元DJという経歴を持つ茨城出身のビート/ループ・メイカー/音楽家、TRILL DYNASTY。2021年には自身が手掛けた楽曲、リル・ダーク『The Voice』が全米ビルボード1位を獲得して一躍脚光を浴びた。そんな彼が、クラブ/ライブ・ハウス、アパレル・ショップが多く立ち並び、若者カルチャーの流行発信地とも言える渋谷にONENESS STUDIOを新設。常に世界の音楽シーンを見据える彼は、一体どんな思いでこのスタジオを立ち上げたのだろうか。
アーティストが来やすい場所というのがポイント
駅周辺の大規模な再開発も記憶に新しい渋谷。そんな街に茨城のスタジオとはまた別となるONENESS STUDIOを設けた理由について、TRILL DYNASTYはこう話す。
「例えば、来日する海外アーティストや東京周辺で活動するアーティストたちと“一緒に曲を作りましょう”となったとき、わざわざ茨城にあるスタジオまで来てもらうのはハードルが高いと思うんです。アーティストのことを考えると、サクッと立ち寄れる方が便利じゃないですか。だから都内……特にヒップホップ系のクラブが多い渋谷にスタジオを作ったんです。実際、アーティストがライブ後に来てくれたり、その流れでセッションしたりすることもあります。海外アーティストも来日時は渋谷で公演することも多いですしね」
これまでスタジオは茨城のみだったため、主にツアーなどで現地を訪れたアーティストたちとしかスタジオ・セッションができなかったというTRILL DYNASTY。今回、渋谷にスタジオを設けたことは大きなアドバンテージとなったそうだ。スタジオの壁にはJP THE WAVYやZeebra、AIなどの手書きサインが残されているのがその証拠だろう。これと同時に、スタジオ内は防音施工されていることに気づく。この点について、TRILL DYNASTYに話を聞いた。
「スタジオ施工については、詳しい知人にノウハウを教えてもらいながら仲間たちとDIYで行いました。なるべく平行面を減らして、床や天井、壁にはグラスウールを詰めたり、拡散材を入れたりしています。スピーカーの後ろ側には、拡散パネルのQRD Skylineを設置し、SONARWORKS SoundID Referenceで補正もしているんです」
モニター・スピーカーには、3ウェイ・タイプのFOCAL Trio6 Beを設置。導入理由についてはこう述べる。
「このスタジオではミックス・チェックも行いますが、どちらかというとボーカル録りとビート・メイキングを主な用途として考えています。なので“制作時にテンションが上がる音”という視点でスピーカーを探した結果、Trio6 Beになったんです。サブウーファーのECLIPSE TD520SWも導入して良かったですね! これがあるのと無いのとでは、ローエンドの見え方が全く違います。特に20Hz付近の帯域がよく見えるようになったので、TR-808系キック・ベースのオーディオ・サンプルを選ぶ際のスピードがとても速くなりました」
Komplete Kontrol S61 MK2を愛用
TRILL DYNASTYがスタジオにある機材で次の話題に挙げたのが、MIDIキーボード・コントローラーのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61 MK2だ。
「これまでM-AUDIOのMIDIキーボードを何台も使い倒してきたんです。というのもピッチ・ベンド・ホイールがすぐ折れてしまうので、壊れたら次のモデルを購入していたんですよ。そんな中、前々から気になっていたKomplete Kontrol S61 MK2を試したところ、これが大ヒット。ピッチ・ベンド・ホイールが全然壊れないんです。また、自分はKomplete Kontrol S61 MK2の鍵盤をたたいてドラム・パターンを打ち込むんですが、鍵盤のタッチもちょうどいいので愛用中ですね。今まで使ってきたものの中では一番しっくりきています!」
お気に入りのソフト音源としては同社のソフト・サンプラーKontakt用ライブラリー、ORANGE TREE SAMPLES Evolution Jazz Archtopを紹介してくれた。
「ジャズ・ギターのサウンド・ライブラリーなんですが、とても生っぽく、ブルースのギター・ソロとかにも登場しそうな“おいしい音”がたくさん収録されています。これまでひたすらお金をかけていろいろなギター系ソフト音源を探してきましたが、Evolution Jazz Archtopが一番お薦めですね。4年間くらい秘密にしてきましたが、もういいかなと(笑)。それこそリル・ダークやリル・ベイビー、マネーバッグ・ヨーの楽曲に登場するような哀愁系のギターにぴったりです」
「アーティストとのリアルなつながりが大事です」というTRILL DYNASTY。今後については、渋谷のONENESS STUDIOを拠点に、ループ・メイカーではなく音楽家/プロデューサーとして幅広く活動していきたいと話す。
「自分がループ・メイキングを始めた頃は、まだ日本のループ・メイカー人口が少なく、海外アーティストからも珍しがられていた時代でした。しかし今は飽和状態。加えて、海外にもループ・メイカーが腐るほどいます。昨年、Def JamやAtlantic、We The Best Music Groupといったアメリカのレーベルへ行き、現地の音楽家たちとセッションして感じたのは、ループ・メイキングだけじゃなくアレンジやミックスといったプロセスまで“自己完結できる人”じゃないとだめだということ。ループ・メイカーだと立ち位置が弱いんです。なので今後はループにこだわらず、曲全体にも携わるビート・メイカー/音楽家として展開していこうと考えています!」
Equipment
DAW System
Computer:APPLE Mac Mini
DAW:ABLETON Live、AVID Pro Tools、IMAGE-LINE FL Studio
Audio I/O:AVID Pro Tools|Carbon
Controller:DIGIDESIGN Icon D-Control、NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61 MK2
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:FOCAL Trio 6 Be、ECLIPSE TD520SW、IK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitor
Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-M50X
Cue System:DIGIDESIGN Icon Xmon
Microphone:PELUSO P-67、WARM AUDIO WA-8000
Outboard & Effects
Mic Preamp:HERITAGE AUDIO HA-73 EQX2 Elite、N-TOSCH HA-S149
Compressor/Limiter:KLARK TEKNIK 76-KT、UNIVERSAL AUDIO 1176LN、WARM AUDIO WA76
Multi-Effects:SSL Fusion
Others:SPL MixDream Model 2384
Instruments
DJ Tool: PIONEER DJ CDJ-3000、DJM-S11、DDJ-1000-OW
TRILL DYNASTY
2018年にDJから作曲家に転身。2021年には自身が手掛けたリル・ダーク『The Voice』で全米ビルボード・ヒップホップ/R&Bチャート1位を獲得した。同年8月にはEST Geeの「In Town feat.リル・ダーク」の制作に携わり全米ビルボード・ヒップホップ/R&Bチャート5位を獲得。
Recent Work
『Dear』
Dowg & TRILL DYNASTY
(ONENESS STUDIO)
次に欲しい機材は…?
普段の制作スタイルは基本的に“イン・ザ・ボックス”なので、特にこれといって無いのですが、強いて言うなら新しいオーディオ・インターフェース。アメリカでセッションしたときによく見かけたのはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinシリーズだったので、最新版のApollo Twin MKII Duo Heritage Editionが欲しいですね。バンドルされるUADプラグインも魅力ですが、高音質のI/Oをコンパクトに持ち歩けるという点もうれしいです。