現代の音楽制作に無くてはならないソフト音源。オールマイティに使えるものから特定のジャンルを象徴する製品、他者との差別化を図れる斬新な音源までそろい、まさに百花繚乱です。そうした数多くの選択肢の中から、プロの現場でリアルに重宝されているものとは何なのでしょうか? 本特集では、著名クリエイター18名に“マイ定番ソフト音源”を挙げていただき、その活用方法を語ってもらいます。
Kei Sugano(Dazzle Drums)
[Kei Sugano(写真右)]Nagi(同左)とともにDazzle Drumsで活動し、シンセや空間系エフェクトが複雑に絡むハウス/テクノを手掛ける。海外の老舗/有力レーベルから多数の作品を発表。2010年以降、Green Parrot Recordingを主宰する
AIR Vacuum Pro
AIR Vacuum Pro
(149.99ドル)
オシレーター、ミキサー、フィルター、アンプに真空管回路のモデリングを備えるポリフォニック・シンセ。AとBの2つの独立したパートを持ち、それぞれに2オシレーターのシンセを搭載しています。各パートの音はレイヤーやスプリットが可能で、ベースはもちろん上モノの作り込みにも有用。エンベロープ・ジェネレーターは、2基のフィルター・エンベロープ、アンプ・エンベロープ、アサイナブルなものの計4基を備えています。LFOやモジュレーション・マトリクスのほか、ダブリングやコーラス、フェイザー、ディレイといった内蔵エフェクトもスタンバイ。これらを駆使し、独特のアナログライクなサウンドが得られます。
真空管回路をモデリングした“うねり”のある音
ほかには無い世界観にインスパイアされます
自分は同じ音源を使い倒すのが好きなのですが、あまり聴かない音楽を掘るのと同じようにしてこのシンセに出会い、シーケンスを組んだときのサウンドや画面のデザイン、それまで使っていた音源とは異なる世界観にインスパイアされました。名前の通り真空管回路のモデリングが計6つ備わっていて、うねりのある音が特徴。ベースやパッドの音色はビンテージ感をまといつつファットで、例えばミッドベース(サブベースに重ねるための中域レイヤー)を作る場合は、画面右上のDOUBLEボタンでダブリングをかけると効果的です。ドラムンベースやプログレッシブ・ハウスなどで聴ける、あのザラザラとした質感が得られます。ダブリングのほかコーラスやディレイも備え、使用の際はデフォルトのままか、後の処理を見越してミックス・バランスを0~20%辺りに設定。オーガニックなパーカッション・サンプルなどとも相性が良く、ハウスからテクノ、ヴァンゲリス・サウンドのような電子音楽まで、さまざまな分野に対応するでしょう。
構造については、2オシレーターのシンセを2つ搭載したシンプルな設計で、各パートのプリセットを組み合わせれば予想外の音に巡り会えることも。筆者は好みのプリセットを決めてから、ローパス・フィルターやエンベロープ・ジェネレーターで変化を探ります。そしてABLETON Liveのオートメーションで各パラメーターをいじり倒して、思いがけない音を得るような感じです。ただし意外とCPUパワーを消費するので、シーケンスを組み終えたらフリーズするか、これはハードウェア・シンセの演奏を録ったものだと仮定し、思い切ってオーディオに変換しています。
この曲で活躍!
Vacuum Proを多用しています。例えばキックと一体のサブベース、Analog Bassというプリセットにローカットを入れてリアルタイムに打ち込んだミッドベース、ローカットしたThumping Bassで作ったアルペジオなど。パッドもしかりで、Dawn The Day AfterやWhispering、Monsterといったプリセットにオートメーションを描き、変化を付けつつレイヤー。メロディはWarm Hearted Leadで鳴らしています。
製品情報
DAWに立ち上がる“マイ名機”の使い方
これが私の定番ソフト音源!
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