相対性理論、tamanaramen、SAKA-SAMAなどを手掛ける、ミキシング・エンジニアの米津裕二郎氏。彼がすべてのエンジニアに使ってほしいと語るのがDAW用のアプリケーションSoundFlowだ。DAW内にマクロを組むことで作業を効率化し、エンジニアリングを行う上でのストレスを減らし、作業時間の短縮にもつながるものだという。導入することでそれまでと何が変わるのかについて話してもらった。
米津裕二郎
【Profile】相対性理論など多方面のアーティスト作品、CM楽曲、劇伴、海外映画の日本語ローカライズ版音声ミックスを手掛けるエンジニア。prime sound studio form所属(Twitter:@yujiroyonetsu)
※noteにて、SoundFlowの自作スクリプトなどを公開中
SoundFlowとは?
SOUNDFLOW APSが開発するアプリケーション。DAW内の作業を、マクロやスクリプトにより自動化する。作成したショートカットは、コンピューター上での操作のほか、タブレットやELGATO Stream Deck(ページ上部のトップ画像)などをコントローラーとして扱うことができる。利用には月額料金が必要で、全4プランを用意。最も利用されているPro版は月額9.99ドルとなっている。
米津裕二郎が実践するSoundFlow使用例
SoundFlowは、基本的にAVID Pro ToolsなどのDAW操作に特化したアプリで、Pro Tools内部にマクロを組んで操作することが可能となるもの。つまり“これをした後にあれをやる”というようなワークフローの登録ができます。今まで似たようなアプリケーションもあったのですが、SoundFlowでは、より柔軟に自分がこうしたいと思うことをプログラミングして構築することが可能です。
具体的に何ができるかと言えば、Pro Tools内でできる操作はすべて自動化できると言えます。実際にスクリプトを書いて作成していくことになるのですが、プログラミングが分からなくても安心してください。SoundFlowのWebページにある“STORE”というスペースに利用者が作ったものがアップされているので、自分の使いたいものを探してダウンロードすればOK。また使い方で困ったことがあれば、質問できるFORUMも用意されています。
Plugin Loaderでプラグインを手軽にアサイン
SoundFlowは、使っても音が良くなるものではありません。ただ、3手かかっていたものを1手にする、画面上の小さなボタンを押す手間を省く、何度も行うような操作をワンタッチにするなど、一瞬手を止めてしまうようなことがなく音に集中し続けられるので、作業の中で生まれる直感を生かすことができます。例としては、プラグインを画面上に表示させ、ワンタッチで挿せます。マウスで選択する手間が省けますね。
Noise Cutで気になるノイズをすぐにカット
また、ミックス中に“あれ? 今の部分ノイズが気になるな”といったことはありませんか。そんなときのために、Audio SuiteでIZOTOPE RXなどのノイズ除去プラグインを指定した部分にワンタッチでかけられるようにしています。クリエイティブさを損なわず、シームレスな作業が可能です。
Auto Stemで複数のステムを自動作成!
私が作った中で特に使ってほしいのが、自動でステムを作成するスクリプト。エンジニアにとって、ステムの作成はミックスの最終段階で必須の作業です。パートをソロにして作成を待ち出来上がったら次のパートを……と機械的な作業の上、膨大な時間がかかります。SoundFlowを使えば、各パートのグループを作成し名前を付け、タイムラインを選択するだけ。あとは待っているだけでステムの完成となります。スクリプトを改良して、ステムが完成したらスマホに通知が来るようにしましたので、今までPro Toolsに張り付いていなければいけなかった時間を有効に使うことができます。
我々がひたむきに時間をかけるべきなのは音楽に対してであって、機械的な作業にその必要はありません。そういった作業はなるべくオートに任せて、身体を休めたり、食事をとったり、明日のセッションの準備を行うことで、結果として仕事のクオリティは上がるでしょう。音を変えるというよりは自分を変えるためのものですね。
このように大変便利なSoundFlow、ぜひ皆さんも使ってください。こういうものが欲しい!というご意見があれば私のTwitterにお寄せください。私が作ります(笑)。この便利さが広まって、ひいては日本の音楽文化の向上につながればうれしいです。