リボン・マイクの仕組みを解説!

リボン・マイクの仕組み

リボン・マイクは、どんなパーツで構成されて、どのように音が電気信号へと変換されているのか? その仕組みについて、音響ハウスのテック・エンジニアである須田淳也に解説いただいた。貴重なRCA 77DXの内部写真とともに紹介しよう。

耐入力と高域特性のバランスが重要

 よくサンレコでは“マイクは大きく分けてダイナミック/コンデンサー/リボンがある”と説明していると思いますが、実はリボン・マイクもダイナミック・マイクの一種です。

 ただ、一般的にダイナミック・マイクと呼ばれるものは、ムービング・コイル型という構造のものを指しています。入力音が振動板を動かし、内部のコイルとマグネットの動きによって電気信号が出力され、最終段のトランスでインピーダンス変換がされる、という設計がムービング・コイル型。一方のリボン・マイクは、数µmほどの薄いアルミニウムでできた“リボン”を磁石の間につり下げ、入力音がそのリボンを動かすことで電気信号を生みます。

ダイナミックマイクの仕組み

音が振動板を揺らし、それによって磁石の中にあるコイルが動くことで、電気信号を発生させるムービング・コイル型のダイナミック・マイク。衝撃や湿度にも強い頑丈な構造だが、コンデンサー・マイクと比べると感度は低く繊細な表現を苦手とする場合が多い

 また、コンデンサー・マイクは振動膜(メンブレン)と固定電極の間がピコファラド(pF)という非常に小さな値の静電容量のコンデンサーとして動作し、入力音で振動膜が動くことでその電気の容量が変わる、という原理を利用しています。コンデンサーのために電圧をかける必要があるのと、内部にプリアンプを備えるため、コンデンサー・マイクは外部電源が必要です。

コンデンサーマイクの仕組み

振動膜と固定電極の間は電気を貯めるコンデンサーの役割を担い、振動膜が動くことで電圧が変動する。その微細な変化を音声信号として出力するのがコンデンサー・マイクだ。振動膜の可動域は制限があるため、ピンと張られた状態になっており、それが音のコンプレッション感にもつながっている

 ダイナミック・マイクとリボン・マイクは、基本的にはプリアンプを内蔵していない“パッシブ・タイプ”のため、出力信号は小さくなります。特にリボン・マイクはその構造から電圧も低く、ダイナミック・マイクより出力信号が小さいモデルも多いです。パッシブ・タイプよりは少ないながらも、ROYER LABS R-122など、内部にプリアンプを備える“アクティブ・タイプ”のリボン・マイクも存在します。ちなみに、WESTERN ELECTRICやRCAなどのリボン・マイク草創期のモデルは、内部にとても大きなマグネットを搭載していて筐体が大きいものが多いです。それはマイク本体の鳴りを生かすチェンバー効果と、大型マグネットで電圧を稼いで信号を大きくするという目的があったためでした。

 ダイナミック・マイクはコンデンサー・マイクやリボン・マイクに比べて振動板が重く、その分反応も鈍くなるのでディティールまで捉えにくいという傾向があります。コンデンサー・マイクは微細な静電容量の変化で音を捉えるので、より繊細に音を表現できることが多いです。

 ではリボン・マイクがどうなのかというと、非常に軽いアルミニウムのリボンが前後に揺れて音を捉えるという原始的な構造なので、“ストレート”や“素朴”という印象の音になります。ただ、大きな音圧が加わるとリボンが伸びてしまうことがあるため、使用時は注意が必要です。耐入力を上げるためにはリボンを大きくするなどの対策が考えられますが、そうすると重さも増えるため、リボンの動きが悪くなることで感度や高域特性が下がってしまいます。その耐入力と高域特性の兼ね合いを考えて各社がリボンの大きさなどを考えているわけです。

 多くのビンテージ・リボン・マイクは15kHzくらいからロールオフしていますが、リボン・マイクがよく使われた時代はラジオやテレビでの使用がメインで、当時の放送技術的にもそれくらいの帯域で十分だったという背景もあると思います。

リボンマイクの仕組み

音圧に追従して磁界の中のリボンが振動することで電気信号を生み出すリボン・マイク。ダイナミック・マイクやコンデンサー・マイクと違い、リボンの背面側を塞ぐものがなく、可動域にある程度ゆとりがあるため、入力音に対してリニアに反応するのが特徴だ。リボンの表面/背面の両側から収音されることになるので、多くのリボン・マイクは双指向となっている。リボンの動く速度で音を捉えるため、ベロシティ型とも呼ばれる

蛇腹状の折り目がつけられたリボン

RCA 44BXの 分解イメージ

  上掲のイラストは、RCA 44BXのパーツを簡易的に表したものです。ビンテージも現代のモデルも、リボン・マイクは概ね同じような構造となっていますね。❶が永久磁石、❷がリボンで、リボンは蛇腹状の折り目(コルゲーション)がつけられています。こうすることで表面積が大きくなり、ある程度の音圧が入ったときに伸び切ってしまわないようなゆとりが生まれるんです。ROYAR LABS R-121などの小型なリボン・マイクもありますが、そういう製品の磁石にはネオジム・マグネットというものが採用されています。RCAのマイクはアルニコ・マグネットで、アルミ、ニッケル、コバルトの合金です。ネオジム・マグネットはそれよりも非常に強い磁力を有しているので、R-121くらい小型でも十分に発電できるというメリットがあります。

 ❸のメッシュはリボンを吹かれから守る役割も果たしますが、音質チューニングも兼ねています。また、RCAのマイクなどでは内部にウール素材の綿のようなものが入っていて、そちらも吸音や制振に寄与していたようです。スピーカーのエンクロージャーの中にもグラスウールなどが入っていたりしますが、同じ目的ですね。また、リボン・マイクの多くは双指向性ですが、RCA 77DXでは指向性を調整するシャッターが搭載されていました。リボンの背面側にシャッターがあり、それを回転させてリボン部分を塞ぐことで背面側からの収音を抑えることが可能です。

指向性を調整するシャッター

指向性を調整するシャッター。77DXは可変指向性のリボン・マイクで、リボンの背面側をシャッターで塞ぐことで、単一指向〜双指向〜無指向のようにマイクを使用することができる。手前にある2本の線は、リボンで受け取った信号をトランスまで送るエナメル・コーティングのワイヤーだ

何を録るのかに気をつける

 リボン・マイクは取り扱いや保管が難しいという印象を持たれている方が多いと思います。実際、高い音圧や吹かれによるリボンのダメージには注意したほうがよいです。ただ、例えば湿度に関してはコンデンサー・マイクよりも強いと言えます。コンデンサー・マイクの振動膜はPVCやPETなどのフィルム素材でできており、それが湿気を帯びてしまうと固定電極へくっついてしまうことがあります。また、振動膜の金蒸着が劣化する場合もあるため、デシケーターなどで保管することが大切です。

 一方のリボン・マイクはシンプルな構造であり、リボンに使われるアルミニウムも湿度には強いです。横に置いておくとリボンが伸びる……という話もありますが、リボン自体はとても軽いので重力による影響はあまりないと考えていいと思います。ただ昨今の日本の気候的にも、デシケーターできちんと管理するのがお勧めです。

伸びたリボン

須田がメインテナンスを行う前のRCA 77DXの内部を見せてもらった。写真中央の細長いパーツがリボンで、伸びてしまってたわんでいるのが見て取れる。円環状になっている大きなパーツが永久磁石だ。その下部左右には綿のようなものが詰められており、吸音や制振で音響調整がされている

 保管に関してはコンデンサー・マイクよりも気を遣わなくてよいですが、大切なのは“何を録るのか”だと思います。大きな口径のキックや大音量のベース・アンプなどの音圧で使い続けるとリボンが伸び切ってしまい、きちんと張られていない波打ったような状態になってしまう可能性があります。これは昔のリボン・マイクも現代のリボン・マイクも同じです。通常の使い方であっても、長年の使用による劣化でリボンは伸びていくので、極端に言えばリボン・マイクは消耗品と言えます。メーカーのサービスによってはリボンを張り替えてもらうことが可能です。

交換用リボン

交換用リボン。写真では見えにくいが、このケース内部に77DXが作られていた当時のリボンが保管されている。須田はリボンの長さや張力、角度などに注意しつつ張り替え作業を行うという

 リボン・マイクの面白みは、リボンの動きで音を捉えるという素朴でシンプルな構造にあると思います。コンデンサー・マイクに比べれば情報量は少ないですが、やはりボーカルの帯域にはリボンならではの魅力が現れていて、音像の大きさや音の濃さ、際立つ中低域の厚みというのはほかのマイクにはないものです。

 

須田淳也

須田淳也
【Profile】大の音楽好きのテック・エンジニアで約30年のキャリア。とりわけビンテージ機材に強く、マイクをはじめ、修理するだけではなくオリジナルの良さを生かしたチューニングも行う。さらに機材販売やビルの構造管理まで受け持つ、何でも屋的な立ち位置。

 

 

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