“歌ってみた”って……著作権は大丈夫?

“歌ってみた”って……著作権は大丈夫?

“歌ってみたの録画配信を始めたいけど、何から手をつけたらいいのか分からない……”“歌ってみたって著作権的に問題は無いの?”という疑問を抱かれる方も多いのではないでしょうか? この特集では、天月-あまつき-をはじめとする数多くのアーティストのミックスを手掛け、自身も動画を投稿するkain氏を迎え、iPhoneでできる“歌ってみた”動画の作成方法について紹介。まずは、“歌ってみた”を投稿する際に気になる著作権の問題について、音楽の著作権にまつわる書籍を数多く執筆されている東洋大学法学部教授の安藤和宏氏にご解説いただきました。

1. どんな曲でも動画サイトにアップしていいの?

 商業用にリリースされている楽曲のほとんどは、音楽著作権管理事業者であるJASRACかNexToneが著作権を管理しています。そして、JASRACとNexToneはYouTubeやニコニコ動画といった動画投稿サイトの運営者と包括利用許諾契約を締結しています。したがって、自分が歌う楽曲の著作権がJASRACかNexToneによって管理されている場合、歌ってみた動画をそのような動画投稿サイトに自由にアップすることができます。許諾手続は必要ありません。

 ただし、一部の楽曲の著作権は、著作権管理会社(音楽出版社といいます)が管理している場合があります。また、ごく稀ですが、作詞者・作曲者が個人で著作権を管理している場合もあります。そのため、だれが自分の歌う楽曲の著作権を管理しているかを調べる必要があります。

 JASRACとNexToneは、どちらも楽曲の検索サービスをネット上で無償提供しています。まず、JASRACのJ-WIDという検索サービスを使って、利用したい楽曲の権利者を調べてみましょう。作品タイトルとアーティスト名を入力すれば、検索結果が画面に表示されます。管理状況(利用分野)の表示画面で“配信”欄に“〇”がついていたら、OKです。もし、“配信”欄に“×”がついていたら、NexToneの検索サービスを使って、同じように楽曲の権利者を調べてみてください。検索結果の画面上で“配信”欄に“〇”がついていたら、OKです。

JASRACのホームページ。画面右側の“J-WID 作品検索”より楽曲の権利者を調べられる

JASRACのホームページ。画面右側の“J-WID 作品検索”より楽曲の権利者を調べられる

NexToneのホームページ。画面右側の“作品検索”より楽曲の権利者を調べられる

NexToneのホームページ。画面右側の“作品検索”より楽曲の権利者を調べられる

 JASRACとNexToneの検索結果の画面上で“配信”欄にどちらも“×”がついている場合、楽曲を管理している音楽出版社または作詞者・作曲者から直接許諾をもらわなければなりません。これはちょっと面倒ですが、JASRACに聞けば、連絡先を教えてくれます。かなり稀なケースですが、可能性としてはゼロではありません。したがって、上記の方法で自分が歌う楽曲が誰によって管理されているかを事前に調べましょう。

2. カラオケ音源はどうやって入手すればいいの?

 カラオケ音源を作成した人には、著作権法上、著作隣接権という権利が与えられています。したがって、市販用のCDや配信音源、カラオケボックスのカラオケ音源を利用する場合、音源の権利者から許諾をもらう必要があります。しかし、高額なライセンス料を要求されたり、申請が拒絶されたりするため、あまりお勧めしません。なお、第一興商は「DAM★とも」、エクシングは「うたスキ」という登録制または会員制SNSサイトを提供し、一定の条件の下でカラオケ音源の利用を認めていますが、利用方法がかなり制限されているので、ここでは説明を省略します。

 適法に利用できるカラオケ音源の入手方法としては、①自分でカラオケ音源を作成する、②サイト上で利用許諾されているカラオケ音源を利用する、③他人にカラオケ音源を作成してもらう、が挙げられます。①は費用がかからないのでお勧めですが、楽器が弾けないと無理ですし、時間と労力がかかります。②は自分の歌いたい楽曲のカラオケ音源が利用許諾されていなければなりません。したがって、多くの人にとっては、③の「他人にカラオケ音源を作成してもらう」が現実的な選択肢になるでしょう。

 最近では、個人でカラオケ音源の作成を請け負う人がかなり増えています。個人クリエイターに依頼する場合、1曲あたりの制作費の相場は15,000~30,000円のようです。クリエイターによってカラオケ音源のクオリティが異なりますので、クリエイターのサイト上にアップされているサンプル音源を聴いたり、事前に問い合わせたりして、依頼するクリエイターを慎重に選ぶようにしましょう。なお、作成してもらったカラオケ音源の権利は、作成者が保有しています。そのため、納品されたカラオケ音源を無断で複製して、他人に販売することはできませんので、注意しましょう。

3. どんな動画サイトでも歌ってみた音源をアップしていいの?

 JASRACとNexToneは、YouTubeやニコニコ動画、Instagram、TikTok、Facebookといった動画投稿サイトの運営者と包括利用許諾契約を締結しています。したがって、JASRACまたはNexToneが配信について管理している楽曲を歌唱した動画をこれらのサイトに投稿する場合、JASRACやNexToneから許諾をもらう必要はありません。自由に投稿することができます。ちなみにJASRACは包括利用許諾契約を締結している動画投稿サイトの一覧をウェブサイトで公開していますので、参考にしてください。

 なお、利用者が非常に多いTwitterは、JASRACとNexToneのどちらとも包括利用許諾契約を締結していません。したがって、Twitterに歌ってみた動画を投稿する場合、投稿者は楽曲の著作権を管理している音楽著作権管理事業者(JASRACまたはNexTone)に使用申請して、著作権使用料を支払う必要があります。使用料規程は各事業者のサイトに掲載されていますので、参考にしてみてください。

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安藤和宏

安藤 和宏
高校教諭、音楽出版社の日音、キティミュージック、ポリグラムミュージックジャパン、セプティマ・レイ、北海道大学大学院法学研究科特任教授を経て、現在は東洋大学法学部教授。専門は知的財産法、音楽ビジネス論。著書に『よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編6th edition』、『よくわかるマルチメディア著作権ビジネス(増補改訂版)』などがある。

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