リボン・マイクでレコーディングする方法〜マイクの立て方&使い方を解説

リボン・マイクでレコーディングに挑戦! マイクの立て方、使い方を学びましょう。講師はサンレコでおなじみのエンジニア、中村公輔。シンガー・ソングライター、あがさにも協力していただきました。ぜひマイキングの参考にしてください。

各マイクの音源試聴はこちら

リボン・マイクはどう立てる?

  それでは、実際にリボン・マイクを立てて音質をチェックしていきましょう。今回はWARM AUDIO WA-44とAUDIO-TECHNICA AT4081の2機種をテスト。比較やブレンドで使用するため、コンデンサー・マイクのAKG C414 XLIIも用意しました。録音ではSHEP 31102(NEVE 1081タイプ)をマイクプリとして使い、APOGEE Symphony I/O MKIIを経由してAVID Pro Toolsに録ります。ガット・ギターとボーカルのテストには、すずめのティアーズのあがささんに協力していただきました。

 WA-44は1930年代に製造された伝説のマイク、RCA 44BXのコピー・モデルです。44BXは1950年代まではオールマイティに使われていたマイクなので、基本どの楽器にも合うと思います。ビンテージ・タイプのコンデンサー・マイクを使ってみて、“音がハイファイすぎてイメージと違う”と思った方は、頭の中で思い描いているのがWA-44(=44BX)のサウンドの可能性が高いです。

WARM AUDIO WA-44

今回使用したWARM AUDIO WA-44。リボン・マイクを代表するRCA 44BXを元に設計されたモデルだが、44BXではアルニコ・マグネットが使用されていたのに対し、WA-44ではより磁力が強く耐久性も高いネオジム・マグネットを採用するなど、現代的なアップデートが施されている

 WA-44を扱う際の注意点としては、重量が2.8kgと結構重いので、ブーム・スタンドで角度をつけて立てるとお辞儀してしまうこと。当時のレコーディング写真では、上からつるして狙う形の設置が多いですが、鉄アレイが下についているような形の重量級のマイク・スタンドを使わない限り倒れてしまいます。ストレートのスタンドを使うか、脚部が重めのブームであまり角度をつけないで使うのが安全です。

 AT4081はモダンな設計のリボン・マイクで、ファンタム電源を供給して使うアクティブ・タイプです。リボン・マイクは感度が低くノイズを拾いやすいですが、近年ではコンデンサー・マイクのようにプリアンプを搭載するAT4081のようなアクティブ・タイプが登場したことで、その問題を解決できるようになりました。従来のパッシブ型でもインライン・プリアンプを使えばマイクの近くでゲインを稼ぐことはできますが、やはり内蔵されているというのは便利です。また、携帯電話などからのノイズを防ぐため、RF対策が強化されているのも現代的。吹かれなどに気をつければ、ダイナミックやコンデンサー・マイクと同じような感覚で使えるので、選択肢を広げられます。

AUDIO-TECHNICA AT4081

WA-44と共に使用したAUDIO-TECHNICA AT4081。小型ながら内部にプリアンプを備えたアクティブ・タイプで、パッシブ・タイプのリボン・マイクと比べると出力も大きく、その分SN比も良くなるため録音時には扱いやすいと言える。電波干渉の対策が施されているのもうれしい

重心の低さが現代に向いているかも

 まずはガット・ギターから試していきましょう。やはりコンデンサー・マイクと比べると深みのある音で、聴きたいところだけエフェクトをかけて削り出したかのような感覚がありますね。それでいて自然。WA-44はかなり重心が低く、リッチで奥行きのあるサウンドになりました。オリジナルの44BXと比べて音が甘すぎないので扱いやすさがありますね。C414 XLIIはローカットを入れずに録っているので、“ボコッ”という足音が入っていますが、WA-44だと聴こえません。“人の耳が聴いている音”を録音している感じがしますね。

ガット・ギターをWA-44で収録

ガット・ギターをWA-44で収録。ギターに向けて少し傾けているが、リボン・マイクは重量がある製品も多いため、マイキング時は安定性に考慮して設置しよう

 一方のAT4081はもう少し重心が高いです。アルペジオを録る際はビンテージのマイクプリでかなりゲインを上げたので、ヒス・ノイズがうっすら乗っています。もう少しクリアなモデルで録音してもよかったかもしれませんが、そのノイズの感じも含めてニック・ドレイクのような質感で録音できたので、個人的にはアリだと思いました。

AT4081でギターを狙っている様子

AT4081でギターを狙っている様子。最初はネック・ジョイント部あたりを狙い、モニタリングしながら前後左右へ動かしてマイク位置を調整してみるとよいだろう

 コンデンサー・マイクではアタックがよく見えて、ザラザラした粒子感が少し付加されるのに対して、WA-44とAT4081では非常に自然で粘り気のあるサウンドになりました。コンデンサー・マイクで思った音が録れないとき、リボン・マイクを立てると一発で解決するケースも多いと思います。また、今回は同位置に立てたC414 XLIIとWA-44またはAT4081をブレンドしたミックスも作成してみました。

WA-44とAT4081に加え、コンデンサー・マイクのAKG C414 XLIIを並べてギター録り

WA-44とAT4081に加え、コンデンサー・マイクのAKG C414 XLIIを並べてギターを録ってみた。ハイファイなコンデンサー・マイクとメロウなリボン・マイクをブレンドすることで、EQとは違った音作りをすることが可能だ

 次にボーカルを試してみました。WA-44ではかなりシックで落ち着いた雰囲気に。高域はC414 XLIIに比べてガクッと落ちますが、こもった感じは一切なく自然な抜けを感じました。リボン・マイクは基本的に双指向性なので背面からの回り込みがあります。そのため、単一指向性のコンデンサー・マイクで録音したボーカルはスピーカーに張り付いたような近さを感じますが、双指向性のリボン・マイクは適度な空気感があり、リバーブなしでも立体感がある音になります。特にアコースティックで小編成のバンドにはマッチするサウンドでしょう。

歌録りでWARM AUDIO WA-44を立てた様子

歌録りでWARM AUDIO WA-44を立てた様子。堅牢そうな見た目だが、リボン部は吹かれに弱いので、ポップ・ガードは必須!

 AT4081は、“日本人アーティストを録音するために作られたのでは?”と思うほど、過不足なく良い感じに録音できました。特に女性ボーカルはコンデンサー・マイクだと倍音が気持ち良く付加される代わりに、キンキンした痛い部分も持ち上がってしまう傾向があります。通常はその部分をダイナミックEQやフェーダー操作で細かく処理していきますが、最初から処理後の音を聴いているような感覚になりました。さらにエフェクトでやるよりも自然。ザラつきや高域のエア感を求めてコンデンサー・マイクを使うことが多いですが、音楽性によってはリボン・マイクのほうが自然にまとまることも多く、特に重心を低くするのがトレンドの現代の音楽にはマッチしそうです。1本持っていると、音楽性の拡張に役立つかもしれません!

AUDIO-TECHNICA AT4081で歌っている様子

AUDIO-TECHNICA AT4081で歌っている様子。アクティブ・タイプなので48Vファンタム電源が必要となる

解説:中村公輔

中村公輔

【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。近年は、折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子、さとうもか、シバノソウ、ツチヤニボンド、ルルルルズらのエンジニアリングで知られる。アーティスト活動も行い、neinaの一員としてドイツ名門の電子音楽レーベル=Mille Plateauxなどからエレクトロニック・ミュージックの作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。著書に『マイク録音が一冊で分かる本』(小社刊)など。

協力:あがさ

あがさ【Profile】ビートルズ・マニアのシンガー・ソングライターで、ガット・ギターの名手。DOYASA! Records主宰。佐藤みゆきと共に“すずめのティアーズ”としても活動する。すずめのティアーズは、バルカン風の地声ハーモニーとブラジル風ギター・ワークを中心とした、シンプルながらひねりの効いたアコースティック編曲で日本、バルカン、シベリアの民謡/俗謡を歌う。今年3月に1stアルバム『Sparrow's Arrows Fly so High』を発売。

 

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