リボン・マイクの魅力を歴史とともに振り返る!使用上の注意点も解説

サンレコでおなじみのエンジニア中村公輔に、リボンマイクの魅力を歴史を振り返りながら解説していただきました。使用上の注意点も要チェックです。

後処理不要で甘いサウンドが得られる

  1950年代のアメリカ黄金期、映画やロックンロールのレコーディングでは必ずと言っていいほどにリボン・マイクが使われていました。例えば、エルヴィス・プレスリーのレコーディング写真ではRCA 44BXが立っています。しかし、リボン・マイクはドイツ製のコンデンサー・マイクの登場によって徐々にシェアを奪われていきました。恐らくその理由は、テープへの録音では高域がなまるので、ブライトに録音できるコンデンサー・マイクのほうが好まれたからだと思います。

 リボン・マイクは耳に痛い高域が減って甘く聴こえるため、人間の耳で聴くのに合っていますが、テープに録音すると高域が2段階減ってしまうことになります。しかし、近年デジタル・レコーディングが主流になり劣化が少ない録音環境が整うと、これまでのやり方では高域が強すぎるという話が出てきました。そこで、録音するだけで柔らかい音が得られる便利なマイクとして、リボン・マイクが再評価されるようになったのです。

 また、リボン・マイクはコンデンサー・マイクと比べると、適正な録音レベルにするためにマイクプリである程度のゲインを稼いであげないといけないので、安価な機材だとノイズが増えてしまう問題もありましたが、近年機材が進化して、SN比が良くなったことも導入の追い風になっていると思います。

 コンデンサー・マイクが主流になった後でも、ビートルズやピンク・フロイドがドラムにCOLES 4038を使っていたり、アル・グリーンがボーカルやホーンにRCA 77DXを使っていたりと、リボン・マイクは要所で重宝されてきました。それは耳に痛く感じやすいソースを甘くソフトな音に変えることができるという、エフェクトのような効果を期待できるからでしょう。コンデンサー・マイクで録音した後にEQやフィルターで高域を削っても似たような雰囲気になりますが、少し窮屈で狭い感じの印象になりやすいです。しかし、リボン・マイクで録音すると後処理を必要とせず、音抜けの良さも全然違います。

使用上の注意点とは?

 筆者がエンジニアを務めたツチヤニボンド『3』では、ドラムのオーバーヘッドに4038を使ったところ、シンバルの耳につく部分が完全になくなって、最初から心地良い音が得られました。

 また、折坂悠太『心理』では、アコギとエレキギターにROYER LABS R-121、サックスにRCA 44DX、ドラムのアンビエンスに4038、タムにBEYERDYNAMIC M 160を使用しています。これらは、コンデンサー・マイクよりも重心の低い音にするため、もしくはコンデンサー・マイクの音とブレンドして太さや甘さを足すために使いました。

 これはスティーヴ・アルビニもよく使っていた手法で、明るいコンデンサー・マイクとダークなリボン・マイクを1本ずつ立てて混ぜることで、EQで調整するよりも自然で抜けの良い音のまま、音色のキャラクターをコントロールできます。

 ギター・アンプに対してリボン・マイクを使うと、耳に痛いところが全部消える魔法のエフェクターのような効果が得られるので、皆さんにもお勧めしたいです。しかし、リボン・マイクはものすごく薄いアルミ箔で音を拾う構造ですから、風圧で切れてしまいます。そのため、大音量のソースや風が当たるようなソース(ボーカル、キック、管楽器など)では十分に距離を取るか、ポップ・ガードなどを使ってマイクを守りましょう。ブースのように密閉された空間では、ドアの開け閉めなどもソフトに行うか、使わないときは布製のカバーなどをかけておいたほうが良いかもしれません。

 さらに、リボンのたわみに癖がついてしまうと周波数特性が変わってしまうので、保管の際にはマイクを寝かせて置かないようにしましょう。マイクを使うときにも、なるべく水平には設置しないようマニュアルに書いてあるものもあります。また、コンデンサー・マイクと違い基本的にファンタム電源は必要としないので、うっかりオンにしないように気をつけてください。アクティブと明記してあるモデル以外だと破損の原因になります。

中村公輔

中村公輔
【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。近年は、折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子、さとうもか、シバノソウ、ツチヤニボンド、ルルルルズらのエンジニアリングで知られる。アーティスト活動も行い、neinaの一員としてドイツ名門の電子音楽レーベル=Mille Plateauxなどからエレクトロニック・ミュージックの作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。著書に『マイク録音が一冊で分かる本』(小社刊)など。

 

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