでしょうか。僕はモジュラー・シンセを始めたのが大きく、これを機に新しい音楽仲間がたくさんできた年でした。そして、そんな仲間たちが東京で開催しているマシン・ライブ・イベント“Patching for Life”と“FoW”が来年1月半ばに合同ツアーを敢行し、これに僕も参加します。80KIDZのJunさんやナンバーガールKentaro Nakaoさんら格好良いアーティストの方々が集結するので、皆さんぜひ遊びに来てください。もちろん僕も、しっかりと感染対策と体調を整えて臨みます。それではまた来年!
Yuichiro Kotani
【Profile】米ボストンのバークリー音楽大学で学んだ後、近年はアーティストとしてAll Day I DreamやSag & Treといった欧州の気鋭レーベルからディープ・ハウスをメインに作品をリリース。広告音楽の制作やメジャー・レーベルへの楽曲提供も行い、8月にはFriday Night Plans『Kiss of Life』のアレンジを手掛けた。来年は年始早々ツアーを敢行し、1月23日に大阪Noon、24日に名古屋Stiff Slack、25日に江の島OPPA-LAでライブを行う予定。
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